2003年4月20日 長野オリンピックマラソン            T.K

2003年1月初旬のある日、『今年は小笠じゃなくて、長野にでも行くかー!』という安易な
気持ちで出場を決めた長野マラソン。当初は館山→荒川→長野で3段階スライド方式?
での自己記録更新を目指していたが、4月という気温が上がり始める時期、横浜駅伝の1週
間前などなど記録を狙って出るには、リスクが大きく、その割りに成功の可能性が低そう?
そんな判断から今回は記録に対するこだわりを一切捨てて、ファンランで、走ることを思う
存分楽しんでみる事にした。

でも、ただファンラン?と言っても、じゃ、どのくらいのペースで走るんだ? どれくらいゆっくり
だったら42.195kmを楽しく走りきれるのだろう? と考えていくと、何か明確な目的なり設定
ペースが無い事には、何となーくで終わってしまいそうだったので、今回は日頃、応援などで
私の自己記録更新に協力してくれている?K枝に感謝の意を込めてサポート(ペースメーカー
?、ラビット)を努めようか?と提案したところ、K枝が快諾したので、これでいくことにした。

K枝の今回の目標タイムは4時間30分。ホノルルマラソンで4時間40分というタイムを出している
ので、その後しっかりと走りこんでいれば、このタイム設定はそれほど無謀ではないと思える。
がっ、しっかりと走りこんでいない。明かにホノルルへ出場する前と比べると、走行距離が足り
ていない。それでいて、気持ちだけは4時間30分切りに燃えている。ちょっと危ない感じだな
とは思いながらも、本人の意思を尊重した。

今回の遠征は大会前日入りの大会当日帰り。というノーマルパターン?。長野マラソンの場合
当日受付がないので、前日入りは必須となる。今回宿泊した宿は、長野駅から徒歩7〜8分の
ホテル日興というビジネスホテル。料金は長野マラソンパックでツインが7000円弱。(安い)
特別に部屋が汚いとか、狭いとかいうことはないので、問題は無かった。(特別に良いと言う事
もないが・・・ 歯ブラシは無い) 前日は、東京駅12時に集合して、あさま555に乗車。駅弁を
食べながら、のーんびりと旅行気分を味わった。(駅弁にビールが付いていたというラッキーな?
人もいた。)サムズからの参加者は、キャップ,A子さん,ヨー娘。さん,K枝,私という発足時から
のメンバーに加えて、みーたん,おがたさんの計7名。(男性は私1人だった・・・)

長野駅に到着すると、そこは長野マラソン&善光寺御開帳で大いに賑わっていた。駅舎内
には、長野マラソンイベント用のステージが整えられていて、色々なイベントが催されていた。
私達一行は、まずホテルにチェックインして大きな荷物を置き、それから受付会場へと向った。
受付会場では、やや遅れて現地入りしたおがたさんと合流。7名全員揃ったところで善光寺へ
お参り観光へと向った。長野駅から送迎バスに乗り、善光寺大門前で下車。参道を歩き境内
へと進む。時間的には5時に近かったので、普段なら閑散とする時刻なのだろうが、さすがに
7年に1度のビッグイベント?御開帳シーズンというだけあって、この時間になっても人の波は
途切れる事なく続いていた。何を見たら良いのか?何をやったら良いのか良く分からない
わたしたちは、取り敢えず、人の流れる方へと進み、周りの人の真似をして、500円の参拝料
を支払い、お焼香のようなものを行って、7年に1度公開されるという前立本尊とやらを拝み、
参拝終了!かと思いきや、ここからが面白かった。お戒壇巡りというのがあり、それも何だか良く
分からなかったのだが、折角500円払ったのだから、経験してみようということで行ってみると、
これは、善光寺のお寺の下へと続く階段を降りて、真っ暗やみの中を手探りで進み、壁に掛か
っているカギを探すという冒険チックなアトラクション?だったのだ。
この暗さが半端じゃない。僅か数十センチ先にいる人さえ全く見えないのだ。壁に手を這わせ
ゆっくりゆっくり進む。そして壁に掛かっているカギのようなものに触れることが出来ればいい事が
ある?らしい。とりあえず全員カギに触れることが出来たので大成功???
帰りは参道で数珠を買って、おやきを食べて、夕食場所へと歩いて移動した。(丸ナスのおやき
は旨かった・・・)

夕食は、居酒屋風のお店で、山菜の天婦羅(キリンビールのCM見てからむしょうに食べたかった)
や馬刺し、わさびのお浸しなどなど春の味、信州の味を堪能した。やっぱり遠征にグルメはツキ
モノでしょ・・・と言うわけで、翌日にレースを控えているなんてことはすっかり忘れて、よく食べて
良く飲んだ。この点、去年出場した小笠掛川マラソンは、大会自体はフルーツエイドなんかが
豊富で良かったんだけど、宿泊した掛川駅周辺が寂しくて、遠征に付加価値を求めてしまう私と
しては非情に寂しかった訳です。それに比べると長野は良い。お店も多いし、この時期山菜シー
ズンということで食べ物も旨い。レースを迎える前に既にお気に入りの土地ランキング上位に入って
いました。(ちなみにその他のお気に入りは、国内では北海道全般、飛騨高山、越後湯沢などなど)

レースが無ければ、2次会、3次会と流れ、最後は蕎麦で!と行きたいところだが、体調を崩すまで
いってしまっては、いくらファンランとはいえ42.195km走るのは苦しかろうし、しかもK枝他何名かは
ここに自己記録を掛けていたわけで、とりあえず初日はこれにて打ち止めとして、コンビニに寄り
夜食デザート、翌日朝食を調達して宿へと戻った。話しは違うが長野って異常にセブンイレブンが
多いような気がするのだけれど、なんでだろう??? (
♪♪なんでだろう???
そういえば長野マラソンのスポンサーもセブンイレブンだった。

翌日は5時30分に起床。準備を整えてホテルを6時30分に出発。長野駅からスタート地点へ
送迎バスで移動。天候はあいにくの雨。結構降りが強い。前日の天気予報で覚悟はしていたが、
やはりガッカリ・・・ そしてK枝は前日から痛めた腰がこの日も治らず、ちょっと捻っただけでも、
『イテテ・・・』といった状態。横断歩道の小走りですら、『アイタタタ…』という状態だったから、
こりゃ記録更新はもとより、完走すら危ないんじゃないか、下手すりゃ10kmいかない序盤でリタイヤ
なんて状況も想定していた。自分が記録を狙っているレースなら雨が降ろうが、お構いなしだが、
サポートと割りきっているレースで、さらにその対象のK枝が腰痛持ちでは、テンションは下がる
一方。スタート会場に到着しても雨は止まず。むしろ強くなっていた・・・

スタート会場では、雨を凌げる僅かなスペースを探してじっと我慢。『早くスタート時間にならない
かな』というのが参加者の本音だった。そんな時、としおさんと再開。いつ以来になるのだろう?
凄く懐かしい気がした。としおさんとは、ゴール後にも再開。本人は納得いくレースでは無かった
ようだが、時間内(5時間以内)で完走はされてました。
そうこうしているうちに時間は流れ、スタート時間が近づいてきたので、ゴール地点行きの荷物を
預けて、レインコートを着こみスタートラインについた。レインコートを着て走るという点からして、
レースではなく、マラニックの様相だが、スタートが近づくと、空が明るくなり始め、スタート数分前
には雨も殆ど上がり、なかなかのコンディションになってきた。念の為、レインコートをきたまま、
スタートすることにしたが、どこかで捨てた方が良いかな?という期待を抱くほどに天候は回復
していた。

そして9時、海外招待選手が次々に紹介され、いよいよスタートの雰囲気が高まってきた。
列が徐々に動き始め、スタートの合図となるピストルが鳴り、SMAPの音楽が流れ、スタートと
なった。NHK教育テレビで全国放送されているということもあり、ランナーは、テレビカメラに
向って手を振りながら、走り去って行く。SMAPの歌詞(♪ナンバーワンよりオンリーワン)という
ところが何故かやけに心に響いた。この長野マラソンのコースは、最初の5kmくらいが下り坂に
なっている。普通に走ってもペースは上がる。ただここで、ペースを上げてしまうと後半地獄を
見ることになってしまう。K枝の具合は? 腰のほうはまだ大丈夫そうだ。
身体が温まってくれば、中盤ぐらいまでは問題無く走れそうな感じだ。ペースは、5分40秒/km
くらいなので、K枝の実力からするとちょっと速いが、リズム良く走れているので、無理に抑えると
余計に筋肉に負担がかかりそうなんで、そのまま行かせることにした。

2km、3km、4kmと距離が進むが、安定して5分40秒/kmペースを刻んでいる。これまでのK枝の
レースは前半〜後半までペースが変わらないという特徴があった。今回に限っては序盤が下りと
いうことで貯金を作ってのレースという、これまでとは、ちょっと違った展開になった。後半の粘りは、
本人も自信を持っているようなんで、本来ならこの貯金は大きな財産になるはずだが、私の頭に
あるのはやはり2月〜3月の走行距離が不足しているという点だ。これで、後半持ち前の武器を
発揮する事ができるのだろうか?本人が語る”マラソンの神様”は降りてきてくれるのだろうか?

K枝のほうは、ここまで特に問題無く来ていた。腰の痛みも気にならないらしい。ただ私の方は
ちょっとした問題を抱えていた。尿意をスタート直後からもよおしていたのだ。私のトイレでK枝に
ストップを掛けるわけにはいかない。K枝もトイレにちょっと行きたいらしいのだが、ここまでトイレ
が無い。私のほうは5kmを過ぎたあたりでは注意報が警報に替わるほど急を要している。
立ちシ○ンでもいいのだが、それをしてると、K枝のトイレと合わせて2度止まらなければならない。
トイレは一緒のタイミングで・・・と言う事で、トイレを探してきょろきょろしていた。しかしなかなか
見つからない。立ちシ○ンしているランナーは沢山いる。あぁぁぁぁぁぁ・・・・トイレに行きたい、
もう駄目だ・・・と思った瞬間、ドライブインらしきところにあった!公衆トイレだ・・・ しかも誰も
並んでいない。これはラッキー!とばかりに二人で掛けこんだ。

トイレに要した時間は約2分。K枝の場合、レース中に1〜2回はトイレ休憩をするらしいので、
これは計算の範囲内だった。5kmを過ぎたこのあたりからは平坦な道が続く。ペースのほうは、
6分10秒/km程度。6分23秒/kmペースで走りつづければ、4時間30分は切れる事になる。
しかしながら、前半5kmの下り坂で大きな貯金を作り、その後トイレに行ったとはいえ、まだ貯金
が残っていたので、先の事を考えれば、もう少し抑えても良さそうな気がしたが、この1ヶ月の
スピード練習(フォーム改良)が効いていたのか、足取りがスムーズで良いリズムで走っている
ように見えたので、特にアドバイスはせず、そのまま行かせることにした。
しかし正直なところ嫌なイメージが私の頭の中をよぎっていた。それは私自身の館山若潮で前半
軽快なペースで行ったら後半パッタリ足が止まるという経験があったからだ。あの時も前半は体が
軽く、貯金をどんどん作っていた。速すぎると思い抑えようとしてもペースがなかなか落ちず、
30km手前あたりで突然足が止まってしまった。そうならなければいいのだが…走りこみの量不足、
直前のスピード練習。この辺からして、そうなる可能性は凄く高かった。でもK枝は自分と違い、
どんなレースでも後半じわじわペースを上げていく粘り強さを持っている。
それに期待して敢えて、ペースを抑えるような事は口にしなかった。

10kmを過ぎると高速道路沿いのコースへとなる。ここまでK枝のペースに気を使って走っていたが、
個人的にはファンランの意味合いが強かったので、出きるだけ声援に応えるよう、心掛けていた。
この大会は沿道の声援が大きく、また観客の数も多い。常にコース脇には応援してくれる人達が
いるような感じだったので、いつも手を振って走っているようになる。でも、それが凄く楽しい。
ユニークな声援を贈ってくれる人もいた。まだ5kmも走っていないのに『ゴールはすぐそこだよ!』
とか、10kmを過ぎたあたりで『まだ優勝の可能性あるよー!トップはゴールしてないからね!!』
など・・・ 雨は上がり、薄日が差すほどに天気は回復していた。K枝にとっては、これからが勝負。
私にとっては、これから先、どんな景色なのか?どんな応援をしてくれるのか?益々楽しみになっ
てきた。ところで同じ位置からスタートしたヨー娘。さん、おがたさんは今どの辺にいるんだろう? 
A子さんは?なんて思っていたら、その答えが意外と早く見つかった。

高速道路沿いのコースをしばらく走っていたら、後ろからヨー娘。さん、おがたさんの二人が追い
ついてきたのだ。暫らく一緒に走っていたら、今度はA子さんが前にいるのを発見した。
この時点で5名集合。少しの間、一緒に走っていたが、A子さんはここまでのペースが前日に立てた
綿密な?作戦よりも速すぎる!ということで後へ下がり、ヨー娘。さん、おがたさんは調子が上がって
きたのか先へと行った。1度集合したグループが分かれて、それぞれのレースがまた始まった。

高速道路沿いのコースが終わり、ガードをくぐると、目の前に橋が見えてきた。千曲川を渡る橋だった。
小布施橋という名前らしい。鉄道の鉄橋っぽくて独特の雰囲気を持っている橋だった。橋を渡り始めて
暫らく進むと、15kmのチェックポイントがあった。橋から見下ろす景色も綺麗で菜の花の黄色や満開
状態の桜のピンクなど色とりどりの花が咲き誇っていた。応援が多いのも特徴だが、ほのぼのとした
景色を見渡しながら走れるというのも凄く良い。風も無く、雨も上がり、走っていて本当に気持ちが良い。
でもとなりを走っているK枝はというと、真剣そのもの。余裕が無い。声を掛けても反応が鈍い。
ペースも少しづつ落ちてきている。15km通過付近では、6分30秒/km程度になっていた。
抑えるという意思を持ってのペースダウンなら良いのだが、自然に落ちてしまっているのだとしたら、
危険信号だ。ペースとは落ちるものではなく、落とすものだと誰かが言っていた。このままのペースで
30kmを越すまで行ってくれれば良いのだが…

小布施橋を渡るとしばらくは千曲川沿いのサイクリングコースを走ることになる。ここは普段は風の強い
ところらしいが、この日は無風。川沿いのサイクリングコースというと荒川市民マラソンを思い出すが、
荒川の場合、特別な応援ポイントを除くと殆ど応援は無いが、この長野マラソンは、民家から離れた
サイクリングコースにも関わらず、様々な趣向を凝らした応援がある。こいのぼりを振って応援してたり、
ランナーの名前が書いてある大きな旗を振っていたり、日の丸もあった。ランナーは応援してくれている
人を楽しませ、応援してる人はランナーを勇気づける。そんな一体感のある場所だった。
コースガイドでは、この千曲川沿いのポイントは、応援が少なく、単調と書いてあったが、景色も良いし
応援も充分過ぎるくらいあった。子供達とハイタッチをかわし、声を掛けてくれた人には手を振ったり
帽子のツバをつまんで応える。K枝のほうも応援に励まされて、元気には見えるが、ペースはじりじりと
下がり気味。この時点で、4時間30分という目標は諦め、K枝の自己記録更新(4時間40分)に
ターゲットを定めて、今後のペースを計算した。

千曲川沿いのサイクリングコース終盤(22〜3km)になると、K枝の表情が曇り始めた。沿道の応援は
相変わらず多い。ハイタッチをもとめて差し出している子供達もいる。K枝はそれに応えてはいるの
だが余裕がない。『大丈夫か!』と声を掛けても反応が薄い。ペースは6分30秒/kmを越えている。
前半の貯金はもう使ってしまっている。ここからペースアップしない限り、4時間30分は絶望的。
今のペースをあと10km守れれば、自己記録更新の可能性はあるが、このままズルズルいってしまうと、
それすらも難しい目標となってくる。コースはサイクリングコースを外れ、エムウェーブへと向う大通り
に出た。エムウェーブの応援は凄いらしいからもう少し頑張れ!と促すが、反応が無い。
また天候の急な回復により、気温が急上昇して、自己記録更新への妨げとなってきた。

エムウェ−ブでの応援は評判通り凄かった。コース幅の狭い沿道に大勢の観客がいるから余計に
声援は大きく聞こえた。エムウェ−ブを過ぎると気温の上昇はさらに激しく、夏のような気候になり
はじめた。路面も完全に乾き、それと共にのども乾くようになってきた。ペースが落ちているので
給水所から次の給水所までの時間が長くなる。給水が間に合わなくなってきていた。元々私は、
あまり給水しないでも走れるほうなのだが、K枝は良く水を飲む。汗をよくかくタイプのようだ。
暑さに負けて表情が険しくなってきた。今回は”マラソンの神様”が降りてはこないのだろうか?

25km〜30kmの間には、五輪大橋という有料道路を渡る。橋と言う事で上り下りはつきもの。
マラニックペースで走っている私にとっては、どうと言う事は無い坂であったが、K枝にとっては
厳しかったようだ。ペースはさらにダウンして7分/kmを越えようかというところまできている。
もう自己新も厳しくなってきた。それよりも、このまま落ちて行ったら歩き出してしまうのでは?と
いう心配にもなってきた。五輪大橋を渡り終えると、料金所があり、ゲートの中にはおじさんが
普段と同じように、料金回収場所に立っていた。通行止めになっているから車は来ないのに・・・
絶好の応援ポイント???

30km地点を越えると、このレース唯一の折り返しコースが現れる。このあたりで雲行きが少し怪しく
なってきた。時々涼しい風が吹き、今にも雨が降り出しそうな灰色の雲が現れてはじめた。でもこれ
はK枝にとっては吉兆。何しろ暑さでバテ気味だったのが、涼しくなってきたのだから・・・
ペースも一時は7分30秒/km近くまで落ちこんでいたのが、7分/kmをキープできるようになって
きた。いよいよ”マラソンの神様”到来か?

折り返しコースを終え、ホワイトリングの横を通過する時に、雨が降り始めた。それもかなり本格的に
降ってきた。私は再びレインコートを着こんだが、K枝はそのまま。そんなことをする余裕は無いのか?
確かにおりて来たと思えた”マラソンの神様”だが、雨が降り出したのと同時にまた空へと戻ってしまっ
たようで、35km地点に達した時、急激なペースダウンが始まった。何とか給水時の歩く時間を短く
しようと先回りしてドリンクやバナナを取り、手渡したりしたが、それでもロスが大きくなる。疲れていて
給水の時間やバナナを食べる時間が徐々に長くなってきているのだ。給水も含めた平均ペースでは
8分/km近くまで落ちこんでいる。すぐ後を走っていたはずのK枝が振りかえると遠くに離れている
なんてことも頻繁に起こり始めた。

ゴール予想タイムは、このまま走りつづけたとしても4時間50分を切れるかどうかというところまで、
落ちてきてしまった。コースは再び千曲川沿いの道路を走ることになる。雨に煙る千曲川が今のK枝
を象徴しているように、曇って見えた。それでも走りつづけている。いつ歩き出すか心配しながら見て
いたが、走りに力はなくなってきているものの何とか走っている。雨が強くなってきたせいか、沿道
の応援が少なくなってきた。残り5kmの地点で足首の痛みを訴えてきた。チタンローションを塗り、
再スタート。『残りの5km、ビシッと行こう!』と声を掛けるが反応は相変わらず、薄い。

千曲川から離れて細かいカーブをいくつか曲がると残り3km。突然、膝に痛みを訴えてきた。膝と
いうより、膝の上のやや内側の筋肉だ。『もう、攣りそう!』という。仕方ないので、再びチタンローション
を取りだして塗った。ここで攣ってしまい、歩き出してしまったら、記録云々ではなく、時間内完走が
難しくなってしまう。幸いにもチタン効果が発揮されたのか、攣りそうな状況からは脱したようだ。
陸橋を越えると、遠くに長野オリンピックスタジアムが見えてきた。笠を被ったおじさんに『もうここまで
来たら、気合で行くベ!』と声を掛けられた。このあと、おじさんに何度か追いつくが、追いつくと
ダッシュで逃げていってしまう。結局逃げ切られてしまった。

徐々に大きくなっていく長野オリンピックスタジアムだが、なかなか入り口が見えてこない。スタジアム
はすぐ横に迫っているだが、入り口がない。応援は凄く多い。気分は良い。個人的には疲れては、
きているものの、まだ何とかなる程度の余裕は持っていた。しかしK枝は今すぐにでも、歩き出したい
立ち止まりたいほどに疲れている。『もう少しだよ。』と声を掛けても、不機嫌な顔で頷くだけ。
残り500mをきってようやく人の波がスタジアム方向へ曲がって行くのが見えた。
いよいよゴールだ。それを確認してようやくK枝の顔に笑みが戻った。

この時点でタイムは4時間50分。何とか時間内完走はできそうだ。スタジアム内に入ると百数十メートル
を残すのみ。ここへきて急にペースを上げた。ここまできたら、記録更新する訳ではないので、ゆっくりと
廻りの観衆を眺めて味わいながらゴールすればいいのに・・・ と思うのだが、自分なりのベストを尽くし
たいのだろうか目一杯走っていた。ゴールが目前に迫ってきた。私にとっては、楽なペースで景色や
応援を楽しみながら走るという、楽しくて仕方ないレースだったが、K枝にとっては、4時間30分という希望
を胸にスタートしながら、その希望を絶たれ、目標を失いながらただひたすらゴールを目指して走りつづ
けるという、肉体的にも、精神的にもこれまでで最も厳しいフルマラソンになってしまった。4時間30分という
意気込みは強かったが、フルマラソンとは、気持ちだけではどうにもならないんだよ!、ということを教えて
くれたようなレースだった。それでもゴールラインを越える瞬間、K枝は両腕を突き上げた。
当初の目標は達成できなかったが、最後まで走りつづける、最後までランナーでありつづけるという自分
なりのプライドを守ったのだ。その達成感が、最後のガッツポーズに現れたのかもしれない。
ゴールした時、雨は上がっていた。雨の中のスタート、雲間から見える青空、再びの雨、雨上がりの曇り空
とコロコロ変わったこの日の天気は、K枝の走りを象徴していたのかもしれない。

レース後、長野駅に繰り出して、信州そばを食べて長野の土地をあとにした。1泊2日という短い時間では
あったが、観光あり、グルメあり、そしてレース中には、長野の暖かい人達とのふれあいもあった。
また来年も・・・ そんな気分にさせてくれる大会だった。


戻る