自分の気持ちを言葉で伝える



 「みなっち」こと藤崎美奈子は、マンガ家、40歳、夫いるけど子どもなし。「経験をたくさんつんでなにかあっても動じない心を手に入れ、幸せに生きられる」と思っていたのに、不惑を迎えてもそういう大人にはなれなかった。

昨日も悩んだ、つまんない人間関係に…。
明日もきっとくよくよする、ちっぽけなことで…。
まるで、ガラスの40代、傷だらけの40代。
…てことは、このままいくと当然、ガラスの80代!!?
(女性の平均寿命82歳)(p4)
 ということで、10代から抱え込んだまま解決できていない悩みや疑問を、考えるという方法でクリアしようと試みたのが『考えることで楽になろう』である。アドバイザーとして、考えるプロ西研(にし・けん)が協力している。

 その問いとは、「他人の目が気になって、自分じゃないキャラを演じてしまう」、「親しい友人に心を閉ざしてしまった」、「見かけが大事ってほんとみたい。でもそれってくやしい。でもやっぱりしょうがない…のかな?」など9つ。

 アドバイザーが「”言えた‐受け取ってもらえた”の積み重ねが、愛と信頼をはぐくむ」とか助言すると、みなっちは、
「人を愛せないのは罪じゃない」私はこの言葉にとっても救われた気分です。たとえ友人でも嫌いになっちゃう時もある。それはさびしいことだけどいちがいに「悪いこと」とは言えないのね。(中略)「友人同士は仲良くすべき」と義務のように考えず「この人と仲良くしていきたいものだなー」とのんびり願っていけばそれでいいのね。(p47)
 のように気持ちを整理していく。

 文字はすかすかしているし、むつかしいことが書いてあるわけでもない。それでも人間関係に悩む人にはおすすめの本だ。自分の体験を語るマンガもほのぼのとしてるし、人間(じんかん)弱者の思考のプロセスを一緒に体験できる。

 一方、辛淑玉『怒りの方法』では、問題解決型の怒り方を推奨している。すなわち「怒るは、言葉で自分の感情を表現すること。人間関係を築き、つなぐためにするもの」。それに対して「キレル」は、表現力が稚拙で「そこまで言われたら殴るしかない」というのが典型。

 第4章の「怒りの表現力」が本書の核心部だ。「怒りをぶつける前に」、「効果的に怒る方法:技術編とスタイル・パフォーマンス編」と親切な構成で、会社でいじめにあってる人でもすぐに使えそうな方法が具体的に書いてある。

 第5章「怒りをぶつけられたとき」も役に立つ。クレームを受ける部署に配属されてしまったら、まっさきに読みたい。

 どちらの本も「自分の気持ちを見つめ直し、それを言葉で的確に表現して相手に伝える」という共通点を持つ。いつか思いっきり怒った後で、「話し合う時間を作ってくださったことに感謝します」なんていうセリフをはいてみたいものだ。そんな機会は一生ないだろうけど。
  • 怒りの方法 辛淑玉 岩波書店 2004 岩波新書 新赤版890 NDC141.6 \735

  • 考えることで楽になろう 藤野美奈子 メディアファクトリ− 2003 NDC104 \1,260

(2005-03-29)