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2005富士北麓24時間リレーマラソン
             −結晶、悲願の入賞−

同じ時間、同じ空間、同じ状況これらを共有した仲間にしか分からない苦しさがある。時には逃げ出してしまいたくなるほどの痛みが訪れ、時には思うままに動けないという苛立ちが生じ、全てを注ぎ込んでいるのに結果が伴なわないと絶望感さえ生まれる。でもこの苦しさに立ち向かって、一つの事をやり遂げた時には、この苦しさが、何倍もの感動を生み出し、仲間同士を固い絆で結ぶ。
サムズ・アップリベンジというチーム名の由来、これは2年前に遡る。2003年富士北麓24時間リレーで失った何かを取り戻す為、レース後に味わった虚しさを払拭する為に去年このチームが結成された。そして最後まで諦めず10位のチームを追い続けたが、僅か1分の差に泣いた。そして再び・・・2年前の夏、富士北麓公園に忘れたものを取り戻す為、今年も12名の走者が集まった。

メンバー紹介
リベンジチームの走者12名を基本ローテーション順に紹介する。私の主観なんで悪しからず・・・

HANZAさん:ズバリ24時間男! オープニングランナーはリーダーネクちゃんのご指名。
抜群の安定感で今年もチームに落ち着きを与えてくれます。

タカさん:3年連続3度目の富士北麓。今年は最年少から脱却し、成長した大人の走りを魅せる???

ネクちゃん:3年連続のリーダー、責任感が強く、また逆境に強い走力を兼ね備えている。
しかし今回は、皆に隠している深刻な秘密が・・・

Jrさん:ハンドルネームは違うんだけど、親しみをこめてこう呼ばせて貰います。サムズには稀な?快速の持ち主。チーム最年少の若武者が、チームを引っ張りまくる!

T.K:私、今回は何故か好調、富士北麓出場6回目にして最高の仕上がり。自分で自分に期待してます。期待を裏切らないようにね・・・

でんでんさん:もはやチームの柱的存在。ほっといても勝手に結果を出してくるんで、何も心配いりません。今回も必ず期待通りの走りを見せてくれるでしょう。

エスパシオさん:この方を一言で表現するなら、”ド根性おやじ”かな? 晴れ男さん不在の今回、チームに檄をとばすのはこの人しかいない。

純米酒さん:いつもマイペース。何を考えているのか、掴み辛い所はあるが、やるときはやる。熱いものを心の秘めたヒットマンタイプか?

こんちゃん:勝負チームとして富士北麓に挑むのはこれが初。記録上昇中で、リベンジチームの中では”台風の目”的な存在になりそう

ひあーるさん:勝負チームの常連。”チャンスがあればいつでも走る”という意気込みは素晴らしい今年も”制御不能の暴走特急”は健在か???

うさぎ2さん:決定力不足のリベンジチームにとっては心強い味方の登場。”10位入賞なんて小さい、小さい。もっと上を目指さなきゃ”って言われそう???

バーモンスさん:3年前、奇跡の入賞チームの立役者。今回入賞すれば唯一の入賞確立100%男となる。抜群の走力で入賞請負人として突っ走ってくれそう。

以上12名で入賞を目指す。2年間待った分、たっぷりと利息をつけて忘れ物を返してもらわなきゃ!

スタートのカウントダウンが終わり、24時間が始まった。『始まっちゃったね!』が思わず出た言葉。これから先、どんな苦しみが待ち構えているか分からないが、その先に見えるのは栄光と感動。そう信じて漕ぎ出していく。 オープニングランナーのHANZAさんが戻ってきた。ラップは5分台。経験豊富なHANZAさんならスタート直後の暴走集団に巻き込まれず、冷静な走りをしてくれる。それが狙いだったが、北麓の魔物?はそれを許してはくれなかった。しかし、これが暴走ではなく好走であったことに数時間後気づく。HANZAさんのタイムに触発されてか、後続のランナーも5分台を刻み続けた。

途中から合流する2本の大砲(うさぎ2さん、バーモンスさん)を除く10名でまわした1巡目、2巡目はともに平均ラップ5分47秒。その後5人で2巡の変則ローテーションを組み込むが、それでも5分台をキープ。この時点で既に入賞圏内に突入しようとしていた。このままのペースでいけば240周を超える驚異的な記録になる。(前年の順位では4位に相当) ペースとしてはオーバー気味。しかし順位は8位〜10位という入賞ギリギリラインを上下していた。『今年は去年よりレベルが高いのか』そんな意識がチームの雰囲気を少し重たいものにしていた。 (いゃ、まだまだ勝負は先だ! 焦りは禁物。)

レース開始4時間後、1巡毎の平均ラップが6分台に突入した。全体的に少しづつタイムが落ち始めてきた。さらにタカさんにアクシデント発生。聞くところによると足が攣る寸前までいったという。ラップはさらに落ちた。後続チームは依然ハイペースのラップを刻んでおり、一時10位まで順位を下げてしまう。焦りが現れ始めた。10位という位置でレースを進めるのは出来れば避けたい。11位以下には大日本印刷もいるし、過去に入賞経験のある強豪チームもいる。できれば8位以内でレースを進めたかった。そんな気持ちがさらにチームの雰囲気を重たくした。 (駄目だってまだ焦っちゃ・・・ 勝負は夜中だ!)

レース開始7時間後、希望の光が見え始めた。チーム順位は依然として8位〜10位を浮き沈みしていたが1本目の大砲、うさぎ2さんが合流したのだ。今年のサムズには4本の大砲がいた。タカさん、Jrさん、うさぎ2さん、バーモンスさん。このうちタカさんは不調を訴え、押さえ気味の走りで6分前半で一杯だったので、5分台を常に叩き出していたのはJr一人だった。そこへ加わるもう1本の大砲ということで、チームの雰囲気が変わり始めた。『うちはまだもう1本大砲を持っている。』『これから先、他のチームはラップを下げるがこっちは上げられる』 その余裕がチームを活気付けた。(いいぞー!)

レース開始9時間後、9位の座を確保しはじめた。僅差で10位に続いていたチームとの差が徐々に離れ始めたのだ。差は1周近くになろうとしていた。おととし残り3時間で3周差を逆転されているので1周程度の差では到底、安心などできないが、それまで常に1分以内の差でついてきていたチームがじりじりと下がり始めたと言うのは好都合だった。これで9位の座を確保できれば、さらに上を目指せる。しかし8位チームとの差は1周以上。簡単に詰まる差ではなかった。それでもここからの4時間は我がチームのエース級を揃えた夜間ローテーションが始まる。そしてその途中で最後の大砲が合流する。”夜中に強いサムズ・アップ”の本領発揮だ・・・ (少し気になった事が・・・ リーダーのネクチャンにイマイチ元気がない。痛むのか???)

夜間ローテーションAグループ(ネクチャン、タカさん、うさぎ2さん)
エース級を揃えたAグループは、6巡の規定周回数を常に6分前後の好ラップで走り続けた。8位チームとの差は1周。夜間しかもこれだけのラップを出し続けているのに差がなかなか詰まらない。相手は相当強い。

夜間ローテーションBグループ(バーモンスさん、Jrさん、でんでんさん)
このグループもエース級揃い。さらに我がチームのエースバーモンスさん考案の変則ローテーション(Jr→バーモンス→でんでん→バーモンス)という2回に1回エースが登場する過酷ローテで猛追を図る。その結果Cグループへ襷を渡すときに差は十数秒にまで縮まった。(いけ! いけ!)

夜間ローテーションCグループ(エスパシオさん、こんちゃん、私)
A,Bグループに比べると明らかに戦力は落ちるCグループ。何とか6分10秒台をキープして折角詰まった8位チームとの差が再び広がらないよう粘りたいところ。苦戦を覚悟していたが、予想に反して8位のチームが後退し始めた。私の3巡目あたりで、8位をいくチームのランナーらしき人が前方に見えた。これは!と思い猛追。一度後ろにピタリとついて坂を下りきったところでスパートし、追い抜いた。順位があがったかも?と順位表を覗くと、”ビンゴ!”今まで9位だった順位がひとつあがり8位になっていた。その後は徐々に差を広げ1分前後の差でDチームへ繋げた。ちなみにCグループの平均ラップは6分19秒。ギリギリ6分20秒を切ることができた。 (しめ、しめ・・・)

夜間ローテーションDグループ(HANZAさん、ひあーるさん、純米酒さん 
                                  feat バーモンスさん)

Dグループは途中からバーモンスさんが加わるという変則ローテで必死に粘り、平均ラップ6分30秒台で必死に堪えた。この粘りがさらに9位チームとの差を広げ、ついに1周近い差になった。相手は相当疲れてきている。勝負あったか?


レース開始18時間後(午前4時)、まだ夜が明けきらない早朝。朝駆け攻撃を開始した。この時間帯からの仕掛けが今回の目玉。名づけて”夜討ち朝駆け作戦”夜間A、Bグループで一度目の仕掛けを行い、C,Dグループが耐えて、翌朝、他チームが一番苦しむ時間帯に総力勝負を賭ける。ここで後続チームを一気に引き離して戦意喪失させれば、現在のポジションは決定的になるし、うまくいけば油断している上位チームをも食っちゃえると言う作戦だ。休んでいたA、B、Cグループが出揃い体制は整った。ここからは出し惜しみせず、目一杯の走りで力の限りを出し尽くす。途中で折れても構わない。残った人数で押し通せば良いのだ。

レース開始21時間後(残り3時間)、作戦は半分は、うまくいっていた。後続チームとの差は一気に広がり、3周以上になった。しかし先行するチームとの差が一向に縮まらない。1周半〜2周の差が変わらないのだ。こちらの平均ペースは6分ちょっと。この時間帯としては相当良いラップなのだが、先行チームの背中は見えてこなかった。ここでひとつの決断を迫られる。8位の座はほぼ確定。このまま全員でまわしていても捕まることはないだろう。しかし7位のチームを追いかけるにはこのままでは絶望的。あくまでも攻め続けるのか、守りに入るのか・・・
出した結論は前者。4本の大砲(バーモンスさん、うさぎ2さん、タカさん、Jrさん)を軸に残り2名状態の良いメンバーをスポット的に加えて合計6名で回し、平均ラップを5分台に引き上げると言う作戦に出た。

記録は伸びていた。5分45秒程度の平均ラップに引きあげ、上位チームとの差もじりじりとは詰まっていた。しかし差は1周半。残り時間は1時間30分程度。ここでリーダーの出した結論は、残り時間全員で目いっぱい走り、優秀の美を飾ろうと言うもの。”異論なし”ということで、足に故障を負っていた純米酒さんを除く11名によるラストランが始まった。それは言葉に表せないほど、激しい走りだった。ここまで22時間以上戦い続け、身体はぼろぼろの筈なのに、自己ベストに近いラップを叩き出していた。フォームを崩さんばかりの激走に大きな感動を覚え、それに私も続いた。最後のラップは6分1秒。5分台は出せなかったが、全ての力を出し切って走り終えた。

さぁ、あとは応援だ!ということでいつもの裏ストレートに移動し、チアスティックを持って声を張り上げていると、『アンカーやって』との指令が・・・『うーん俺じゃない気がするんだけど・・・』と一度は断るが、リーダーの『お願い!!』の声に推されて受けることになった。そしてレース開始23時間42分30秒後(リレーゾーンクローズの2分30秒前)、Jrから最後の襷が回ってきた。疲れてはいたが残り時間で2周、これが最低限のノルマ。これまでより少しペースを落として坂を駆け上がり、野球場を周りこんで坂を下り、裏ストレートに出ると大声援。思わず熱いものがこみあげてきた。2周目、足はガクガクで力が入らない。1周目よりさらにペースを落として坂をあがり野球場を周りこんで坂を下り裏ストレートに出るとさらに大きな大声援。人垣が両脇にできていてコースは通常の半分くらいに狭まっていた。もう大丈夫、これで2周はこなせる。安堵の気持ちでハイタッチに応えた。そしてサムズアップの応援席の前を通過、声援に応えて、競技場に走りこんだ。

アンカーとして、予定の2周を走り終え、残り時間は4分弱。これから1周するのは不可能なので、もう急ぐ必要はない。ゆっくりと踏みしめるように競技場を周回し、ロードへと出て行った。これまでは見上げたことの無かった北麓名物の登り坂を、ふーっと息をついて見上げると、この2年間一緒に走ってきたメンバーの顔が思い浮かんだ。

ひろみさん・・・2年前の大会でビッグマウスに逆転され絶望的な状況に追い込まれたときの顔。悔しさを滲ませながらも、それまでの健闘で何とか自分を納得させようと必死に作り出しているような笑顔だった。みんなが悔しさばかりを口にする中、『でも楽しかったよ!』の一言が不意に思いおこされた。また一緒のチームで走ろう!

やまはさん・・・レース終盤、サポート役としてみんなの記録をとっているときの顔。歯がゆい思いをしながら上位チームとの差を心配そうに見つめ続けていた真剣なまなざし。最高の笑顔をみたかったかなぁ

晴れ男さん・・・最後の最後まで諦めることを許してくれなかった鬼軍曹が闘い終わったときに見せる静かな笑顔。『やったぜー!!』って拳を突き上げて一緒に喜びを分かち合いたかったなぁ

R555さん・・・たった一人の女性として参加した去年の大会。普段は弱音をはかないのに、真っ赤な顔をして、珍しく『もう頑張れないかも』なんて発言が出るほど追い込んでいたんだよね。満面の笑みを今ここで観ることができないのが残念だ。

いっちさん・・・出番の後、足を引き摺るように歩いて『大丈夫?』と声を掛けると、にこやかに微笑む姿。大きなダメージを受けていて動かしちゃいけないのに、無理やり動かしてタイムを叩きだす根性。いまここにいたら、どんな笑顔をみせてくれたんだろ?

曙さん・・・今回のメンバー編成で心に引っかかりがあるのは、君を外した事かな。出来れば君を抱えこんだチームで入賞したかった。きっちりと結果を残して加わって欲しかったよ。タイムを縮められる可能性は誰よりも大きいんだからね。君のように記録に執着する性格ではファンランチームに溶け込めないだろ?

最後の坂を上り終え、時計を覗き込むと残り1分になっていた。幸か不幸か、このあたりは観客がすくなくひっそりしている。競技場のアナウンスも殆ど聞こえない。きっと今頃カウントダウン直前で盛り上がっているんだろうなぁ・・・と思いながら帽子を目深に被り、密かに涙を流していた。仲間がいるところで一緒にカウントダウンをして盛り上がりたいなぁという気持ちもある反面、その場にいたら泣き出してしまいそうで、格好悪いからここで良かったのかなぁという気持ちも持っていた。野球場を周回し終え、坂を下り始めると途端に賑やかになってきた。浦安RCの声援をうけ、直線に向くとコース両脇に長ーい人垣が出来ていた。両手でハイタッチしながら進む。涙はもう乾いていた。アンカーを務めるのは初出場のとき以来。あのときとは違った感動を胸に秘めて仲間が待つ場所へ駆け込んだ。

2年前に、Sunriseというチーム名で入賞を目標に旗揚げされ、残り1時間余で逆転され、昨年リベンジという名前に変わり、今年ようやくその目的を果たすことができた。過去2回の失敗が糧となり、3年がかりの目標達成。これで事実上、チームは解散となる。リベンジチームのメンバーの中にはもう少し気楽に楽しみたいという人もいるだろうし、別のレースとの兼ね合いで出場を回避する人もいるだろう。来年、今回以上いや同レベルのメンバーを集めて、さらに上位を目指すと言うのは現実的に厳しいと思う。でも個人的には、Sunriseチームを結成した2年前に遡って、もう一度一からチームを作り上げ、入賞を目指せるチームを何年か掛けて、作り上げていっても良いのかなぁと思っている。時期的なものもあるし、他のレースとの兼ね合いで、なかなかこの大会に照準を合わせると言うのは難しい。それ故、この大会の参加意義は、個人ベース(特に自己記録更新という観点)でみると、難しい気がするが、チームとしては親睦を深める意味でも、士気をあげる意味でも実に大きい。今年は3チームで出場した。今回が初となる女性だけの単独チームは揃いの半被で輝いていたし、男性だけのファンランチームも時にはにこやかに、時には真剣に結束していた。両チームともに既に来年の構想も産まれているとか・・・? さぁでは、シリアスチームの行く先は? 今年の富士北麓は来年以降の参加形態を大きく左右する分岐の大会になったのかもしれない。

同じ時間、同じ空間、同じ状況これらを共有した仲間にしか分からない苦しさがある。時には逃げ出してしまいたくなるほどの痛みが訪れ、時には思うままに動けないという苛立ちが生じ、全てを注ぎ込んでいるのに結果が伴なわないと絶望感さえ生まれる。でもこの苦しさに立ち向かって、一つの事をやり遂げた時には、この苦しさが、何倍もの感動を生み出し、仲間同士を固い絆で結ぶ。職場も、育ってきた環境も、年齢も違う。それでも走ると言うことを通じて知り合い、お互いの苦しみを分かち合えるようになった。苦しいのは自分だけじゃない!そう思うと日常で起こる辛い出来事も一時、踏ん張れば乗り越えられる気がしてくる。 

−完−