「どーしよう。このままじゃ使えないよ〜」
　三人の尾行に気づいているのかいないのか、ゆっくりとタバコをふかしながら街を歩く半屋を隠し撮りしていたクリフが、情けない声をあげた。
「今日中に撮影して編集しないと間に合わないのに………セージに何されるか………」
「僕は自然で半屋さんらしいと思うんですけど………何かいけないところがありますか？」
「ほら、あのタバコ！　地球の文化って感じでエキゾチックでいいかも♪って思ったんだけど、カメラを通すとさー、妙にもの慣れた感じになっちゃんだよ〜。不良っぽいって感じ？」
「うーん、それは………」
　八樹がなにか説明しようとしているのを聞かずにクリフは続けた。
「半屋くんはプリンセス候補なんだよ。初々しくって可憐で清純でさ〜、そういう映像にしなきゃいけないんだよ〜」
「それは………ちょっと…」
　八樹は困ったように笑った。

※　　　※　　　※

　そうこうしている間に半屋はある店に入っていった。
「ここはどういうお店なの？」
　開け放たれたドアのそばに腰をかけた半屋を撮影しながら、クリフが八樹に尋ねた。
　その店は細長く、少し薄暗かった。
　数字や絵がくるくると回っている箱がいくつもいくつも立っており、その前に無表情の客達が座っている。
　半屋はタバコをくわえながら、どうでもよさげにその箱のボタンをたたいていた。
　その半屋のもとへ、店の奥から従業員がやってきて、身をかがめ、何事かささやいて去っていく。
「なんかさ、結構怖そうな雰囲気じゃない？」
　クリフは一応カメラは回しながら、隣のアオキに小声で話しかけた。
「あ、あの………」
「怖い店じゃありませんよ」
　アオキが口ごもっていると、八樹がかわって答えた。
「半屋君は強すぎるから、お店の人に手加減するように言われたんだと思いますよ」
　八樹はまるで自分のことのように鼻高々な様子だった。
「これは記憶力と動体視力と反射神経を使うゲームなんです。半屋君は全部いいですからね」
　
　八樹の説明によると、これは、くるくると回り続ける絵や数字の配列を覚え、高速で回転するそれらの絵柄を見分け、所定の位置にうまくはまるようタイミング良くボタンを押すことにより景品をかせぐゲーム、という事だった。
「なんだ、よかった。ギャンブルじゃないんだね。さすがにプリンセスがギャンブルっていうのはねぇ〜」
「法律上ギャンブルじゃありませんよ。それに少なくとも半屋君にとっても違うでしょうね」
「へぇ。すごいんだね、半屋くん」
　いかにもやる気がなさそうなのに、半屋の台だけコインが出続けている。クリフは嬉々としてその様子を撮影し続けた。
　クリフより地球の状況を知っているアオキは、それを複雑な表情で眺めていた。

※　　　※　　　※

　しばらくして、いったん店の奥に消えた半屋が、そのまま三人が隠れている（？）場所へやってきた。
「てめェらがうるせぇから気が散るんだよ」
　半屋はいらいらと吐き捨て、手に持っていたチョコレートをアオキにぽんと投げた。
「え？」
「余りだ。やる」
「あ、ありがとうございます」
「えー、半屋君。俺には？」
「んで、てめぇなんかにやんなきゃなんねぇんだよ！」
「俺、半屋君がくれるならなんでも嬉しいよ」
　半屋は相手にしてられないという表情で、そのまま路地裏に消えていった。
「あれ？　半屋くんは？」
「換金しているだけですから、すぐに戻ってきますよ」
　路地にある、小さな穴だけが空いた謎の窓口から白い手がシュっと出て、半屋の持っていたプラスティック板を換金しているのが見える。
　クリフはその様子を撮影しながら、突然奇声を上げた。
「ああぁぁぁあ！　忘れてた〜！！　セージに殴られるー！」
「んだよ、うるせえな」
　そこに半屋があらわれた。
「半屋くん、おねがいがあるんだけど」　
「ア？」
　半屋はイヤそうな顔をして、そのままどこかに歩いていこうとする。
「まって、ちょっとでいいから！」
　クリフは半屋の腕をつかんでアワアワしている。
「アァ？」
　半屋はとてもイヤそうな表情だが、一応振り返った。
「ちょっと見るだけでいいから！」
　半屋の怖い瞳に追い立てられるようにクリフは言葉を続けた。
「セージからのディスクをね、見て欲しいんだけど、あのセージがどんな顔してラブレターなんて吹き込んでるのかって考えたら笑っちゃうよねー」
　半屋はその場所で動かなかった。
「ローヤーさん」
　八樹が小さな声でクリフに耳打ちした。
「半屋君見てもいいみたいですよ」
「エッ！　ホント！　じゃ、早く帰ろうよ」
　クリフは転がるように半屋の部屋に向かった。アオキはそれに続き、半屋はそっぽを向いて、だらだらと歩いていた。八樹はその横でにこにこと歩いていた。