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庖丁捌き

包丁捌きと料理の習熟度は当然密接な関係です。

料理の達人は上手い包丁捌きだし、料理に熟れてないと包丁捌きは

下手で更に怪我をします。

実際料理を初めてに熟れるまでよく包丁で手を切りました。

熟れるに従い怪我をする事は無くなりました。

当然良く切れる包丁を初心者が扱うのは危険です。

良く切れる包丁で手を切ってもその時は殆ど感じませんが、気が付くと

血がどっと出てあら大変となります。

切れない包丁は切ると痛いので傷が深手になりません。

この意味するところは切れる包丁は食材の組織を壊さず切れるので、

手を切ってもその瞬間は痛くありません。

組織を壊さないことは食材の良さを保持することですので、

切れる包丁を上手に使えることは食材の良さを活かした料理が出来ること

つまり上手い料理人なのです。

切れない包丁は大げさに言うと食材を叩いて壊しながら切ることで、

切る行為で食材の風味が損なうことになります。

こういうことで包丁捌きの良し悪しは、そのまま料理の出来不出来に響いてきます。

 

従って料理の腕に従って使う包丁も変わって来るというより、

初心者が柳包丁の切れるのを扱うのは危険であり、

腕の向上に従い変えていくことになります。

手を切るという危険に関して安全の対応能力が向上するわけです。

社会人になってから、プラントエンジニアリングの世界にいて、安全を守るのは

大きな技術と言われて育ちましたが、

生産や工事の現場技術者と同じで優れた技術者ほど

安全で合理的な身の捌きをする事と料理人の対応も同じと思います。

 

大雑把に言って初心者牛刀 中級 三徳 上級 柳と片刃となります。

私も当初はステンレスの牛刀を愛用しました。

包丁というより大きなナイフで磨げば切れ味も良くなりますので、

結構それなりに使えます。見栄えが清潔なのと錆びないので長持ちします。

20年以上前に使い出したものが未だに健在です。

2-3年して少し腕が上がり三徳包丁に換えました。

本体はステンレスですが刃は鋼で併せた形で、切れ味は極めて向上しました。

これは魚も捌け野菜から何にでも使えて痛く重宝しました。

今でも他所の家で料理をするときは持っていきます。

一応この時点で刺し身に柳と出刃を揃えました。

ここまでに休日厨房入りで5年掛かっています。

この時点になると手の怪我も少なくなり、魚もある程度捌けるようになりました。

更に5年してほぼ一人前 野菜は片刃 魚は小出刃で捌き柳で引くようになり、

今それから更に10年は野菜も柳で処理しています。

手の怪我は殆どしなくなりました。

片刃の和包丁の基本は切るより引くということで、物理的な破壊に拠る切断と

違っているところが和食の妙といえると思います。

恐らく和食以外はナイフで切断の行為であり包丁捌きは日本の優れた文化です。

 

特に料理を習ってないので、飲み屋に入ると板前さんの包丁捌きが

見られる所に席が取れるのが望ましいのですが、

そもそも中々カウンタ越しで捌いているところも少なく、

隅の角に陣取って見られるようなところもありません。

鮨屋が比較的見られるが魚本体を捌くのは仕込みの段階で、

肝心なところはみられません。

ただ冊からの刺し身の引き方や胡瓜の扱いなど勉強になります。

偶にみられることがあると板さんには悪いが目が釘付けになります。

鮨屋はカウンターの陳列ケースの隙間からある程度覗けるので

極力カウンターに座るようにしています。

最近鮨屋でも柄が朴の和包丁でなく紫檀やローズの西洋包丁の柄が

大衆的なチェーン店では使われていて 

恐らく衛星上の配慮もあるのでしょうが、少し寂しい気がします。


刺し身は冊からあまり手を加えずありのままの姿の方が魚の

美味しさが解る気がします。

表面に細かく筋をいれたり細かい格子上の切れ目を入れるのは余り好みません。

見た目と醤油の載りを良くするためと思いますが、

手を施し過ぎるのは疑問を感じます。

魚に手が触れる時間を出来る限り短くと思っています。

そんな理由で鯵もなめろうは好みではありません。

すっきり冊で引かれて綺麗に置かれた姿が好く、

刺し身は魚を素直に楽しむものと思ってます。

 

野菜の処理には細かい気遣いが必要

まず煮物の野菜 大根とか里芋やカボチャなど角をとりますが、

これは煮崩れ防ぐというより、味が均等に素材に入ることと、

滑らかな舌触りが目的では。角は両面から影響受けるのでどうしても

他の平坦な部分より味が集中します。角を取ることでこれを和らげる効果が出ます。

隠し包丁は大きなものを煮る場合に火を通りやすくしますが、

恐らくそれと同時に味も滲み易くする効果も期待できます。

またそれは箸で切るときも切り易い。つまり美味しく食べ易くなります。

 

この2例でもわかるようにちょとした包丁捌きで料理の美味しさに

絶大な効果がでてきます。

あるとき飲み屋で親父が空豆の鞘の頭の部分に切り込みを入れてました。

そうすると茹でるとき豆本体と皮の隙間にある空気が膨張してもしても

切れ目から逃げるので、茹で上がって冷めるとき鞘の皮が縮んで皺に

なることが無いと同時に、剥きやすい効果もあると教えてくれました。

枝豆も鞘の両端を切り落としておくと、鞘の内部空気は、茹でた段階で抜けて

茹で上げ後は、まわりの空気と同じに変化するので 茹でたての良さが残ります。

こうしてみると包丁捌きで、素材の良さが引き出され、食べ易く美味しく

さらに見栄えまで決まるということになります。

これは一重に食材に対する思いやり、美味しいものを食べて喜んで

欲しいといった料理人の愛情と思います。 

時に凶器となる包丁ですが、それを扱う料理人に悪人はいません。