179:薔薇の名前 BSフジで放映(2002.5.27)
テレビ欄に載っていた。ずいぶん前に見た映画だが、思い出した。ショーンコネリーが中世の修道士役で出ていた。

中世の修道院が克明に描かれており、記号の謎解きや迷路が出てきたりとなんとも不可思議な映画だった。

薔薇の水に浸かると病気が治るということで修道院には薔薇をいれた水浴槽が並んでいる場面があり、何となく暗い感じで気味が悪い。

さらには本に塗ったヒ素(?)で毒殺するなど、乱歩まがいの殺人方法が出てきたり、犯人を最後まで分からせないところはおもしろい。

後でこの映画の原作のことを知った。この原作者はウンベルト・エーコという著明な記号論学者であるとのこと。

そのため暗号などの知識が随所に出てくるその辺りの謎解きがおもしろい。原作とはかなり違うらしいが読んだことはないので分からない。

暗い映画だが、最後まで飽きさせず見させるのは原作の良さだけではなくショーンコネリーの演技力も大きいのだろう。
 90/06/04 東京朝刊 書評面 より(藤村 健次郎 編集委員) 要約
十四世紀の北イタリアの修道院を舞台にしたウンベルト・エーコの小説「薔薇の名前」(河島英昭訳)がよく売れている。

著者のエーコは国際的に知られた記号論の学者で、本業の専門書「記号 論」や芸術論「開かれた作品」も邦訳されているが、小説は「薔薇の名前」が 処女作。

 原作は1980年に刊行され、本国のイタリアでベストセラーになった。独 仏英訳などが次々に刊行され、最近のデータによると、総部数は一千万部を 突破するという。

 「薔薇の名前」の人気は、三年前に公開されたショーン・コネリー主演の映画 「薔薇の名前」の影響が大きいようだ。中世僧院の入念な時代考証で評判に なったこの重厚なドラマの細部を、活字で読み直したいという読者が多かったようだ。

・・・略
 ドイツ、アメリカなどの研究者による「薔薇の名前」研究書も而立書房からすでに五冊刊行され、版を重ねている。K・イッケルトほか著「『バラの名前』百科」は、本文に使われたスペインの司教の古文書や聖書の借用文献の照合、舞台になった多角形の塔を持つ建築物の考証などが事細かく論じられている。「薔薇の名前」はそういう考証にふさわしい知的な奥行きを持つ小説といえるだろう。

 エーコはイアン・フレミングのスパイ小説007物を論じた評論もあるくらいミステリーに詳しく、この知識の深さが「薔薇の名前」の構成に反映している。僧院で起きる殺人事件の犯人捜しの興味、暗号の解読、迷路を手探りするサスペンスなど、読者を最後のページまで引っ張って行く変幻自在の趣向がこらされている。小説本来の持つおもしろさを堪能(たんのう)できるのもベストセラーの条件にかなっているといえるだろう。

 「薔薇の名前」の時代設定と同時期のヨーロッパ中世知識人たちを評伝風に取り上げた近刊「パリとアヴィニョン」(人文書院)の著者、樺山紘一さん(東大助教授)はこう言っている。

 「『薔薇の名前』は入り組んだ迷路仕立てになっていて、読者は読み進むにつれて幻惑され、めまいの感覚にとらえられます。難解な神学の教義論争が出てくるが、その深みに落ち込んで行く倒錯感がある。時代設定は1327年だが、この時期のヨーロッパは異端思想が入り乱れていました。異形のものがからみあって、ドラマ性に富む時代。現代人にとって興味深いものがあります。全編を読み通さなくても、読者は結構楽しめるのではありませんか」

 第二作の「フーコーの振り子」は文芸春秋から来秋邦訳が出るが、これは中世のテンプル騎士団が残した秘密文書をめぐって、現代にもつながる学識豊かなサスペンス物。国際的評価は高い。

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