ハリストスよ、爾が我等の為に人として地に現れしに因りて、我等何を以て爾に奉らん、蓋爾が造りし物は各(おのおの)爾に感謝を奉る、天使は歌を、天は星を、博士は禮物を、牧者は奇蹟を、地は洞を、野は芻槽(かいばぶね)を、我等に於いては母、童貞女を奉る。世々の前(さき)より在(いま)す神よ、我等を憐み給え。(降誕祭晩課「主よ、我爾に呼ぶ」のスティヒラ)
主に在りて親愛なる主教職、すべての司祭職、輔祭職そして修道者、私たちの聖なる正教会の忠実なる子で敬虔な信徒の皆様。
今日、私たちはヴィフレエムの星に導かれた古代の賢者の後を追って神聖なる幼子、主イイスス・ハリストスの揺りかごの所に至ります。
博士たちがいかに「その星を見て喜びにあふれた。家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた」(マトフェイ、2の10−11)ことを私たちも思い起こします。ハリストスの降誕祭にあずかり、私たちは自問しなければなりません。一体私たちは今日天の神を受け入れた揺りかごのそばに何を携えるのだろうか、と。
幼子は私たちの高慢、栄光、物質的な成功を必要としていません。彼の目の前では私たちの空しい意図、生活のための動揺、お互いに誇りあう人々の試みなどは塵に過ぎないのです。童女より生まれた世界の救主への私たちの主な捧げ物は、至浄なる童女マリヤが示した心からの強い信仰、そして福音を授けた天使首にマリアは次のように言いました。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」(ルカ 1の38)。今日多くの人々は自由で何にもとらわれない知恵だけが幸福をもたらすことができ、個人と社会の生活を作り出す規則だと考えています。しかし教会はその長い歴史の中で、傲慢になり神から離れた人々が結果的に不幸で惨めになった姿を多く見てきました。そして、その反対に信仰を持って神の旨に自分をゆだねる人はどのような高みを極められるかを至聖なる生神女が模範を示しています。シリアの聖エフレムは次のように記しています「童貞女マリヤは光の子なのです。それは彼女を通した光によって世界とそこに住む人々が輝いたからです」。私たちも信仰をもって世界に主ハリストスを、光をもたらしましょう。
私たちがヴィフレエムの揺りかごに携えるもう一つの捧げ物は、お互いの愛、そして私たちを取り囲んでいる人々への行動を伴った熱い愛にしましょう。日々の人生訓としてハリストスの言葉を受け入れましょう。それは「互いに愛し合うならば、それによってあなたがたがわたしの弟子であることを、皆が知るようになる。」(ヨハ 13:35)です。
いつも私たちのそばにいる苦しむ人々、孤独な人々、困難や憂いと絶望の中にある人々のために慈善と愛の業を実践しましょう。
神と隣人への愛によって結び付けられている夫婦、子供、両親の相互愛は常にキリスト教家族の強固な基盤でした。私たちの祖国では今年が「家族の年」とされ、私たちの教会が活動している多くの外国でも家族への配慮が最も重要なものとなります。ハリストス教会の忠実な信徒である私たちがこの配慮を熱心に発揮する必要があります。社会全体が、特に若者たちは自分自身のために新たに単純で永遠の真実を持たなければなりません。それは愛のないところ、お互いに責任を持たず、愛する人のために全生涯を捧げる用意のないところには、幸福も存在の充満もないからです。離婚、堕胎、快楽への終わりなき追及、しばしば親の優しさと養育を放棄して自分の子供を忘れてしまうことなど、これらすべて個人と社会全体の生活を良心の呵責に満ちた、喜びのないものに変えてしまいます。もし家族に愛と信仰、相互譲渡の喜び、そしてお互いに支えあうことが満ちているなら、はるかに多くの幸せな人々の顔が私たちを取り囲むでしょう。そして私たちの民族の運命もよい方向へと変えられるでしょう。
親愛なる皆様! 過ぎ去った年に主は神の人々の救いに添えられる平和、喜び、多くの業績に成功を祝福してくださりました。主の昇天祭にモスクワ総主教庁と、世界の様々な国に離散している教会人の大部分が帰属するロシア在外教会との完全な統一が復活されました。いま私たちは再び諸機密と祈りにおける交わりによって強められる教会、一つの教会となり、祖国に於いてだけではなく、「地の果てに至るまで」(使行、1の8)聖なる正教の真実の証をもたらす教会となりました。
私たちの教会に聖使徒福音者ルカ、トリミフォントの成聖者スピリドン、成聖者金口イオアンの尊貴なる不朽体が運ばれてきました。ペテルブルグからモスクワへ聖アレクサンドル・ネフスキーの聖不朽体がもたされ、私たちの祖国の天の庇護者が行ったこの世での苦行にかかわりのある歴史的な都市をめぐりました。教会の多くの人々が正教会の聖堂に来て、神に祝福された聖人たちに伏拝し、それらから霊的な慰めと祝福、心身の病の癒しを受けました。
敬虔なロシアの為政者のために祈り、修道者の指導者である克肖者聖セルギイの弟子であるストロジェフスクの聖サワ列聖600年祭が正教信徒の積極的な参加のもと行われました。ロシアにとって最善の未来、その歴史的な道のりの矯正のために私たちは90周年を迎えた神の母のイコン「ジェルジャブナヤ」の前で祈りました。また私たちの聖なる教会で総主教座復興90周年祭も祈りと共に盛大に祝いました。数千人という多くのロシアの新表信者と致命者、神に敵対した政権の時代にソロヴェツク修道院で無罪のまま殺戮された数千人の記憶のために「伏拝の十字架」がモスクワのブトフ・ポリゴンに運ばれました。どうか、彼らの苦行を記憶することで私たちの国民が霊的再生の道に堅固に立ちますように!
過ぎた年に神の恵みにより、私は首座都市モスクワで多くの奉神礼を行い、モスクワ近郊の聖堂や修道院を訪問し、ワルラアムにも行き、そこでスモレンスクの神の母イコンを記念するスキトの成聖式も行いました。主は私が私たちの教会のヴォログダ、イジェフスク、コルスン教区を訪問し、そこで霊的な価値を証言する機会を与えてくれました。そして、ストラスブルグのヨーロッパ議会では正教の社会ミッションについて証言しました。この世界を照らし、また変容させる私たちの信仰について国家を治めている人々、様々な信仰や信念を持つ人々との出会いの場で話してきました。
ロシア正教会が霊的に育んでいる人々は強く復興の道を進んでいます。この道にあってすでに多くの成果が達成されています。しかし、命は私たちに苦難も試練も、そして誘惑ももたらします。過ぎた年に私たちを民族、政治、社会の特徴で分離させようとする試みが一度となくありました。喜びのときも悲しみのときも信徒と一緒にある教会は変わることなく人々に思い起こさせていることは、統一だけが私たちを強くし、自由で、世界を変える能力をもたせるものだ、ということです。教会も政治権力も分離できない人々の全体的な統一が私たちの社会にとって良き行いの基盤となるのです。そのため私たちは統一を強固なものにするために祈るのです。
私たちの教会に於いても「平和のきずなで結ばれて、霊による一致を」(エフェ 4:3)保つように努めましょう。そして、この今日の光明なる祭日に、ヴィフレエムにお生まれになった主がまさにこの合一のために私たちを呼んでいるのだと、心と知恵の深みから認識しましょう。聖大ワシリイは次のように記しています「救主の藉身がどれだけの善を私たちにもたらしたことでしょう。数千にも分離した人間の性は、自らの力の限りをつくすなら再び一つになり、自分自身と、そして神と結びつくこととなるのです」と。
至聖なる主教職、親愛なる神品職、兄弟姉妹の皆様、ハリストス降誕と新年のお祝いを申し上げます。ヴィフレエムの星の光がいつも私たちの心を照らし、私たちに健康と平和、霊の強さを与えてくださるハリストス自身の道を進む力を与え、そして重荷を伴う人生の道を導いてくださりますように。来る新年が聖なる教会にとって、この地上の人々にとって平和で、創作と成功の年となる主の恵みがありますように。
「わたしたちの主イイスス・ハリストスの恵みが、あなたがたと共にあるように」(テサ 5:28)
モスクワ及び全ロシアの総主教
アレクシイ二世
ハリストスの降誕祭
2007/2008年
モスクワ