さまよいの記 Vol.10 (その2へ)
99.12.1
夜勤してる間に月も変わってしまった。がっくし。
夜勤明け、専務がいそいそと健康診断の結果を持ってきた。いやに分厚いから、はて? と思ったら、紹介状が入っていた。
レントゲン検査で、肺の右動脈弓の疑いとあった。これ、実は五年前にも引っかかったけれど、近所の医者から先天性の臓器の畸形だから問題はないと言われていたやつ。至急紹介状持って医者に精密検査受けろと書いてあったけど、そういう理由で別に行く気はない。
もう一つ引っかかっていて、肝臓が引っかかっていた。こちらは三ヶ月後あらためて検査するようにと注意書。
母親は大きな病院で精密検査したほうが安心だと言うけど、どんなもんかねえ。
それより、五年前は痩せ気味と注意されたのに今は肥満傾向とあることの方がよっぽどショックだったんだけどなあ(そういう問題じゃないんだろうけど)。
今年はやっていなかった夜勤でどうもオナカの調子を悪くしている。
帰宅して腹は減っていても何も食べる気力なし。
99.12.3
夜勤の間に仕事に決着。気分爽快。ざまあみろ。俺達はやってやったぞ。
どんな仕事だって期日までに仕上げてやる。あの時オレはそう誓ったんだ。
夜は忘年会。一度帰って寝たら来いといわれた。全然出る気がなかったけれど、I君がどうしても来てくれと言うので行く。
でもなあ、会社の人と飲むほど、つまらないものないんだよね。
1次会はカニづくし。けど先日からの夜勤がたたって腹の具合が悪く、大量には食べれなかった。残念(さもしいなあ)。I君は普段飲めもしないのにビールを煽って、かなり気分よさそうに酔っていて、僕に何度もお礼をいってくる。
「いいかい、僕は手伝っただけで、そんなに大層なことしてないんだよ。むしろ時間割いて手伝ってくれた先輩に感謝しなくちゃいけないよ。それともっと自分を褒めてやらなきゃな」
そういってビールを更に飲ませるいけないワシ。
きっといい社会人になるよ。その真面目な姿勢と礼節を忘れなかったら、君はいい社会人になれるさ。
1次会が終わって帰ろうとしたら同期に声をかけられ、立ち話をしたら、せっかくだからどこかに入らないかということになり、同期三人プラス女子社員(同期の一人の彼女)でファミレスへ(全員下戸なのだ)。
三時間ほどとりとめもないことを話す。その中で女子社員の子にどうして彼女を作らないの? 好きな女性のタイプは? 好きな人はいないの? と矢継ぎ早に質問されるも全部ノーコメント。
彼女、僕は全然表情に出さない人だから何を考えてるかわからんと言う。そおかなあ。僕は露骨に顔に出る人なんだけどなあ。
99.12.4
どんな理由であれ、僕は裏切った人間を許さない。今まで家族を、友人を、知人を裏切った輩の名前と顔をすべて覚えている。絶対に忘れない。そして僕は裏切り者全員に復讐をしてやるのだ。どんなに許しを乞うたとしても許しはしない。徹底的に、攻撃をする。
人を裏切るということがどんなに卑劣で、愚かな行為で、悲惨な末路を歩むか。
絶対にオレは許しはしない。
99.12.10
いきなり一週間も飛ぶけど、この間さしたる内容も無い。いろんなことはあったけれど、書き記さなくても忘れはしないことばかりなので書かない。
宮本輝氏の『血脈の火』を読了。とにかくうなだれる。
どんなに文章を僕がない頭をひねってもやっぱりプロにはかなわない。今まで書いた小説を読み返してみてもどれもこれも小説のカタチにすらなっていないような気がしてくる。アマチュアにもなれやしない自分が情けない。
すごく感動し、陶酔するのだけれど、現実に戻ると僕は「おまえのなんて浅薄な作文や」と言われているようでひどく落ち込む。
小説を書きたい。
99.12.11
昼過ぎまで寝る。いいかげん寝過ぎだよな。
遅い昼飯を母と食べ、雑談。
そのあと部屋でごろごろしていたら寝てしまう。夕刻兄に起こされ、母に頼まれた買い物を二人ですることになる。最近洋服も買っていなかったので兄に服をみてもらう。どうも自分の服を選ぶのはニガテらしいな、ワシは。食品を買い、一度車に入れて、もう一件店に寄ってシャツを二枚購入。ホントはズボンも欲しかったけど、お金もないのでやめておく。
夕飯はアニキと二人で近所にあるラーメン屋でラーメンを食べる。
人を守るということはどれほど生命力を要するか、痛いほどわかった。
親族ならまだしも他人となると言語を絶するものがある。その姿はどれほど尊いか。
僕はお金が欲しい。
名誉も欲しい。
復讐出来るすべてのものがほしい。
皆勘違いしすぎだ。お金はそこそこ、名誉なんていらない。復讐なんて時代錯誤だなどというヤツは偽善者だ。勝利はそんなに簡単に手には入らない。
99.12.12
昼より町内会の会合に出席。本年最後の会合。皆元気そうで何より。
この一年、自分の弱さ、いたらなさ、幼稚さ、愚かさを痛感した。僕を褒める人がいるけれど、そんな大層な人じゃない。むしろ僕を褒めてくれる人の方がよっぽど偉大な人物だ。
僕の小説はなんでこんなにつまらないんだろう。
どれもこれも僕の出来の悪い息子で、愛着はあるけれど、どうにも恥ずかしい出来だ。
いつも書き始めるときは「これは傑作だ」なんて思って、せっせっと書くけれど、枚数が増えるにつけ、その評価はじわじわと落ち、最終的に「書かなきゃよかったかなあ」と思って、不満足な結果に終わる。得てして創作者というものはそういうものなのかもしれないけど、僕のは酷すぎるかもしれない。今までの作品を読み返して、どれもこれも百点満点中、五十点にも満たない。
今まで感想を頂いた方は褒めてくださるけど、本当に面白いかなあと首をひねりたくなる。
「小説は読者の器で決まる」という言葉があるけれど・・・・・・。
99.12.13
ネットで買った本、『決戦前夜』をコンビニに取りに行く。
この本、新進気鋭のノンフィクションライターの金子達仁氏の本で、『二十八年目のハーフタイム』の次に出た、フランスW杯最終予選の日本代表の軌跡を追った本である。
僕はこの人をどうも好きになれない。最初の『二十八年め〜』を読んだ時に感じた印象が残っていたけれど、もう一冊読んでみれば変わるかと思い、購入した。
最初の十ページほどでイヤな予感がする。うーむ、どんなもんかなあ。
99.12.14
その目の前にある現実を直視せよ。そして心に刻め。
だれが裏切り者で、だれが偽善者か。
まっすぐで、何者の邪推、憶測をはねのける鋼の哲学でのみ判断せよ。
人間とはかくも儚く、愚かな動物であろうか!
99.12.16
僕がアマちゃんなのかわからないけれど、どうして恋愛をキレイに、純粋なものであるかと主張したがるのだろう。恋愛なんてノールールの有刺鉄線デスマッチやないか。浄も不浄もあるかいな。モラルなんてもとめちゃいけない。そう考える僕はアマちゃんかなあ。それとも夢も希望もない意見だろうか。
怒りとは慈悲と正義の心からしか生まれない。それ以外で表出してくるものは全てエゴであり、嫉妬であり、憎しみだ。
99.12.19
今日は愛車の車検の日。午前中大事な用事をすませてからバタバタと準備をしてディーラーに持って行く。結局代車は出してもらえず。残念。帰宅途中にT君の家により、しばし雑談。
帰宅後夕食をすませてまた出掛ける。
そこでNさんという人に会い、話して頂いた言葉が忘れられない。
「見るもよし、見ざるもよし、されど我は咲くなり」
この言葉を教えていただいたとき、涙が出てきた。
この一年僕はなんとだらしない日々を送ってきて、ただ漫然と小説を書いてきてしまったのだろう。そして無数の大事なことを忘れてしまっていたのだろうか。
来年は勝つ。絶対に勝つ。そう決めた。
目まぐるしいほどの一日だったけれど、僕にとって非常に大事な一日であった。
99.12.23
昼ごろまで寝て、のそのそと起きたら車のディーラーから電話で、車検が終わったとのこと。値段を聞いて愕然とする。予想よりもオーバーしてしまい、ボーナスがすっとんでしまう。
取りに行くために駅に向かう途中、散歩をしていたYさんにお会いし、道すがら雑談。
バスにゆられて十五分。そこから歩いて駅まで十五分。電車で五分ほど。そこから駅まで迎えにきてくれると言っていたけど、まあ天気もいいし、せっかくだから歩くことにした。
車を貰い、家に帰宅後、母と買い物へ。
一旦家に戻ってから駅前の商店街に。明日はもうクリスマスイブなんだなあ。
夕食をすませてからまた出掛ける。月がとてもキレイであった。
探していた本が近所の本屋でみつからず、インターネットの通販を利用して探す。みつかったので早速注文。
夜Kさんのお宅にお邪魔し、色々と懇談する。来年こそはの思い。
帰宅後、読むのを止めていた『長距離走者の孤独』を再び読み始める。
今年は何本かの小説を書いた。けれどどれもこれも恥ずかしいほどの出来で、今思うとどうしてこんなもの、アップしてしまったんだろうかと我ながら恥ずかしくなる。自分の原点を忘れて書かれた作品だから、もう削除してしまいたいくらいだ。
けれどこれからの道標と反省の意味もこめて、そのままにしておこうかな。
来年はどうしても書きたいと思うものを一本、ちゃんと書こう。文章の技術よりも、まず。
しかし、なんでまあこうも日本は恥知らずで優しい人が少なくなったんだろうか。
99.12.24
お仕事。しかも残業までしている。でも去年に比べればまだ楽だ。去年は十二時近く(昼間のじゃないぞ)まで仕事してたものな。仕事が出来るようになったのか、はたまたヒマなのか。
帰宅すると母がケーキを買っていた。食後に食べる。あああ、せっかく頬がすっきりしてきたのにまた太るがな。
99.12.26
今年一年を振り返る(ちと気が早い)。
上半期はどうしようもなく辛かった。苦しくて苦しくて、周囲と軋轢ばかり起こして、多大なる迷惑をかけていた。多くの人を傷つけもした。反省するばかりである。
夏はもう死に体であった。そんな中で僕はひたすら自分に呪文のように言い聞かせていた。
「僕は絶対に乗り越える」
冬になってようやく僕はめざめた感じだ。目ざめたというよりも思い出したというほうが適当かもしれない。忘れていたことがなんと多かったことか。
帰宅後部屋の掃除を夜中までやる。
99.12.27
会社から帰ってきてからまた部屋の大掃除。入らない雑誌や本を処分。少し広くなり、ご満悦。
整理していたら六年前の日記を発見。しばらく読んでいるとほんと、僕はなんでこんなこと忘れていたんだろうと思うことばかりであった。今の自分を振り返り、なんと進歩のない奴かと夜中に反省することしきり。
ネット上の小説を久しぶりに読みに行くもガッカリする。
ネットの小説ってそのほとんどが薄っぺらい人物しか出てこない。実に平面的である。故にその世界観も立体感がなく、風景が立ち上がってこない。内容もつまらないものが多い。
「こんなのでいいの?」
僕はそう言いたい。
今年実にしまりのない作品ばっかり書いてきたから、余計にそう思っているのかもしれない。
99.12.29
仕事納め。来年の仕事を貰うもあまりのいい加減さに呆れ果てる。怒りを通り越してただただ呆れるばかり。よく今までもってたよな、こんなので。いつかしっぺ返しがくるぞ。
手もつけたくないので掃除をして、人の仕事を手伝う。
会社が終わってから班のご苦労さん会。今年はおでん。食料品を買い出しに行く。
Sさん宅にお邪魔しておでんをつつき、白菜の漬け物、キムチをひたすら食べる。
お酒はビール2杯、カクテル4杯。致死量に近い。
よく食べ、よく喋り、(ぼくとしては)よく飲んだ。帰宅後少しメールを書いて、森敦著『月山』を読む。ただひたすらに溜息。
99.12.30
昼ごろまで寝てから出掛ける。
夕方母の買い物に付き合ったけど、年末の買い出しですごく混んでるかと思いきや、そうでもない。はてな、と思っていたらスーパーは元旦から営業するとのこと。さしも慌てて買い物しなくても大丈夫らしい。帰りに喫茶店で少し休憩してから帰宅。
今年もあと少し。
反省することばかりだけど、反省ばかりもしていらんない。
来年はもっとちゃんとした人間になろう。
大地に踏んばれる人になる。
来年は僕と関りのあった人すべての人にとって、最高で、明るくて、希望に溢れた一年でありますように。つづく
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