「まてーーーっ、まってよっ、もうっ」

「もーあきらめて捕まったらー?」

「ひーーー!な、な、なんでまだ生きてんだよーーー!!」

 

廃校で相打ちになったはずの2人に追われてる!

 

「くそっ!」

 

振り向いて銃を・・・

 

ズキューン!

バキューーーン!!

 

「ああんっ」

「んふうっ・・ま、まちなさぁーい!」

 

当たってるのに、ぐいぐい向かってくる!!

なんというゾンビ女ども・・・タフにもほどがある!

こんなのに捕まったら骨の髄までしゃぶられそう・・・やばい、足の痛みがぶり返してきた!

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

やばい、暗くて完全に迷った!

下手な道を走って行き止まりなら絶望だ、

ここはいい感じの森だし、茂みに隠れてやり過ごせるか・・・?

 

「勇人さま、こちらですわ」

「だ、誰!?」

「こちらこちら、ほら、こちらへ」

 

なんだかよくわからないけど、

お嬢様な声に誘われて道のない茂みの中へ・・・

入ると四つんばいになった、セーラー服の下半身だけ、というか、

おしりだけが見える・・・長いスカートだからパンツは見えな・・・あ、ちょっと見えた!

どんどんついていく、って本当に大丈夫か?いまここで撃たれて犯されたら一発で終わりだ、信じていいのか・・・

 

「・・・・・」

「・・・あら?勇人さま、ついてきてますわよね?」

 

振り向いた表情、

顔を蜘蛛の巣だらけにしてる・・・

誰だっけ?覚えてないけどクラスメイトなのは間違いない。

 

「間もなくですわ」

 

・・・やっと森を抜けたその先は、公園だった。

 

「こちらです」

 

草が生い茂り、手入れされず放置状態の公園、

その中央に基地みたいな横幅の広いすべり台がある、

その下が空間になって人が入れる・・・銃を握りながらそこへ入ると・・・

 

「勇人さまをお連れいたしました」

 

中から懐中電灯がついた!

そこで待っていたのは・・・!!

 

「ごきげんよう、ようこそわたくしの館へ」

「確か・・・ゆり・・・さん?」

「ええ、け・さ・ぎ・り・ゆりですことよ、悠さんありがとう、ご苦労様」

 

上への階段をまるで玉座みたいにしてゆったり座っている、

家狭霧 百合さん、しかし着ているのはきらびやかさのまったくない、赤ジャージ・・・

そして僕を連れて来たのは、悠さんって・・ゆう・・・確か、佐原悠ちゃんだっけ。

 

「はい百合さま、猪頭克奈・早瀬秋の両名に追われている所を連れてまいりました」

「それでは、追っ手はいかがなさいまし?」

「一緒にいた鈴さんに囮になっていただいて・・・いらしたようですわ」

 

反対側の入口から素早く駆け込んできた迷彩服の女の子、

体育館で先生にバッグを空けられ、勝手に手裏剣を使われた萌葱原 鈴ちゃんだ。

 

「・・・撒いた・・・倒せないから・・・手裏剣きかないから・・・撒いてきた・・・」

「1対2ですものね、仕方ありませんことよ、さあ勇人さん、まずは銃を下ろしてくださいまし」

「う・・・信頼して・・・いい・・・の?」

 

助けてくれたからといって味方とは限らない、

連れ出してこっそりみんなでおいしくいただく、なんてありそうだけど・・・

 

「どっちみちもう外はかなり暗いですわ、逃げ場はございませんから、撃ち合うのは得策ではございませんし」

「で、でも・・・一応、向けさせてて・・・ほしい・・・かな」

「よろしいでしょう、それでお気が済むのでしたら・・・しかしもし撃たれた場合はわたくしどもは容赦いたしませんことよ」

 

悠ちゃんと鈴ちゃんがまるでお姫様の召使いのごとく、百合さんの両側に立った。

 

「わたしくからまず言っておきますのは、勇人さんには申し訳ございませんですが、わたくし、男に興味は無いのですの」

「ぜ、全然申し訳なくないです、それじゃあ、僕とは・・・」

「そもそもこのクラスへ転入させられたのも、お父様が『負けず嫌いのお前なら40人で男1人を奪い合う争いに入れれば戦うだろう』などと・・・」

「・・・あれ?じゃあ、金銭的には、困ってないの?」

「もうそのようなご情報を?確かに菱大路家へ多大な借金がございますが、それは私が卒業し、女学院の運営をはじめれば、すぐにでも・・・」

 

外が気になるのか懐中電灯のあかりを少し弱くした、外はもうほぼ夜だ。

 

「しかしながらわたくしの力を発揮するには多少なりとも元手がかかりますわね」

「ということは・・・・・引き分け!?」

「わたくしに『分け』はございませんの、ここにいる3名、勇人さんを入れれば4名ですわね、4名で勝つのですわ」

「じゃ、じゃあ、それでいいよ・・・でも、さっきの、灯台にいたみんなも引き分けとか言ってて・・・」

「襲われたのでございますか?鈴さんの偵察ですと、あそこは村御巳さんご一行が篭城なさっていたようですが・・・」

 

みんな勝手に撃ち合って最後は自滅した、なんて言っても信じてくれないかなぁ・・・

 

「正直申しまして、わたくしも怖いですわ、勇人さんに撃たれるのが・・・」

「ち、違うよ!灯台じゃ僕、誰も撃ってないよ、ほんとに!でも、仲間割れして、みんな・・・」

「全員運ばれたのですね?それではメモを取らせていただきますので、一緒にご確認を・・・」

 

いいタイミングだ、僕も電子手帳でチェックしよう。

 

1日目午後7時17分の情報

 

・・・百合さん所に書いてあったレズっぽい、は男に興味ない、に書き換えておこう。

あと相打ちしたはずなのに生きてた2人は、ゾンビ女とでも記入して・・・よし、こんな所かな。

 

「では勇人さん、私たちと行動を共にして、4名で勝つ方法を取っていただけますこと?」

「う・・・うん、僕を、こっそり狙ったりしない、なら・・・」

「完全に信じられないのであればそれでもかまいませんことよ、灯台での出来事を私たちは知る由もございませんから」

 

うー、僕が疑うなら、向うもこっちを疑えるって事か。

でも男に興味はない、っていうのは本当っぽい仕草だよな。

 

「・・・・・そろそろ」

「うわっ!!びっくりしたぁ、萌葱原・・・さん?」

 

さすがくの一、いつのまにか僕の真後ろに立って気配も無く耳元でささやいてきた。

佐原悠ちゃんは外に顔を出してキョロキョロ・・・百合さんも立ち上がってジャージのお尻についた砂埃を払う。

 

☆地図☆

「さあ、そろそろこのエリアで4時間経ちますわ、境界線を跨ぎませんと」

「ええっと、どこへ出るの?」

「すぐそこですわ、少し出た丘へ上がり、すぐこちらへ戻れば問題ありませんことよ」

「地図、地図・・・僕はその境界線を跨いできたばっかりだから、一緒に行かなくても・・・」

「しかしタイムリミットが私たちとずれていますと何かと問題がありますわ、ご一緒しませんと」

 

・・・確かに1人居残るのは怖いな、すぐそこみたいだし、ついて行こう。

 

「・・・私は一番後ろ・・・」

「百合さま、勇人さま、私が先頭で様子を伺いながら進みますから、ついてきてください」

「だそうですわ、勇人さん、まいりましょう」

「うん・・・」

 

前を佐原ちゃん、後ろを萌葱原さんが守って誘導してくれるらしい。

 

「・・・そうですわ、暗いとはいえ念のため、これに着替えてくださいませ」

 

そう言って百合さんが取り出したのは・・・せ、せ、せーらー服!!

 

「これを、僕が!?」

「ええ、勇人さまがこちらにいらしてる事がばれますと、一気に標的にされてしまいますし」

「だから、遠目から見ても女4人のグループだと思わせる、ために!?」

 

・・・この発想はなかった。

 

「時間がありませんことよ、ほらすぐに」

「う、うん・・・」

 

下着まで履き変える訳じゃないからいっか。

てきぱきと素早くセーラー服を着込む・・・スカートってこうやって履くのか。

って百合さんだけ僕の着替えを一部始終ずーっと見てる、男に興味ないから平気で見られるのか監視してるのか・・・

 

「リボンは適当でいいですから・・・終わりましたわね?では出発しましょう、悠さん進んでくださいまし」

 

4人屈んで茂みを進む・・・

百合さんは一応、僕を体ごと守ってくれてるみたいだ、

女性は撃たれたら即死もあるのに・・・ここまでしてくれるって事は、信頼してもいいのかな?

 

ザザザザザザザ・・・・・

 

しばらく進むとすぐに丘へとついた。

 

「うわぁ・・・港が一望できる」

 

手前の灯台や、遠くは運営本部のある体育館まで見渡せる。

風が気持ちいい・・・深呼吸するとスカートの中に風がスースー入って少し寒い。

 

「さあ戻りますわよ、ここですと下から長距離砲で一発ですので」

「ひい・・・怖い怖い」

「戻って夕食にいたしましょう、水はすでに汲んできてありますからご心配なく」

 

夕食・・・そういえば灯台では食えなかったっけ。

僕のリュックに何か残ってたっけなあ?潰れてそうだけど。

何か作ってもらえたら嬉しいけど公園で調理できる環境はなさそうだし・・・

 

「勇人さま、もっと頭を低くなさって!」

「は、はい・・・百合さん・・・」

「ちゃんと道を覚えてくださいまし、4時間以内にまた来ますので」

 

うん、とりあえず信頼しても、良さそう・・・・・かな。

 

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