いいコトあるよ
 〜コーギョーカの変〜
 

 

 

    

「たいへんなんだよー!!」
 あるのどかな昼下がり、ベランダのガラスをすり抜けて、クリフがまた騒々しくやってきた。
 半屋はちらりと視線を送って、またすぐ雑誌に視線を戻した。
「ホント大変なんだよ、半屋くん! 半屋くんがセージのお嫁さんになれなくなっちゃうかもしれないんだから!」
「あー、よかったな」
 半屋が今にもつかみからんばかりの距離でわめき続けるクリフを追い払おうとしたとき、キッチンの奥から八樹が顔をのぞかせた。 
「ローヤーさん? 今、お茶入れてるんですけど飲みますか?」
「うん、ありがとう。
 でもそれよりこれ見てよ〜」
 レポート(のようなもの)を示してクリフは騒ぎ続けたが、いかんせんそれは地球人に読める言葉で書かれてはいなかった。

「クリフさんおはようございます。何かあったんですか?」
 そこへ騒ぎが聞こえたらしいアオキが現れた。
「ハヤタくん〜。よかった、これ見てよ」
 そのレポートを見たとたんアオキは顔色を変えた。

 


 
 「で、一体どういうことなんですか?」
 異星人二人の騒ぎが収まるのを見て八樹がそう切り出した。
 半屋は一応まだリビングのソファで座ってはいるが、自分にはまるで関係ないという態度をとり続けている。
「メーリョー帝国はね、いろんな星の集まった連合帝国だから、メーリョー帝は建前上、ある星の代表者と結婚するっていう形をとって結婚するわけ。
 あくまで建前上でね、実際はメーリョー帝の婚約者に決まった人を、住民投票で代表者に選ぶわけなんだけど。
 普通はさ、婚約者の出身地の代表ってことになるから、すんなり選ばれるわけ。で、半屋くんもある星の代表者にしようってことになったんだけどさ」
 クリフはおおげさにため息をついた。
「半屋くん今すごい人気でね、タクミさまマークをつければお菓子でも人形でも飛ぶように売れてすごい売り上げなんだけど」
「……そんなことしてるんですか」
 八樹の瞳の色が変わった。
「な、なんか八樹くん怖いよ…
 で、それなのにね、セージが選んだのは、なんと! あのコーギョーカだったわけ!」
「コーギョーカというのは、メーリョー帝国の星の一つなんです。ただ……」
「すっごく治安が悪くてね、力と暴力がすべてって感じで、メーリョーの中でも鼻つまみものっていうか、半独立状態なわけ。
 でも半屋くんは今までプリンセスを出したことのない星のプリンセスにしようってことになってたし、セージがそれ以外ダメだって言うからさぁ」
「大変なことっていうのはそれなんですか?」
「そうじゃなくって、もう半屋くんがプリンセス・コーギョーカだっていうのは既定路線だったわけ。半屋くんのお迎えの船だってプリンセス・コーギョーカ号だし、半屋くんの紋章は白百合とスパナって決まってるし」
「スパナ…?」
「でもね!! 万が一のことがあるからと思って極秘に調査させたらね、半屋くんの支持率、28%しかなかったんだよ!」
 クリフは例のレポートをたたきながら熱弁をふるった。
「星の代表者になるには、有効投票の三分の二以上の賛成が必要なのに、たった28%!
 早く行こう半屋くん! 半屋くんがちょっと行って、手を振って微笑めば支持率なんてすぐあがるんだから!」
「誰が行くか」
「何言ってるんだよ、セージと結婚できなくなっちゃうかもしれないんだよ!」
「寝言は寝てから言え」
 半屋は立ち上がり、自室に戻ろうとした。
「半屋さん待ってください!」
 悲痛な声を出してアオキがすがりついてくる。気がそがれた半屋は、しかたなくまたソファに座り直した。
「もしかしてまだ他に何かあるの?」
 八樹が水を向けるとアオキが話し出した。
「僕は半屋さんはまだメーリョーに行かなくてもいいって思うんです。一度行ってしまうとはやり色々ありますから。
 それにコーギョーカのプリンセスになれなくても、ジョーホーショリカやシンガッカだってプリンセスを出したことがないんですから、そこでプリンセスになればいいことなんですけど、ただ……」
「なんだ。結構融通がきくんだね」
「ええ、そうなんですけど…ただミユキさんが…」
「ゲージュツカって言う星があるんだけどね、そこがなんと勝手に住民投票をして、プリンセス・ゲージュツカを選んじゃったんだよ。しかもほとんど100%の賛成で」
「それ自体に意味があるわけじゃないんですけど、ただ、もし半屋さんが落選した場合には…」
「色々言ってくるだろうってわけだね」
「ええ、そうです」
 落ち込んでいる異星人たちを横目に半屋はタバコをふかしていた。
「半屋さん! 僕は半屋さんにプリンセスになってもらいたいです!」
 アオキは妙に気合いが入っている。半屋は思わずタバコを落としそうになった。
「まぁプリンセスっていうのは悪くないよね。俺の半屋君が落選するっていうのもなんか厭だし。婚約者っていうのはどうにかしてほしいけどね」
 八樹は評論家のような口調のまま、あいかわらずわけのわからない事を言った。

つづく


 ああ、これは読み切り連載にしたかったのに!! あいかわらずの続くで申し訳ありません。 しかし、すでにチンプイじゃありませんね(笑)