☆イタルの碁☆
「・・・ま、まいったわ・・・投了よ」「やった!これで3連勝だ!」向かい合った碁盤の前でガックリとうなだれる女性を前にぎゅっと手を握って小さな小さな
ガッツポーズを作る僕、当然の結果とはいえやっぱり大人に勝つのは嬉しい!まわりで大人が騒いでいる、この女の人、本当に有名な囲碁の女流プロだったんだろうか?
何にしても勝った、確かに今まで打った相手で一番うまかったかもしれないけど・・・「ねえイタルくん、君、本当に小学生?」ずれた眼鏡を直しながら僕を睨み付けるプロのひと、
ちょっとお姉さんとは言えない感じの、学校のきつい先生みたいな人だ、あれ?名前なんていったっけ・・・「うん、6年生だよ、ええっと・・・・・おばさん」
「お、おばさん?」な、なんだか顔をピクピクさせて怒ってる・・・3回も勝っちゃったのに、さらにまずい事言っちゃったかな「池永流香8段よ、いけながるか!まだおばさんじゃないわ!」
「え?じゃあいくつ?」「さ、さんじゅう・・に・・失礼ね!あー、もうやめた!」怒りながら碁石を器に戻す流香さん、でも、よく見ると美人かもしれない、
きつい感じの眼鏡かけてるからちょっと近寄りがたいけど、背が高く肌が白くて、長い髪がきらきらしてて、黒い服も大人っぽくって素敵で、太い眉毛と細い目が
なんだか僕の好きな感じで、首のアクセサリーとか濃い口紅とかがちょっとおばさんくさいけど、でも、こんな人に甘えてみたい気がする・・・「で、どうするの?」「えっ?」
「・・・何もないなら帰るわよ?・・・」パシャ!「きゃっ!ちょっ、写真撮らないでよ!小学生に散々負けたの記事にする気?」囲碁クラブのおじさんと流香さんが
言い合ってる、きつい人なんだな・・そうだ!今日、最初に流香さんと打って勝った時に約束したんだ、もう一度打つかわりに、僕がまた勝ったら、何でも言う事を聞いてくれるって・・・
結局3連勝しちゃったんだよな。「今日は調子が悪いわ、帰る!皆さんへの指導はまた今度という事で」あ、怒って帰っちゃう、おじさんやおじいさんたちが引き止めてる、
でも、帰った方がいいと思う、いずらいだろうし、いてもまともに・・それより・・「あのっ、おばさんっ」「なにっ!?」う、ギロリと睨まれた・・・「や、約束・・・
何でもって・・」「ああ、どうしろっていうの?ここで土下座でもすればいいの?」「そんなつもりじゃ・・・」「はっきり言いなさいよ!言わないなら帰ります!」
あ、最後に「帰ります」なんて言って冷静になろうと思いながらも頭に血が登ってる!だから負けるのに・・って、出てっちゃった、どうしよう、思い切ってお願いしちゃおうかな、
僕のお願い・・・囲碁クラブの偉い人がぺこぺこ謝ってる、僕も謝った方がいいかもしれない、ここに出入りできなくなったら困っちゃう・・・僕は流香さんを追いかけた。
外ではすでに駐車場で黒くて高価そうな車に流香さんが乗ろうとしてる、おじさんたちと話をしながら・・急がなくっちゃ!僕は流香さんが車に入りドアを閉めようとした所へ割って入る!
「あのっ、ごめんなさいっ!生意気なこと言って、僕・・ごめんなさいっ!」ちゃんと頭を下げないと・・大人があんなに頭を下げてたんだから、僕だって・・・「もう気にしてないから、
でも・・そうね、ねえ君、時間あるならちょっと車に乗っていかない?」「えっ?」「いいから・・いいでしょ会長さん?ちょっとこのボクを借りても」「え、ええ・・」「ほら、乗って!」
「は、はいっ」後ろの席に乗り込む僕。バタンッ!ブロロロロロ・・・車は囲碁クラブを離れて走っていく・・・・・車内も豪華だ、広くって、女性の車だからといって変に飾ってない、
ぬいぐるみなんてないのは流香さんが大人すぎるから当たり前か、代わりに囲碁の本や、あ、ちゃんと碁盤と碁石もある、持ち歩いてるんだ、やっぱりプロなんだなあ・・・「イタルくん、
さっきはごめんね、ちょっと熱くなっちゃって」「いえ、おば・・い、池永さん、僕も失礼な事を言ってしまって」「ふふ、君、囲碁の腕前相当なものよ、誰に習ったの?」「お、おじいちゃんに」
「ふうん、有名な人?」「ううん、全然有名じゃないと思うけど」「そう、じゃあ我流であそこまで強くなったの?あの置き方はそうそう勉強してできるもんじゃないわ」「そうなんですか・・」
「そう、誰か有名な名人から習ったか、そういう本でも読んだのかなあって」「・・・わかんないです、でも、ずっと小さいときから囲碁で遊んでたから」バックミラーごしに見える流香さん、
さっき囲碁クラブにいた時はすごくきつい感じに思ったけど、こうして話してると悪い人ではなさそうだ・・・そう思うと3連勝した直後にお願いしようと思った事がさらに僕の胸に膨らむ、
人前ではとても言えないような、あのお願い・・・
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