ロザリオの行方




 「兄弟制度、ですか」
 礼拝堂に呼び出された不二裕太は、いつもより気合いの入ったフリルと色彩センスの観月に少々圧倒されていた。
「そうです。東京の有力なテニス部には、親しい後輩を弟(プティ・フレール)にしてロザリオを渡すという習慣があるんです」
「はぁ」
「氷帝の鳳君を覚えていますか? 彼は誇らしげにロザリオを付けていたでしょう。あれは彼のお兄さまから渡されたものなのです」
「お、お兄さま…ですか」
 裕太は背が高く、とても同じ学年とは思えない鳳を思い出した。そう言えば彼にはかなり親しそうな先輩がいた気がする。
「あと、跡部にいつも付き従っている二年生がいたでしょう。あれは跡部のプティ・フレールなのです」
「プティ………」
 裕太はこれまたとても同じ学年とは思えない、跡部の下僕のような男を思いだした。
「ええ。跡部には彼のプティ・フレールとなるにふさわしい容姿と能力を持った人間がいたのですが、彼を差し置いてあの樺地君を選んだので、当時はずいぶん話題になりました」
 裕太はその候補者というのは、この前の試合で越前と闘っていた変な構えの二年かな、と思ったが、観月の語りの邪魔をすると怖いので、黙っていた。
「我がルドルフにもその制度は伝わっているんです」
「え? そうなんですか?」
 そんな妙なものがあるとはきいたことがない。
「裕太君も二年になって数ヶ月たったわけですから、そろそろお兄さまを決めなくてはいけない時期ですね」
「そ、そうなんですか?」
 裕太はお兄さまと聞いて、実の兄のことを思いだした。
 自分はテニス部に入っていなかったから聞いたことはないが、青学にもその制度はあるのだろうか。

※    ※    ※

 「ほ〜んと、ヤになるにゃ〜」
「どうしたの、英二」
 場所は変わって青学はテニス部。三年レギュラーだけ集まった部室で、菊丸が一人ふくれていた。
「なにって、桃がさ〜 オレの弟になった時はあーんなにかわいくって、エージ先輩の弟になれてよかったですとか言ってたのに、あっという間に弟をつくっちゃってさぁ」
 兄弟制度になんかまったく関心のなかった菊丸だったが、とても気が合う後輩をみつけ、速攻でロザリオを渡し、下校時にはハンバーガーをおごり、一緒に自転車に乗ったりと、とても可愛がっていたのだ。それなのに………!
「でも越前はまだ桃城のプティ・フレールになったわけじゃないだろう。青学の柱(ブルー・ローズ)ファミリーの勧誘を受けてるようじゃないか」
 乾はデータマンらしい口調でそう言った。
「手塚ね〜 それもヤなんだにゃあ。おチビは可愛いし」
 結局、菊丸は越前が桃城の弟になると決めつけていて、ただ愚痴をこぼしているにすぎない。もうすっかり二人まとめておごったりと『おじいちゃま』(お兄さまのお兄さま)として面倒を見ているのだ。
「乾はいいよな〜 海堂は弟作りそうにないし」
「そうか? それより手塚の弟の座を狙っている奴は他にいるだろう」
「荒井ねぇ。あれはちょっとかわいそうだなあ」
「手塚は越前に青学の柱の座は渡しても、ロザリオは渡さないんじゃないかな」
 不二は相変わらず適当なことを言った。
「にゃるほど。じゃ、手塚は弟ナシか。不二は?」
「英二、オレもいないんだけど」
「大石は作っちゃダメ!」
「それはそうと不二、本当にどうするんだ? お前のプティ・フレールの座を狙っている奴も多いだろう」
 困っている大石を助けるために、メガネを光らせながら、乾が話題を変えた。
「ボクの弟は一人でいいよ」
 そう言って微笑んだ不二に、全員が(このブラコンが!)と心の中だけでつっこみを入れた。

※    ※    ※


 一方その弟は、ステンドグラスからの光が厳かな礼拝堂で、観月のロザリオを見せられ、得々と自慢をされていた。
「………という由緒あるロザリオなのです」
(んふっ。この僕のロザリオを受け取る資格があるのは、裕太君。あなたしかいませんよ…。兄弟となった暁にはお揃いの服をプレゼントしましょう)
「すごいですね」
「ええ。すばらしいものです。で、このロザリオをですね―――」
「お、裕太、ここにいただーね」
「なんですか柳沢。騒がしい」
 今からというところに邪魔が入り、観月は見る間に機嫌が悪くなった。
「兄弟制度というのがあるってきいただーね。裕太、オレの弟になるだーね」
 観月の話によると、どうやら自分は『お兄さま』を作らなくてはいけない時期らしい、と裕太は考えた。柳沢とは一緒に氷帝戦も見に行ったし、普段から仲もいい。
「いいですよ」
「何を考えてるんですか、裕太君!」
「え、だって観月さんさっき兄を作れって―――」
「君には青学不二君というれっきとしたお兄さんがいるでしょう!」
 観月は苦し紛れに訳の分からないことを叫んだ。
「え?」
「なんだ、残念だーね。じゃ、別のやつにするだーね」
 そういうものなのか?裕太は混乱し、しばらく呆然としていた。

 

※    ※    ※

 一方その兄は、テクニックだけ重視し、まったくレギュラー戦に勝ち残ることのできもしない二年生から、お兄さまになってくださいと逆プロポーズをされていた。
「なんか色々うるさいよね」
 とりあえず優しげに微笑んでその二年にはお引き取りねがって、不二は部室に帰ってきた。
「ロザリオって他校生にあげてもいいんだっけ?」
「ああ、過去にはそういうデータも残っている」
「じゃあ裕太にあげよう。これで僕たち兄弟だ」
 全員心の中で(っていうか初めから兄弟だし!)とつっこみを入れたが、誰もそれを口にすることはできなかった。

 

 結局裕太がだれのロザリオをもらったのか、それは定かではない。

 


 

というわけで【マリア様が見てる】ネタです。


 菊桃小説を読みながら、「菊丸→桃城→越前」ってなんか薔薇様ファミリーみたい♪などとうっかり謎なことを考えてしまった佐倉。そのネタで書くはずが、なぜか観月と不二兄弟の話に(笑) だって、ルドが一番マリみてっぽいし!

 ギャグなので菊丸のにゃんこ語や観月さんの「んふっ」を思い切って(?)使ってみました。ちょっと楽しかったです。

 さて。ロザリオの授受がすんでいるのは、ここに出てきた以外では赤澤金田/ニトキタって感じでしょうか(千葉まで入れたらバネさんとダビデも)。
 室町は千石さんのロザリオが欲しいんだけど言い出せない。壇は亜久津先輩のロザリオをもらうですと色々頑張っている。不動峰は橘さんのロザリオ争奪戦って感じですか(笑) テニスには仲のいい先輩後輩が多いね。

 あ、ちなみにダーネがタイミング良く現れたのは木更津の差し金ということで。たぶん絶対兄弟にならないとわかってて、へんてこなことを吹き込んだのでしょう(笑)
 いろんな人の人格が変わっていますが、それはご勘弁を。あ、あとナチュラルにタカさんがスルーされていますが、あの場には一応いるということで(手塚はいない)。タカさんの弟はカツオあたりがいいな〜(謎)

 なんせロザリオつけているラブラブな二年がいますから、きっと誰かが先にやっているだろうネタですが、とりあえずやっとけって感じで(笑)