川沿いの町
個人的なハナシで申し訳ないけれど(といっても個人の話がエッセイなんだから別に断らなくてもいいんだけれど)過日、ある文芸サイトで「川沿いの町から」という小説を読んだ。
その作品「川沿いの町から」を僕はすごく興味深く読んだ。人に読ませる文章を書く人で正直僕はウラヤマシイなんてスネながら読んだけれど、僕はこの主人公にすごく魅かれた。そして読み終わった後、僕はショートホープに火を付けて、ベランダに目をやった。僕の住む町はヨコハマにある。港町のイメージが強いけれど僕はヨコハマでも山の方に住んでいる。海なんてみえやしない。
そのかわり僕の家の前には川がある。僕の部屋のベランダに出ると目の前には汚くて、ラブホテルのネオンが映る川がある。
そう僕の住む町は川沿いの町なのである。
生まれてすぐにこの地に越してきて以来二十数年、僕はこの町で育ち、今も暮らしている。町も川同様汚くて、入り組んだ細道が血管のように走っている元温泉地。今は開発が進みベッドタウンになっている。
僕はこの町が好きだ。
その理由は一つしかない。
家の前に川があるからだ。
僕の宝物であったウルトラマンのヒコーキを飲み込んだのはこの川だった。
学校に行きたくなくて泣いた僕をを冷やかしたのはこの川だった。
僕がずっと片思いだった女性に告白した夜、その気持ちを静めてくれたのはこの川だった。
その女性にフラれ、慰めてくれたのはこの川だった。
大学受験に失敗してふてくされた僕を励ましたのはこの川だった。
朝まで親友との語り合いを聞いていたのはこの川だった。
僕が初めて新人賞に出した小説の舞台はこの川だった。
いつだって僕のそばにいてくれたのはこの川だけだった。
汚くって、誰も褒めやしないこの川を、僕は好きだ。
これから先、僕はこの場所を離れるのかな。そう思う事がある。そんな時に「川沿いの町から」を読んだ。
このひどく寂しく、切ない物語は僕のお気に入りの作品である。
僕はあっちゃんに似てるけどマネは出来ない。彼女のその切ない思いと強い決心を僕は愛している。
いざ僕が彼女のように決心をつけられるだろうか。
この猥雑な川沿いの町を離れて好きな人を忘れて生きていけるかな。
それは僕には出来ないだろうな。僕はそう確信している。
どんなに離れても、帰ってくる町はこの町しか考えられないからだ。僕は彼女のような決心は出来ない。
そう思ったとき、女性は強いんだなとふと思った。
「故郷と僕をつなぐ糸はあと何本あるのだろうか。そんなことどうだっていいけれど、その内の一本がまた切れた。
僕は半分も飲んでいない缶ビールをこたつの上に置いて、電気を消すとベッドへもぐり込んだ。」小説の最後、彼女の決心の手紙を読んだ後、あっちゃんはそう思う。
この言葉は僕の胸に刺さる。別にこの地を離れた訳ではないし、彼女にフラれたわけでもないのにこの言葉は僕の胸を締め付ける。
あぁ、良い小説だな。僕は本気で思っている。そう思わせる作品を書きたいな。そう思いながら僕はまた、この作品を読み返す。この小説の作者である霜越あきらさんとはふとしたキッカケで知り合いになった。今はメールで時折話したり、文芸サイトでお話しをさせて頂いている。まだお会いした事はないけれど、きっとやさしい素敵な人なんだろうなと思う。良い人と知り合いになったなと僕は嬉しくてたまらない。
今こうしている間にも霜越さんは小説を書いていることだろう。僕はといえば今日もう何本目なのかわからないショートホープに火をつけ、ベランダの窓を開けて「川沿いの町から」を読み返しながらこの原稿を打っている。窓からは風がゆるゆると入ってきている。
お前も早く小説書けよ。
そう川が風にのせてささやいているようだ。
まあまあそう催促するなよ。お前をまた舞台に小説を書いてやるから。その前にもう一度この「川沿いの町から」を読ませろよ・・・。
参考文献 「川沿いの町から」 霜越あきら ノベルズワールド掲載作品