キレる男
短気である。
いわゆる「すぐキレる子供たち」なんである。子供じゃないけど。
単純直情型の人間なので、気に入らないとすぐに「プチっ」とこめかみあたりで音がする。昔はそこですぐに喧嘩になったけれど、最近はもう年を取ったから天井の節目を数えて気分をそらして熱を冷ますようにしている。でも他人から言わせるとそれでも「キレてる」というのはわかるそうだ。何故なら露骨に表情に出るそうで、口調は平静でも顔は明らかに不機嫌なのだ。
とにかく短気である。インターネットでは皆さんから「紳士」だなんだとお褒めいただくけれどそれは幻である。ネットでは少し時間が空くから多少のことはすぐに冷めてしまうし、別段キレる内容のことなどないからそう見えるだけで、本人に会えばすぐにわかるはずである。知人友人十人が十人口を揃えていう。
「あいつはすぐに怒る」と。
今の会社に入ってもう四年になるがキレて怒った事は数知れない。仕事のノロい女子社員にキレ、無茶な日程の仕事でキレ、イヤミな取引先にキレ、仕事がはかどらないでキレ、休みを削られてはキレる。とにかくよく怒る。
ただ我が身可愛さに自分をフォローをするけれど、理不尽なキレ方はしない。あくまで自分の中ではきちんとした正当な理由があるのだ。話だけを聞けばなんでもかんでもみたいに思えるけど。
五年ほど前だったか、ある友人と深夜のファミリーレストランに出掛けた。まあお茶でも飲もうかと思って車で出掛けた。店に入ってから小腹が空いた。でサンドイッチを頼んでしばらく友人と談笑してるとふいに騒がしくなった。振り返ると数人の学生ぐらいの若いニイチャンたちがいた。その時期は夏で確かに皆Tシャツやら半袖のシャツである。ただ一人、上半身ハダカの奴がいた。まあ筋肉モリモリならまだいいけど(ホントは良くないけど)どうにもしまりのない体である。ウェイトレスが注意をした。すると上半身ハダカのニイチャンはこうのたまったのである。
「暑いんだからいいじゃないか」
ここでこめかみから音がした。
「みっともねえ弛んだハラ見せられたら飯がマズイだろうがよ」
友人の制止より早く口からそう出ていた。ニイチャンたちは睨みつけるようにこちらを振り返る。びびる友人。ひくウェイトレス。
「文句あるなら外でるか?」
静かな声でそう言うとニイチャンたちは黙り、ハダカのニイチャンはシャツを着た。
僕も素知らぬフリで友人とまた話しはじめた。ニイチャンたちはそれから少ししてそそくさと帰っていた。
友人いわく、
「本気で人を殺しそうな目つきだった」そうだ。僕は本人だからどんな目かはわからない。
この話、これだけ聞くと野蛮だのなんだの非難される。けど僕は間違ったことはいってないはずである。確実に何人かは不快な顔をしていたんだから。ただあれだけ貢献してもありがとうもなく、しっかりお金をとられたのは理不尽だけど。なーんちゃって。
僕が初めて買った車でも少なくともディーラーには三回ほどキレてる。車検の前日までなんの音沙汰もなく、自分から電話をしたら「じゃあ持ってきてください」としれっと言われた。それでそのときはおとなしく車をディーラーまで持っていった。そこで点検の葉書すらこないのはどういうわけかを丁寧に説明し、こういう口調だけど本当はハラワタ煮えくり返ってると脅した。それでも彼らは葉書もよこさない。二回目の車検の時にまたこちらから電話をした。
「あのねえ、この前もそうだったけど、なんで通知の葉書がこないんよ」
「あれっ、営業のものから行ってませんか?」
「来てないからこうして電話してるんですよ、わかります?」
「はあ」
万事この調子。そこで僕は車検の際にクラッチが不具合をおこしているので交換したいがいくらかかるか知りたいと聞くと8万ほどと答えがかえってきた。まあ安くはないなあと思いながら車検を予約し、その際にもう一度クラッチ交換の値段をちゃんと調べて教えてほしいと頼んだ。
「じゃあ、調べておきます」
翌日車をまた自らディーラーに持っていき、交換の値段を聞いた。
「だいたい10万円です」
「ちょっと待ってください。昨日は8万で、今日は10万? ちゃんと調べると言っていてだいたいってなんですか」
「場合によりますので」
「場合って、どの人の車も交換は同じ作業でしょ? なんで差がつくんですか。修理ならまだしも。話になりませんよ。所長呼んでくださいよ」
「いえ、その」
「だいたいですねえ・・・」
以下僕のキレた口調が続いて説教が始まる。おかげで車検が終わったら取りにこいという態度が軟化してお届けにあがるといった。それは当たり前である。本来なら取りに来てもってくるのが普通である。アホか。
で、翌々日、ディーラーから四人も従えて部長とやらが挨拶にきた。平謝りでオイル交換をサービスしてくれた。それ以後僕は車を乗り換えたからお付き合いはないけれど、会社の同僚はこの話を聞いて、
「そのディーラーに勤めなくて良かった」と言っていた。
万事がこの調子である。このような僕を紳士と呼ぶのは間違いである。むしろこのような僕と今でも友人としてお付き合いしてくれている人のほうが紳士、淑女ではないか。この原稿を書いている今改めてそう思う。この場を借りてお付き合いをしてくれている全員の人にお礼を述べさせて頂く。こんな僕を呆れながらも付き合ってくれてありがとう。ただしこれからも正義だけは吠えていきたいと思いますのでどうかよろしく。
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