さぼてん

 ある週の土曜日、部活が早く終わったので、菊丸と不二は二人で街を歩いていた。
「英二、見て。このサボテン裕太に似てる」
 ぶらぶらしている途中で、二人は不二のお気に入りの花屋(サボテンの品揃えがいいらしい)に入った。珍しい観葉植物などもあるので、菊丸もこの店は嫌いではない。
「そうかなぁ? なんか色んなのがボコボコしてるだけに見えるけどなー」
「そうだけどね。なんとなくツイストスピンショットを決めたあとのポーズに似てない?」
「言われてみればそーかも」
 菊丸は裕太の決め球を思い出した。
 裕太の得意なツイストスピンショットはかなりの大技だ。出せば必ずポイントが取れるからいいものの、技を出した後、ポーズをとったまま動かないのはどうなんだろうと菊丸は思う。
 菊丸自身は動き回るのが好きだから、そういうところがどうも気になる。

 考えてみれば、裕太の兄である不二も、技を出した後はポーズをとったまま動かない。
(やっぱ兄弟なんだなぁ)
 そう思うとなんだかおかしくなってきて、菊丸は思わず笑った。
「どうしたんだい?」
「なんで不二って、カウンター出したあと動かないの?」
「なんでって―――動いたら返されるかもしれないから」
「へ? どういうこと?」
「もしその技に絶対の自信があれば、技を出した後に動く必要なんかないよ。そう思うとね、技を出した後、動いたらいけないような気になって」
「へー、すごいなー」
 不二はやっぱりこういうところが天才なんだろうな、と菊丸は思った。
「裕太君もそうなのかな」
「裕太がどうしたの?」
「だって、裕太君もツイストスピン出したあと動かないじゃん」
「そういえばそうだね。でも裕太のは違うんじゃないかな。昔は、なにかの技を出してもすぐに動いてたし」
 そういいながら、不二はツイストスピンショットの後の裕太に似たそのサボテンをにらみつけた。どうやらその技を裕太に教えたのが誰だったか思い出したらしい。
「うーん」
 どうなんだろう? 動体視力の良い菊丸には、あの技の後しゃがみこむ必要はないように見えたが。
「どうしようかな」
「何が?」
「このサボテン。ほかの人に買われるのはいやだし、可愛いんだけど………」
 そのサボテンは裕太に似ているけれど、それがよりにもよってツイストスピンショットなのが気に入らないんだろう。まぁその気持ちはわかるけれど。
「買っておけばいいんじゃないかなぁ」
 たぶん裕太は、初めて兄と離れた場所で技を完成させて、無意識のうちに、動いたら返されるという兄のジンクスの真似をしてしまったのだろう。
「なんで?」
「ほら、兄弟愛のポーズって感じだし」
「………意味がわからないよ、英二」
 でもそう言われると悪い気はしないよねと言って、不二はそのサボテンを手にとってレジに持っていった。

 


授業中、眠くなって「サボテン型裕太」を落書きしていたら(←笑))このネタを思いつきました。しかしツイストスピンショットに似たサボテンってなんだ、って感じですね(笑)