いまどきの唯物論



 マンガ『ナニワ金融道』で有名な青木雄二の本を読んだ。タイトルがおかしい。いまどき唯物論だって。けばけばしい表紙の本だけど、とてもおもしろかった。だけど表現があまりにもストレートなので、上品な人にはおすすめできない。

 どんな人かよく知らなかったので、読んで驚いた。ドストエフスキーの「罪と罰」、マルクスの「資本論」を絶賛している。どちらも読んだことはないし、彼のように社会の裏は知らない。でもあらゆることを総合的にとらえようとする態度には、共感できる。

 若いときは小林旭のようないい男で、長島や王と並ぶ自称天才で、ゼニを儲けた成り金で、50歳近くで結婚し、今はのんきに哲学しているうらやましい人だ。そんな人が共産主義は正しいと言っている。

 私の主張は少し違う。「貧乏は正しい」だ。世界中の資源に限りがあるように、貨幣に代表される価値や資産にも限りがある。それを無限にあると錯覚に陥っているのが、現代人なのだ。そんな富を先進国の人は、わしづかみにしている。とくに日本は貿易黒字が続いているので、だれでも頭では理解できるだろう。

 先進国が富を持てば、持てない国の人は貧乏になる。これは当たり前のこと。日本人から見てぐうたらで働かない人に、欲望をかりたてるようなことをして、物を売りつけるとどうなるか。その結果、日本人は海外旅行中にねらわれ、日本に外国人労働者が押し寄せるようになった。

 黒字の日本は、赤字の国の人に、お金を返さなくてはいけない。その一つのやり方がODAだ。でも物を売りつけるときにも、ODAで還元するときにも、あちこちで軋轢や歪みが生じる。だから元から断たなきゃだめ。そもそも日本企業は生産過剰なのだ。

 不必要なものを作らない、ゴミを作らない。そうすれば、今よりも貧乏にならざるを得ない。だから、貧乏は正しい。でも貧乏といっても今と比較しての話で、戦後の闇市時代に戻るわけではない。まずはオイルショックの頃のGDPに戻ってみたらいいのじゃなかろうか。人間には欲望があるし、時計を巻き戻すこともできない。しかし今の技術力でもう少しコンパクトな経済を持つ世界は、思ったよりもバラ色かもしれない。そんな想像をしてみるのも楽しいでしょ。

  • 唯物論 ナニワ錬金術 青木雄二 徳間書店 1997 NDC304.9
     各章末に、読者の質問に著者が答える直言コーナーがある。
(1998-09-28)