携帯が鳴ったので目が覚めた。メールが着信したらしい。そうか、今日は雨なんだ。リョーマはベッドサイドにおいた携帯を取った。
『そろそろ起きろよ』
雨だと桃城は迎えに来ない。代わりにメールをよこす。
「律儀なことで」
リョーマは大きなあくびをした。夏休みといっても部活はある。そろそろ起きなければならない。
ふと目をやると、携帯には『桃先輩 誕生日』という文字が浮かんでいた。前に誰かから聞いて、メモしていたものだ。
「ふーん」
めったに使わないメール送信機能を開いて、『たんじょうびおめでとう』と打ってみる。そのひらがなが変換されて『誕生日』となったところで、送る気が失せた。
今送れば、家族以外では誰よりも早く誕生日を祝えるだろう。そして桃城はそれを喜んでくれるだろう。でも、そんなことにはさほど意味がない。
「寝よ」
リョーマは再び布団に潜り込んだ。
「おちび〜、おっそーい」
雨の日は体育館で体力作りメニューをこなす。ある程度メニューをこなしたら、ミーティングをして、今日は解散だろう。
「越前、遅せぇなぁ」
「アンタが迎えにこないからでしょ」
ナンだてめェなどとブツブツ言っている桃城の横をすり抜けて、遅刻のペナルティをこなす。あんな風に文句を言っておきながら、言われたことはきっちり覚えている人だから、今度からは雨の日にも迎えにくるのだろう。『越前きたぞー』とか言って、雨の中、わざわざ遠回りして。そして自分は、すぐにまたそれを当たり前だと思うのだ。
ミーティングも終わり、午前中で解散になった。
「桃〜、今日誕生日だろ。おごってやろっか」
近くのファミレスで昼ご飯でも食べようか、という話になった時、菊丸が大声でそう言った。
「あ、そうなんだ? ボクも乗るよ」
「じゃ、大石も呼んでくる。おおいし〜!」
結局、レギュラー全員で昼食を取ることになり、三年が桃城の分をおごるということで話がまとまった。
「なんでも食べていいぞ〜 おごりだから。お・ご・り♪」
大食漢で単純な桃城は、一人頭にしたらたった数百円にしかならない誕生日プレゼントで、とても喜んでいた。
数日前、桃城の誕生日を思い出した。カード売り場でしばらく悩んで、バカバカしくなってやめた。桃城の使いそうなタオルとか、リストバンドとかも頭をよぎったが、見に行きもせずに家に帰った。
お祭り好きの菊丸が、誕生日用のケーキを頼み、ファミレスの従業員が輪になってテーブルを取り囲んで、バースディソングを歌い始めた。
三年は全員、手を叩いて歌い、海堂はお義理のように手を叩いている。リョーマもやる気なく手だけは叩いた。
歌が終わり、「おめでとう」という声が響く。リョーマも「おめでとッス」と自分にしか聞こえない声でつぶやいたが、きっと桃城には聞こえなかっただろうし、桃城もリョーマが言ったかどうかなど気にもしていない様子で、目の前のロウソクの炎を勢いよく吹き消した。
中学生男子だから、誕生会ムードなのもそこまでで、すぐに普通の昼と変わらなくなる。途中、大石の気配りで、桃城の携帯に手塚からの激励メールが届くというハプニングがあり、桃城は喜んで顔を紅潮させた。
(単純………)
どうにもいちいち気に障る。
本当に誕生日プレゼントを用意したりしなくてよかったと思う。それとも、桃城はかわいがっている後輩からのプレゼントなんていうイベントを期待していたりしたのだろうか。なんにせよ、用意しなくてよかった。
そんなことを考えている間に、会はお開きになった。
帰る方向が同じだから、最後には二人きりになる。
二人で歩いていると、道々にある店が気になって、気が散って仕方がない。たとえば、この店に誘って、自分からのおごりだと言えば桃城は喜ぶんだろうなとか、いっそゲーセンの景品でも渡そうかとか。何をしてもきっと桃城は喜ぶだろう。例えば、改まっておめでとうと言うだけでも。
桃城は後輩が出来たらかわいがるんだ、と言っていたそうだ。その割に、初めの頃の態度は悪かったような気がするが、とにかく、菊丸が桃城をかわいがっているように、後輩が出来たらかわいがってやろうなどと思っていたらしい。
(選ぶ人間をまちがえたね、桃先輩)
桃城は後輩を可愛がるという範囲が、どこまでなのかがわからないようだ。リョーマが言えば、文句をいいながらも大抵のことはする。
相性が徹底的に悪いのか、またはものすごくいいのかはよくわからないが、桃城がそんなのだから、自分は際限なくつけあがるし、最終的にどこまでいくのかがまるで見えない。
「越前、ゲームでもしていかねぇか?」
「いいッスね」
せっかくの誕生日なのに、いつもとまったく変わらぬ日常。自分が一言なんか言えば、それで少しは誕生日らしくなるのだろうが、桃城の望むようなかわいい後輩なんていうものになるのはごめんだ。
「アンタ弱いんだよね。少しは練習した?」
こうやって桃城の部屋の中に入っても、まだ、自分は誰でも良かったただの後輩で、桃城は後輩と仲のいい自分自身に浮かれているにすぎない。
(―――ホント、ばか)
本当にバカだ。桃城も、くだらないことに意地を張っている自分も。
(でも、まあ)
桃城が生まれてきて、ここにいる偶然に感謝はしている。それを本人に伝える気はさらさらないけれど。
桃城が飲み物を取りに行き、誰もいなくなった部屋の中で、
「桃先輩、おめでと」
と、小さくつぶやいてみる。とてつもなくばかばかしい。あんながさつなバカ相手に、一体、何をやってるんだかわからない。
しかし、惚れてしまったものはどうしようもないのだ。
飲み物を用意した桃城が帰ってくる気配がする。リョーマはゲームの電源を入れ、いつものように勝手にゲームを始めた。
まさに「まだまだだね」と言いたい片思い話(笑) 一応、この話のリョーマ的には桃城がリョーマに惚れて恋人同士になるまで、おめでとうとかいうつもりはないのじゃないかと(いや、なっても言わないかもしれない(笑))
自ジャンルにはお誕生日などというものがないので、サイトオープンしてすぐに桃城誕生日であせりました(笑) ここを逃してしまったら、次は一年後です。無理してでも桃城話をアップしなくては、桃城ファンの名がすたるってなもんです。というわけで、少々無理が。すみません〜。
リョ桃はとても好きです。王子のひねくれぶりがツボ。この話、かなり王子が乙女チックなので桃リョっぽいですが、リョ桃です。というか、桃城を押し倒す方しか考えていないので、優位に立とうとして無駄に乙女チックなのです(笑)
さて。私はリョ桃メインですが、菊丸と仲のいい桃は大好きです。そして跡部に狙われていてもかまいません(笑) 神尾といがみあいながら仲がいいのも大好きです。つーか、そこは桃リズで!というかCPナシで! 海堂のことを好きでいてくれてもかまいませんが、そこは片思いで!
そして最終的にはリョーマで!
というのが一応、桃城スタンスです。読む分なら、桃が良い桃ならなんでもカモン!です(笑)
と言うわけで、桃城さん誕生日おめでとう! やおい的に好きでごめん。でも普通にも応援してるから!(笑)