|
今朝、学校に来るまで、靖子はとても幸せだった。これまで味わったことがない種類の幸せ。いや、今まで味わってきた『後藤君と二人で話した』とか『後藤君と帰り道が一緒になった』とかいう幸せの特大パワーアップバージョンといえるかもしれない、などとお気楽なことを考えていた。
新しい環境にもなじみ始めた6月のはじめ。なんとなくね、そうじゃないかなーっていう予感はしていたんだー、なんてことばかり考え続けていたこの週末。それなのに、いったいこの状況はなんなんだろう。期待が大きかった分、反動も大きかった。
今朝、いつもより早めに登校した靖子の耳に飛び込んできたのは、 「S高一の美少女、早乙女アイカの『幻のボーイフレンド』は、新聞部部長、あのさえない後藤亮司だった!」というビッグニュースだったのだ。
先週の金曜日(S校は月初めの土曜は休みだ)の放課後、後藤亮司と靖子はかなりいいムードになっていたのだ。たぶんもうすぐ『ちゃんとしたおつきあい』になるんじゃないかな、と感じだったのだ。だから、この週末は靖子の16年間の人生で一番幸せな週末だったのだ。
それなのに、登校してみると、学校中「後藤亮司と早乙女アイカがつきあっている」というニュースで持ちきりだった。 靖子は顔を引きつらせながらその話を聞いた。靖子と後藤亮司が同じ新聞部だと知っている人間たちは、靖子に「本当のとこ、どうなのよ?」なんて聞きにくる。そのおかげで、靖子は事細かにその噂を聞くことができた。聞きたくないような、全て聞かずにはおられないような複雑な心境で、靖子はその噂を聞いていた。
早乙女アイカは色が白くて、髪の毛なんかさらさらで、きちっと背筋が伸びてて、スタイルがいい、いわゆる美少女だ。いつも本を読んでいて、友達がいない。しかし、S校は人数の少ない高校だから、誰でも早乙女アイカとその『幻のボーイフレンド』のことは知っていた。 早乙女アイカはボーイフレンドがいることを公言していたし、週末ごとに公園などでデートをしていると言っているのだが、誰もその彼氏を見たものはいなかった。そのせいで、実は不倫だとか、恥ずかしいほどの不細工だとか、交際を断るためのいいわけにすぎず本当はいないのだ、とかさまざまな憶測を呼んでいた。で、陰では美少女早乙女アイカへのねたみというかひがみというかの意味も含めて『幻のボーフレンド』と呼ばれていたのだ。 そして、昨日の夕方、早乙女アイカが後×園ゆうえんちで新聞部部長の後藤亮司とデートしているところが目撃され、ついに『幻のボーフレンド』が誰なのかが判明した、というわけだった。
ばたばたしているうちに一時間目の授業が始まった。いつも熱心に聞いている日本史の授業だったが、まったく耳に入ってこない。 (もしかして、先週の金曜の、って私の勘違い? 近頃、部活の時よく二人で話してたり、一緒に帰ったりしてたのも、たまたまだっんだ) 靖子は自分の勘違いぶりが恥ずかしくなった。あまりに恥ずかしくて、授業中だというのに、立ち上がってこのまま家に逃げて帰りたいぐらいだった。 (あんなきれいな早乙女さんとつきあっている後藤君に、一人で勘違いして空回りしてたなんて) 思い出すのは、この週末浮かれていた自分や、金曜の放課後、恋の駆け引きめいたことをやってしまった自分の恥ずかしい言動ばかりだ。 やってしまったことは取り返せない。こうなったらとにかく、卒業するまで後藤に会わないように逃げまくるしかないかもしれない。 あと二年近く。しかし、それはつらすぎる。靖子は一年以上後藤亮司に片思いしていたのだ。会いたいし、話したい。大体、同じ部に所属しているんだから、逃げるのはかなり困難だ。 (後藤くんが私の勘違いに気づいてなければいいんだけど) しかし、後藤亮司はするどい。その可能性は低いだろう。 (一体、どうしたらいいんだろう) 靖子は机に突っ伏して大きなため息をついた。
先週の金曜の放課後。靖子はごちゃごちゃと物が置かれた狭い部室の中、後藤亮司と二人きりになった。近頃、こういう機会が多く、しかも駅まで一緒に帰ったりもするので、靖子は浮かれていた。 彼らの所属する新聞部は部員が少ない上に、大人数で行動するタイプの活動をしていない。だから二人きり、というのも別に不自然ではない。でも、最近あまりにもこういう機会が多いような気がしていた。 後藤亮司はごくふつうの容姿をしていて、身長もふつうより低いぐらいで、「後藤くんの魅力に気づくのは私ぐらいなもんよね!」というのが靖子の密かな自慢だった。
「壬生、今一番ほしいものってなに?」 後藤は『S校タイムズ』のバックナンバーをめくりながら聞いてきた。昔の特集記事を参考に、後追い特集をやろう、というのが次号の企画なのだ。 「MIU
MIUのバッグかなぁ」 靖子はバックナンバーのチェックに気を取られていたので、つい流行の話ばかりしている女友達用の回答をしてしまった。 「いかにも、一般向けな答えだな」 なにも考えてなかったことはすぐばれたらしい。 だから、後藤と話すのは楽しいし、緊張するのだ。 靖子は真剣に考え直した。 「欲しいものねぇ。新しいパソコンは欲しいけど、それはただ必要なものってだけだし、純粋に欲しいものって、案外ないよね?」 その答えは後藤のお気に召したらしく、しばらく『必要なもの』と『純粋に欲しいもの』を分けた方が『欲しいものはなんですか』のアンケート(紙面の穴埋めに時々使うのだ)の結果はおもしろくなるに違いないとか、「なんの役にも立たないけど、なんとなく欲しいもの」ってあるよねーとか、そんな話で盛り上がった。
「で、結局、壬生の欲しいものってなに?」 ひとしきり話したあと、後藤は話を元に戻した。珍しいな、と思う。後藤と靖子が話すときは、新しい発想とか新しい視点とか、そういうのを見つける方向に行きがちで、そっちに流れていった話が元に戻ることは今までなかった。 (あれ? もしかして) 後藤は本当に靖子の欲しいものを知りたいのかもしれない。ただの与太話のきっかけとしての質問ではなく。
(来週の金曜、私の誕生日なんだけど、まさかね) でも、いったん考え出したら止まらない。なにせ靖子は片思い中なのだ。その妄想力はすごい。 (誕生日前にほしいものを聞く、ってことは、誕生日にプレゼントくれる、ってことだよね? ふつうの関係だったらプレゼントなんてくれないわけだから、プレゼントくれるってことは、あれだよね? 普通以上ってことだよね? 私、考え過ぎじゃないよね? しかも、ちゃんと欲しいものなんか聞いてくれるっていうのは、かなりいい感じだよね?) この妄想はいつもの妄想よりも妙に現実的で、靖子は舞い上がった。
(もし、プレゼントをくれるんだったりしたら、そこから「おつきあい」しているってことになったりするのかなぁ。あれ? それだったら、「欲しいものってなに?」っていうのは告白への第一歩? だったりしたらすごくうれしいなぁ) そこまで考えたら、なんだか照れてきてしまった。 自分の妄想にはまって、後藤に告白されているような気分になってきたのだ。そんなのは考えすぎだ、と理性は叫ぶのだが、やっぱりいつもより現実的な妄想のせいで、感情は盛り上がってしまっている。 「なんだよ、MIU
MIUのバッグなのか?」 ぶっきらぼうにそう言った後藤も少し顔が赤いように思うのは靖子の妄想力のせいだろうか? 「と、時計かな? 腕時計。壊れたし」 「それは『必要なもの』なんじゃないのか?」 必要なものなんだけど、後藤にプレゼントしてもらえるなら時計が一番いいな、と靖子は思ったのだった。だから、なにも答えなかった。 「ふーん、腕時計か」 そっぽを向いたまま、後藤は言った。
(本当にただの妄想だったんだー!!) 靖子は自分の机に肘をつけて、頭を抱えた。 考え直してみれば、あの金曜日の状況というのは、靖子がちょっとしたことで勘違いをしてしまい、大暴走した、というだけだったのではないのだろうか。 (なんだか、そういう雰囲気が漂っているような気がしたのに) 直接的な言葉じゃなく、会話の手触りがそういう感じだったような気がしたのだ。しかし、しょせんはただの妄想だった、ということだったのだろう。 (なんだか、自分に自信をなくしそう………。ああ、せめて早乙女さんとの噂が間違いだったらいいのに) しかし、後藤亮司と早乙女アイカのデートは、二組のグループによって目撃されていたのだ。
東×ドームとその周辺は、発行部数世界一の新聞社が誇る一大アミューズメントタウンである。巨×の本拠地である東×ドームや、山手線内唯一の遊園地、後×園ゆうえんちがあるだけでなく、巨大ゲームセンター、ローラースケートリンクから東京最大の場外馬券売場や大型会議場までがその敷地内にある、まさにごった煮の地域である。そのためGTと巨×戦が重なったりすると、遊園地等で遊ぶカップル、競馬ファン、巨×ファンなどが狭い地域にひしめき合うことになる。 そして昨日、新聞社からもらったタダ券で巨×戦を見に行こうとしていた、S校一年生の二人組が、たまたま今話題の最新アトラクションに並んでいる後藤亮司と早乙女アイカを見たというのだ。 狭い地域にいろいろなものをごちゃごちゃと詰め込んでいるから、東×ドームと遊園地はかなり接近しており、ドーム側から遊園地の内部は丸見えで、並んでいる人間の顔もきちんと確認できるのだそうだ。 早乙女アイカは花柄プリントのかわいいワンピースを着ており、後藤亮司はスーツを着て髪型を整えた大人っぽい格好をしていた。 そういう格好の後藤は、普段よりずいぶん格好よく見えたそうだ。そのせいで、二人がデート中であることはすぐにわかったという。 彼らが後藤たちを目撃したのは、試合の前のセレモニー(応援合戦とか)が始まるのに間に合う時間、ちょうど5時ぐらいだったそうだ。 (帰る前にもう一度最新アトラクションに乗ろうか、ってパターンだろうな、時間的に) 聞けば聞くほど、いかにもデートな状況で、靖子はますます落ち込んだ。
目撃したもう一組はデートでルナ×ークに行こうとしていた三年生である。後×園ゆうえんちは夕方六時になると入場料金を下げる。そしてルナ×ークと名前を変えて主にカップル用に営業するのだ。 話題の最新アトラクションをめあてに訪れた三年生カップルは、そのアトラクションよりニュースバリューの高いものを目撃することになった。早乙女アイカと後藤亮司である。 この三年生のうちの一人は早乙女アイカの部活の先輩だった。そして、早乙女アイカは楽しそうな様子で、 「先輩たちもデートですか?」 と言ったそうだ。 (あぁ、決定的だ。完敗、だよなぁ) 気がつくと一時間目の日本史はとうに終わり、現国の授業が始まっている。だんだん感情も冷えてきた。 (いつか『さすが後藤くん。すごい人とつきあってるよねー』なんて思える日がくるのかな) しかしそんな日は一生こないような気がした。
お昼休み。靖子がいつものように友達の教室に移動しようとしているところへ後藤亮司がやってきた。靖子は走って逃げ出したくなったが、 「壬生、昼休みあいてるか?」 と言って靖子のほうに歩いてくる後藤をおいて走り出すわけにもいかない。 せめてみっともないところは見せたくないのだ。 しかし、靖子は考えるよりも先に、 「今日はちょっと用事があるから」 と言ってしまっていた。 本当は用事なんてないのだ。それなのに反射的に言ってしまった。 「そうか。じゃ、五分ぐらいつきあって」 と言って後藤は歩き出した。いつになく強引だ。
部室は狭くて埃臭かった。窓から差し込む光に、埃がキラキラ光っていた。 「で、壬生、この前の企画の話なんだけど」 後藤はそれほど緊急性を感じないような話を始めた。 適当に相づちを打ちながら、靖子は苦痛でたまらなかった。とにかく早く話を終わらせて、この場を立ち去りたいのだが、なぜだか話が終わらない。 五分ほどして、ようやく話に切れ間ができた。 「じゃ、」 「変な噂が流れてるよな」 靖子が『もういくね』と言おうとしたのを遮るように、後藤が話し出した。 「今日、学校にきたら、よく知らない奴らが『よくやったな』とか言い出して。なにがなんだかよくわからなかった」 後藤は早口で、まるで決められた言葉を時間以内に言わなくてはいけないアナウンサーのように話した。 「ふうん」 どうしても返事が固くなる。 全然聞きたくない話だし、今すぐにこの場から離れたいのに、やっぱりどうしても嫌われたくないから離れられない。それに、後藤が『変な噂』と言ったことに少し期待をしてしまう。 でも、そんな風に期待をしてしまう自分がかなりイヤだった。 「だからさ、いろいろと誤解があるんだよ」 靖子が乗り気じゃないせいか、狭い部室は重苦しい空気に包まれていて、話を続けるような雰囲気ではないのは後藤もわかっているのだろうと思うが、それでも後藤は話を続けた。 「昨日、たまたまデート中の早乙女に会って。そうしたら、例の彼氏に気に入られて。早乙女たちがハイパードラゴンだけ乗ってないって言うから、まぁ丁度俺もそれに乗りたい気分だったから、早乙女と一緒に乗った、っていうだけなんだよ」 後藤は一気に説明し、言い終わるとさっさと部室から出ていってしまった。 靖子は、『もしかして私って、いいわけされているような?』という気持ちが先にきてしまい、その内容が妙だということにしばらく気づかなかった。
昼休みが終わり、念仏みたいな漢文の授業が始まった。 (結局、あれって、後藤くんがわざわざいいわけを言いにきた、ってことなのかな) 新聞部の企画の話にはあまり内容がなかったし、そうとしかとれない状況だった。しかし、靖子の妄想力には意識的なブレーキがかかっていた。 (でもねぇ) 冷静になって考えてみると、妙な話である。後藤の話が本当だとすると、後藤は『いかにもデート用』な格好で一人でふらふら歩いていたことになる。 早乙女アイカの彼氏がそんな後藤を気に入った、というのも変だ。デート中なのに。 それに、先輩やら後輩やらの目撃談はどうなるのだ。『先輩もデートなんですか』はどうなった? ついでに早乙女アイカとその彼氏が後×園ゆうえんちに行っておきながら、ハイパードラゴンにのっていない、というのも変な話だ。 ハイパードラゴンはつい最近できたばかりのジェットコースターで、宙づりのリニアコースターでありながら腰回りに余裕があり(腰回りの締め付けが緩いと、下に落ちるときの浮遊感が楽しめる)高速で上昇し、高速で下るという現在大宣伝中のマシンだ。 靖子はさまざまな遊園地のジェットコースターを乗ったが、高速で急上昇するうえに、落ちるときの浮遊感を味わえる、というマシンは聞いたことがない。 (そういえば、こういう話って後藤くんとしたんだった) ジェットコースターの楽しみとはなにか、なんてテーマできちんと話しあえる人は後藤しかいない。スピンものは一般的に浮遊感が少なくてだめだとか、木製の方が横揺れがある分、落差が大きく感じるとか、そんな風に分析するのはとても楽しかった。 (ハイパードラゴン、一緒に乗りたかったなー。浮遊感のある高速マシンなんて、後藤くん好きそうだなぁ) 特に後×園は、都心の狭い遊園地のせいか、趣向を凝らした絶叫系が多いので有名で、後藤と行ったらきっと楽しいに違いない。 (早乙女さん、うらやましいなぁ) どうも思考が横にそれてしまう。こういうときに後藤がいれば、この違和感を冷静に分析できるのに、と一瞬思う。しかし、それはいくら何でも無理だ。
あと変なのはなんだろう。カップルと一緒なのに「たまたま乗りたい気分」になるのも変だ。その上わざわざ早乙女アイカと一緒にハイパードラゴンに乗っているなんてどう考えてもおかしい。 他にもなにかおかしな点があるような気がするが、冷静に考えられない。漢文の授業の間に考え抜いた結果、靖子は自分でも驚くような行動にでた。
「早乙女さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 五限と六限との間の十分休み、校内一の美少女早乙女アイカはいつものように一人で本を読んでいた。 靖子はいままで早乙女アイカと話したことがなかった。そのせいか他の理由でか、因縁をつけようとする不良みたいな口調になってしまった。 「ああ、壬生さん。初めまして」 早乙女アイカは別におびえた様子もなく、さらりと言った。 「あ、初めまして」 なんだか妙な挨拶だ。確かに話すのは初めてなのだが。 「ここじゃなんだから、ちょっと移動しましょう」 早乙女アイカは少し首を傾けながら、にっこりと笑った。 そう言われてみると、周りがさりげなく靖子たちを注目している。どうやら孤高の美少女、早乙女アイカ自身に例の噂を聞いた人間はいなかったようだ。
また使うことになった新聞部の部室は、さっきと変わらず埃っぽかった。 「で、なんの話なの?」 早乙女アイカは小汚い部室の中でも変わらず美しかった。 靖子はさっきの後藤の言葉などを伝え、腑に落ちない部分が多いので、昨日あった出来事を教えてくれないか、と頼んだ。 さすがにそれ以上踏み込んだこと、たとえば『後藤くんとつきあっているの?』なんてことはプライドが邪魔して聞けない。 「やっぱ、後藤くんいい人だわ」 アイカはうれしそうに言った。そして、 「そのほかに聞きたいことはないの?」 と言って、靖子の顔をのぞき込んだ。 美少女にはそぐわない、まるで噂好きの中年のおばさんのような動作だった。 「そのほか、って言われても」 まだ、その前の質問にも答えてもらっていない。 「たとえば、『早乙女さんの彼氏ってどんな人ー?』とか。結構みんな聞くよね」 アイカは声色を使いながら、おどけて言った。 早乙女アイカという人は、噂とはずいぶん違っているようだ、と靖子は思う。そう、たぶん後藤と話が合いそうな人だ。 「聞きたくないの?」 靖子は勢いよく首を横に振ってしまった。そんな靖子を見ながらアイカは笑った。 「かっこよくて、男らしいのよ。昨日のデートなんて全部おごりだったんだから。それでね、これなんだけど」 といって、アイカは一枚の写真を取り出した。そこにはハイパードラゴンとおぼしき乗り物に並んで乗っている後藤亮司と早乙女アイカが写っていた。 少しぶれた写真だったが、二人とも楽しそうだった。そして、朝聞いたように後藤はスーツ、アイカはワンピースを着ていた。 (後藤くん、この格好似合ってる………。確かにいつもよりカッコいいや………。でもなぁ………) 「ハイパードラゴンはね、下ったあとに一回速度をゆるめるの。これはそこの写真なんだけどね、そうやって速度が落ちたあとに、すごい早さで急上昇するってわけ。これがすごい角度でね………、って壬生さん聞いてる?」 靖子はショックでアイカの言葉の内容がよくわからなかった。 それより、こんなところで仲のいい写真を出してくる、アイカの気持ちが分からない。いや、わかるのだがわかりたくはない。 そんな靖子の様子にアイカは大げさにため息をついた。 「あのねぇ、壬生さん。写真っていうのは必ず撮った人がいるのよ。特にこれなんか手ぶれしてるでしょ。素人が撮った写真だよね。 だからね、これを撮ったのが私の彼氏。かっこよくて男らしい人。後藤くんじゃないの」 「は?」 アイカは靖子のためにもう一度丁寧に話してくれた。早とちりだったことに気づいた靖子は、赤面しながら謝った。 (これじゃ、後藤くんのことが好きなのがバレバレ。っていうか、すでにバレてるような?) 靖子は赤くなった頬がますます赤くなるのを感じた。 「いいんだけど。少しは動揺してもらわないと話が進まないんだし」 アイカは意味不明なことを言ってから、靖子に写真を差し出した。 「これ、後藤くんの分だから。渡しといて。ついでにね、はじめの質問、後藤くんに聞き直した方がいいと思う。私が今言うより、よっぽどいいと思うわ。うん、絶対」 そのとき、十分休みが終わるチャイムが鳴った。 「今度はちゃんと答えてくれるから大丈夫。じゃ、これからよろしくね」 美少女は最後まで意味不明な言葉を言いながら、嵐のように去っていった。 (つづく)
□■□■□■□■□■読者への挑戦□■□■□■□■□■□■
ここまでおつきあいいただき、ありがとうございました。 じつはこの話、ここまでの材料と一般常識を使い、『昨日の 出来事』の大部分を論理的に導き出すことができるようになっ ています。 軽いクイズでも解いている気持ちで楽しんでくださると幸い です。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
佐倉からのフォロー 二年前の話です。miu miuに時代が出ている(笑)
|