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宇宙の飛び方

(2004.4.9 UP)

SFゲーム「メイデイ」は、宇宙空間における慣性移動を極めて手軽な方法で再現した、システム的な傑作です (これより以前に同開発元から出ていた「トリプラネタリー」などは、マップに直接ベクトルを書き込んで慣性移動を再現していたそうですから、楽になったものです)。また、TRPGの古典として最近復活を遂げた「トラベラー」のサプリメントとしても位置づけられていて、雑誌内でも両ゲームの連結リプレイが行われています。

――と、そんなことはさておき。ついでにゲーム内における戦闘時の移動テクニックなんてものも置いといて(僕は攻略ゲーマーではないので、全く分かりません)、ここではやがてやってくる宇宙時代に備えて、「メイデイ」を使った星系内航法の基本を学んでいきたいと思います。

※図内の宇宙船マークは、実際のゲームのものとは異なります。
※物理にそれほど通じているわけではないので、間違いなどありましたらご指摘よろしくお願いします。


■等速移動

◆太陽系脱出速度について
地球が太陽の周りを公転する平均速度は約30km/sなので、地球の進行方向へ宇宙船を打ち出す軌道を取った場合は、16.7km/sの相対速度が得られれば、太陽系脱出は可能ということになります。
ご存じのように宇宙では、何かしらの力が加わらない限り、一度動き出した物体は永遠に等速直線運動を続けます。
もちろんそれはこの「メイデイ」においても同じこと。例えば下の図は、速度2で慣性飛行する宇宙船の様をターン毎に示したものです。ちなみにこのゲームにおけるスケールは、1ヘクスが30万q。1ターンが100分に当たるので、下の宇宙船ディスカバリー号もどきは、時速36万q。秒速にすると100qで等速航行中ということになります。地球軌道上からの太陽系脱出速度が46.7km/sであることを考えると、もの凄く早いですね。
宇宙船内は当然無重量です。



■加速移動
今度はエンジンを駆使して加速を行います。
下の図は、速度2で慣性移動していたディスカバリー号もどきが、1G加速を行い、次のターンでは速度3に。さらに次のターンでは2G加速を行って、速度は5(秒速250q)に達しています。
※慣性に加え、1ヘクス分移動距離を伸ばすような加速を、ゲーム上では便宜的に1G加速と呼んでいます(2ヘクス分なら2G加速)。これは現実の加速度と距離の関係とは異なるため、当記事における数値類は現実の計算とはズレがあります。ご了承ください。

加速したことによる移動距離の違いは、上の図と比較してみると分かりやすいでしょう。


このゲームにおける宇宙船の加速度は2Gまで。富士急ハイランドの「ドドンパ」辺りと比べても、あまりに緩い加速です(ミサイルは6G加速まで可能)。 しかし、考えてもみてください。もしも速度0の段階から毎ターン2G加速を続けると、丸一日経った24ターン後には速度48(秒速2,400q。これもゲーム上の数値)。スタート地点からは600ヘクス(1億8千万q)進み、地球から太陽までの距離を優に越えてしまいます。もちろん、この宇宙船は全力加速で丸一日飛行してきたので、止まるには宇宙船を180度旋回させ、さらに丸一日かけて減速飛行をしなければいけないのは言うまでもありません。
「加速度的に」とはよく言ったもので、ゲームではそうならないよう、シナリオにはある程度の工夫が必要かも知れません。

■夢のような話
もしも上記のような加速を行えるエンジンがあれば、光の速度も夢ではないようにさえ思えてきます。いや、実際には1G加速の方が地球と同じ環境を船内に作れるため、都合が良いでしょう。1年も過ごせば、銀河系中心に到達できるでしょうし(但し止まれません)、やがて宇宙船前方には「スターボウ」と言われるドーナツ型の美しい虹が見られるでしょう。これは「ドップラー効果」と「光行差」によるものです。

◆亜光速航行時の星間物質について
非常に薄い密度でしか存在していない星間物質ですが、亜光速時となると事情が違ってきます。「弾丸のように」というのならまだしも、それこそ光に近い速度で物質がバシバシぶつかってくるわけですから、例えそれが原子レベルであっても、宇宙船への影響は免れません。
そのため、シールドの必要も出てくるでしょうし(あるSFでは氷を利用していた)、或いは宇宙船であるにも関わらず、空力(?)特性を重視したソリッドなデザインの亜光速艇が出てくることもあり得るわけです。なんかワクワクしませんか?
本文で亜光速の難しさに触れておいて何ですが、常識は覆されるためにあります。未来の驚きに期待しましょう。
オリンピックサイクルの4年も経てば、宇宙船はほとんど光速に達し、干支が一回りする頃には銀河系を飛び出しています(但し地球では10万年が経過)。窓の外を見渡せば、全ての景色が前方の一点に集中していることでしょう。

しかし、現実はそううまくありません。物体の質量はスピードが上がるほど重くなるという厄介な法則が自然界にはあるため、速度0の時に1G加速を行うのと、亜光速の時に1G加速を行うのとでは、天と地以上に、必要なエネルギー量に差が生じるからです。
これは今現在我々が唯一手にしている、推進剤を使うタイプの宇宙船にとっては、絶望的な話です。まして減速についてまで話が及ぶとなると、必要な燃料は二乗倍され、絶望に輪をかけます。もちろん他にも推進方式はたくさん考えられているものの、実用性という意味での決定打は(机上でさえ)まだ出ていません。

――というわけで、異空間ドライブという特殊な航法が、SFでは欲しくなってくるわけですね。

■双曲線移動
と、ここで再びゲームの世界に話を戻すことにして――次は惑星の重力圏を通過した時の移動についてです。
下図の青い丸は惑星です。惑星はこのゲームにおいて、隣接ヘクスにのみ重力場を展開し、それぞれの重力ベクトルは言うまでもなく中心に向かっています。それを踏まえて――

≫≫宇宙船ディスカバリー号もどきは、速度2で慣性航行を行っています。
≫≫第1ターンの移動で、宇宙船は右斜め下にベクトルの向いた重力場ヘクス@に突入しています。
≫≫第2ターンでは、もし惑星がなければ宇宙船は慣性移動によりAの位置に来ます。しかし第1ターンで右斜め下の重力場ヘクスに入ったため、その影響でAの位置から右斜め下のBの位置に落下します。
≫≫第3ターンでは、前のターンで宇宙船は@からBへ移動しているため、惑星が存在しなければCの位置に来ます。しかし前のターンで左斜め下と、左にベクトルの向いた重力場ヘクスを通過しているため、Dの位置に落下します。
≫≫第4ターンは前のターンの移動で重力場の影響を受けていないため、素直にBからDの延長線上であるEの位置に移動します。


決して美しい双曲線軌道は描いてませんが、ゲームとしてはうまくシステム化されているのではないでしょうか?

ちなみに上の移動において、@の位置で左斜め上と、左側に移動するよう噴射(つまり右斜め下と、右側への噴射)を行えば、第2ターンでは@の右隣ヘクスに来ます。以降は慣性に任せたままでOK。惑星に落ちようとするベクトルと、惑星から飛び出そうとするベクトルが均衡し、永遠に惑星の周りを回れます。(現実にはチリなどの抵抗があるので、永遠とは行きませんが…)

■フライバイ

◆加速フライバイの補足
これは一見すると、自分の襟首を持って持ち上げたら飛べてしまった的な話です。しかし永久機関のあり得ない現実世界のこと。宇宙船の方だけが一方的に恩恵を得るということはあり得ません。当然惑星の方では負の力。つまり公転速度が遅くなるような力がかかります。ただし、惑星が影響を受けるには、宇宙船の力は微弱すぎ、惑星は巨大すぎるのです。
最後に、星系内航行の基本。フライバイもゲームで再現してみましょう。
フライバイ(スイングバイとも言う)とは、燃料消費の必要なしに速度を変える航法で、現在でも宇宙探査などには欠かせないものとなっています。要は惑星が太陽の周りを公転するスピードを利用して加速(ローラーゲームの「ホイップ」を想像すると、よく解るかと思います)、もしくは減速するわけです。
※メイデイの基本ルールでは惑星マーカーは移動しないことになっていますが、選択ルールを取り入れることで、一定方向に毎ターン1ヘクス動かすことができます。

≫≫宇宙船ディスカバリー号もどき@は速度2で慣性航行を行っています。
≫≫第1ターン。宇宙船はAの位置にある惑星の重力圏内に突入し、Bの位置まで移動します。その際、右斜め下と左斜め下の重力場ヘクスを通過しました。
≫≫同ターンの中間フェイズ。惑星はAからCへ1ヘクス移動します。この際、惑星の重力により宇宙船も一緒に移動。BからDの位置に引っ張られます。
≫≫第2ターンでは、前のターンで宇宙船が@からDまで移動しているため、重力の影響がなければEまで移動します。しかし、前ターンで右斜め下と左斜め下へ向かうベクトルの影響を受けているため、Fの位置へ落下します。このDからFへの移動の際、左へ向かう重力場ヘクスGをかすめています。
※ルールでは重力がヘクスの辺にまで及ぶのかどうかが記されていませんが、ここでは影響することにしました。
≫≫惑星はこのターンも移動しますが、すでに宇宙船へ影響を与えないため、以後は省略しています。
≫≫第3ターンでは、前のターンで宇宙船がDからFへ移動しているため、慣性だけの理屈ならHへ移動します。しかし、前ターンで左へ向かうベクトルの影響を受けたため、Iの位置へ落下します。
≫≫以後は慣性に従って移動。速度2でフライバイした宇宙船が、惑星の移動に乗っかる形で、推進剤を使うことなく速度を3に上げました。


上記は加速フライバイの例ですが、減速フライバイも理屈は同じことです。惑星の進行方向逆側から進入すれば良いわけです。

いつか個人で太陽系内をドライブする日のために役立つかどうかはともかく、少なくとも地球上(陸であれ空であれ)とは全く移動方法が違うということだけは感じてもらえると思います。


■ゲームとして見た時…
ゲームの方はというと、ルールの書かれ方が簡潔すぎる部分があって、正直分かりづらい部分が多いと感じました(元の発売元だったGDW社の特徴という噂も聞きますが…)。また、幾つか首をひねるようなルールもあり、改良欲が刺激されます。(嫌味?――いえ、違います。基本が悪いものは、改良の気さえ湧かないものです)

「ここはいっそ、自分たちで好きにルールを作りかえちまおう!」とか、「別のSF作品を、このシステムでゲーム化しちまおう!」ぐらいの気概のある方には、とても良いゲームだと思います。(実際それを推奨しているのか、シナリオ数もとても少なく、ユニットなども大型艦と小型艇の違いがあるぐらいで、機種ごとには用意されていません)
「完パケ。至れり尽くせりじゃなきゃイヤ!」という方には、恐らくこのゲームは向かないと思われます。

あと、コンピュータ・プログラムの拡張ルールは、より艦艇ごとの特徴を出すユニークなルールだと思う反面、いざやろうとすると、かなり面倒に感じるのも事実です。(それにしても、銀河系に帝国が広がっているような時代背景にあって、なんとCPUやメモリの貧相なことか!?)
(最近の事情ではあり得ないでしょうが)もしも宇宙船ごとにデータを記載した紙やチャートなどがあったら、もう少しやり易かったろうし、各艦艇の格好良い側面図などがついていたら、言うことなかったのだけど…(艦種ごとにユニットが用意されているのは当然として)

■ちょっとしたオマケ
というわけで、各艦艇ごとの性能や、発動可能なプログラムなどをまとめて見ました。個人のプレイ環境向上のために即席で作っただけのものですが、よろしければ自由にお使い下さい。(アイコンクリックでテキストファイルが開きます)

※説明書に誤字が幾つか見受けられたのですが、個人の判断で勝手に解釈してしまいました。テキストファイル内の誤字脱字に関して、責任の全ては管理人の克太にあります。






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