コンソレーションのあと、実家に帰った。
「裕太おかえり。試合、残念だったね」
そういう兄は本当に残念そうな表情をしていた。
「氷帝の芥川だっけ、裕太に勝ったの」
「ああ」
芥川さんは強かった。ボロ負けだった。だから―――
「僕が勝ってあげるよ。僕が裕太の仇をとる」
兄貴はオレにそう言った。
そうじゃないんだ、兄貴。そういう話じゃないんだ。
オレが芥川さんにたった十五分でボロボロに負けたせいで、ルドルフの志気は大幅に下がってしまった。
オレの肩には、勝つためだけに地方から集められた観月さんや柳沢先輩達の将来がかかっていたんだ。オレは絶対に芥川さんに勝たなくてはいけなかった。
「もし氷帝と闘うことになったら応援に来てね、裕太。僕が仇をとってあげるから」
「ああ、見に行くよ」
本当の意味で負けたことのない兄貴には、負けた人間の気持ちはわからない。
そして兄貴にとっては観月さん達の将来も、オレの責任も、オレ達がもう闘えないこともどうでもいいことで、ただオレが誰かに負けさせられたことが悔しいのだった。
「来てくれるの?」
「いけたらな」
「絶対に勝つから。見てて」
オレは兄貴の弟で、兄貴がこんな風なのはオレに対してだけならば、オレはそれを受け入れなくてはならない。
この前、観月さんが兄貴に負けた試合の後、俺はそう思うようになった。
兄貴はチームの勝敗のかかったあの試合で、真剣に戦ってくれさえしなかった。
「ああ、がんばれ」
「裕太がそう言ってくれて嬉しいよ。芥川は強い?」
「強えよ」
「そう。楽しみだな」
兄貴はそう言って綺麗に笑った。
俺はその笑顔をとても綺麗だと思った。
―――だから、兄貴が俺のために何をしようとも、俺はそれを受け入れる。
以前なんとなく書いたスケッチのようなものに、少々手を加えてみました。まさにショートストーリーって感じですね。
前後の説明を入れると非常に長くなるので省きましたが、この裕太はまさにテニス部二年の夏が終わってしまったばかりで、相当落ち込んでいるんです。しかも自分のせいで負けてしまったので、本当に落ち込んでいるんです。でも不二にはまったくそれがわかっていません。ついでに不二が優勝した日でもあるんですが、あまり不二自身そのことには関心がないようです。
こういう周裕もたまに書きたくなりますね。