湘南ビーチマラソン
                                 
金子尊博

2000年6月4日(日)晴れ、弱風

1週前の山中湖ロードレースに続き、2週連続での大会出場となった湘南ビーチマラソン。
これまで、練習も含めロード以外は走ったことがなかったので、『どれほど大変なんだろう?』という
不安半分、新しい種目に挑戦できるという期待半分での出場となったが、まず最初に悩んだのが
シューズ。砂浜を走ることを想定し、普通のランニングシューズでは砂の抵抗が大きく走りづらそうに
思えたので、地下足袋を準備。大会前に一度は試してみようと思っていたが、結局何もしないまま
当日を迎えてしまった。昨年の湘南ビーチ経験者は、『砂浜というより砂利と言う感じなので靴の中に
砂は入らない』、『地下足袋だとクッションがないのでどうか?』と語る。前日まで迷っていたが結局、
経験者の意見を素直に聞き入れ、普段から履きなれているシューズで参加することにした。

サムズ・アップからの参加メンバーは、10kmの部にキャプテン、ノブさん、そして私。5kmの部に亀ちゃん
とうちの妻。そして今回は、喜楽さんが合流してくれることになった。喜楽さんはサムズ・アップのホーム
ページを見て、チームに合流してくれた最初の方で、昨年の湘南ビーチマラソンで7位。陸連にも登録
しているという実力の持ち主だそうで、経験の浅いサムズ・アップのメンバーにとっては心強い存在と
なった。

スタートは、10kmの部が10時。5kmの部が11時30分。会場へは8時30分に到着していたので、たっぷり
と時間があった。コースは、二宮の五ツ浦漁場をスタートし小田原方面へ1kmほど行って第一折り返し
地点へ。スタート地点に戻ると今度は大磯方面へ4km行って第二折り返し地点へ。往路も復路も同じ
ビーチを走ることになる。波打ち際を走るのか、乾いたところを走るのかはランナーが選択する事になる。
この付近の海岸の特徴としては、砂はやや粗めで海から離れるにしたがって砂利や石が混じってくる。
また傾斜も急になっているように感じる。昨年の写真を見ると、波打ち際を海水に濡れながら走っている
ランナーが多く見うけられた。海水に濡れながらでも、締まった砂浜のほうが走りやすいということなの
だろうか?

コースに到着すると、喜楽さんの一言『今年のコースは走りやすい。その分面白みがないけど...』
正直いってあまりピンと来てなかった。砂浜を走るなんて始めての経験で、どんなに走りやすいと言っても
ロードより走りづらいことには変わりないから... でも結果的に、優勝タイムは7分程度縮まったらしい。
やっぱり今年は、走りやすかったんだ...

スタート前。祭囃子が鳴り響き、レースというよりは、お祭りの雰囲気が漂っていた。気分的にもあまり
緊張感がなくリラックスしていた。天気もいいし、風もさわやかだった。まだ6月の初めなのに浜辺は
すっかり夏になっていた。10時ちょうど。スタートが切られた。ゆっくりと列が動き出す。スタート地点を
過ぎるといきなり砂利地帯。足元に注意を払い、こわごわと走り出す。しばらく進むと波打ち際へとコース
は移る。たしかに走りやすい。足を取られる事もそれほどない。所々に転がっている石に気をつければ
ロードよりも走り心地はいいかもしれない。

調子は良かった、と言うか調子に乗っていた。最初の1キロの折り返し地点を過ぎると慣れてきたせいか
自然とペースが上がって行った。スタート地点に戻った時も依然として調子は良かった。それでも汗を
かなりかいていたので給水はしっかりと摂った。この後もしばらくは調子に乗って走りつづけた。

呼吸が荒くなり始めたのは、2回目の折り返し地点(6km地点)の手前。波打ち際のコースが陸側へと移動
して砂の深い部分(砂利、石混じり)に差し掛かった時だった。
足が埋まるような感覚になる。地面を蹴っても砂に吸収されてしまい足が前へ出づらくなる。
波打ち際の固く締まった砂地とは、ぜんぜん違う感触だった。力まかせに前へ進もうとするが思ったほど
進まない。不動川の仮設橋を渡る時には、完全に息があがっていた。そういえばレース前、喜楽さんが
『足が砂に埋まるけど、あまり力まずに走ったほうが良い』と言っていた。この言葉を思い出して
これ以降は深い砂地で足が埋まっても力を抜き惰性で走るよう心掛けたが、ここで無駄に使ってしまった
体力はもう戻らなかった。ここから厳しい湘南ビーチマラソンが始まった。

サムズ・アップの他のメンバーは、というと
喜楽さんとは折り返し地点のずっと手前ですれ違った。先頭ランナーともそれほど離れていなかった。
順位的には、5、6番目? ノブさんには3〜4km地点で抜かれた。無理してついていかずに我慢。
キャプテンは自分が折り返したときにすぐ後ろにいたのを確認している。『そろそろ来るかな?』と
思っていたら8キロ付近?でついにキャプテンに追いつかれた。着いて行くべきか、自分のペースを
守るべきか一瞬迷った。でも、残りあと僅か、着いて行けるところまで着いて行くことにした。残りの距離
が短かったし、折り返してからペースを少し落してた事で、僅かながら余裕があったから?
そしてこの後、ゴールまで抜きつ抜かれつのデッドヒート?を繰り広げることになる。

とにかく、残り1キロはきつかった。ちょっと気を許すとスピードが落ちる。かといってペースを上げよう
にも上がらない。往路では、走りやすいと思っていた場所が走りづらく感じる。落ちている石が気になる。
前のランナーが残して行った足跡でさえ気になる。はるか遠くへゲートらしきものが見えているが近づか
ない。キャプテンとは追いつく、追い越す、追いつかれる。の繰り返し。でも苦しいながらも楽しかった。
ゴールが見えていたからかもしれないし、チームメイトと並走していたからかもしれない。
マラソンは単なる個人競技ではないということを再認識した。

そしてゴールへ。最後の力を振り絞り、落ちかけてた帽子を握り締めてゴールラインを走りぬけた。
その場に倒れこみたいほど疲れた。呼吸が落ち着くまでしばらく掛かった。10キロという短い距離
だったが長く感じた。でも、何分かするとこの苦しさを忘れてしまい、走りきったという充実感だけが残る。
だから続けていけるのかな?

人間というのは、そうゆう風に出来ているものなんだ、きっと。苦しさをいつまでも憶えていたら先に進め
なくなる。苦しかったのは確かなんだけど、どこが、どれくらい苦しかったかなんて時間が経つにつれて
忘れてしまう。思い出せない苦しさに怯えて躊躇するよりも、走りきったという確かな手応えを自信に
変えて、また新しいことに挑戦していくんだ。次は24時間リレーマラソン? どれだけ苦しむかなんて
分からないけど、ゴールした時の喜ぶを思い浮かべて走ればきっと頑張れる。

『この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。
  危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となり、
    その一足が道となる。迷わずゆけよ、ゆけば分かるさ。』
 
--- アントニオ猪木引退の言葉 ---

 一休禅師 『道』 より

おまけ:湘南ビーチマラソン後のイベント、ビーチフラッグは結構盛り上がった。特に小学生の部は、
全日本クラスのデモンストレーションより白熱していた。負けると泣き出す子供や闘志を剥き出しにする
子供。夢中で旗(ホース)を目指す姿にスポーツの原点を見た気がした。

湘南ビーチマラソンは他の大会ではあまり味わえないような、お祭りムードが漂っていて楽しかった。
また来年も...


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