観月木更津・裕太柳沢・ノムタク バージョン 「不二、おまえテニス部なんだって? いいよな〜」俺の名前は不二裕太。聖ルドルフ学院に転校してきたばかりの中学一年生だ。 生まれて初めての寮生活なので、緊張はするが、家族と離れることが出来たのが嬉しい。 「いいよな、双美人と同じ部だろ? 俺もテニス部に入っておけばよかったよ」 かつて全寮制だったルドルフには、数々の伝統が残っており、そのうちの一つに『双美人を愛でる』というものがあるらしい。よくわからないのだが、寮生活をしている美しい2人(男)を憧れのマドンナとして認定するという制度らしい。 双美人。どんな人たちなんだろう。綺麗でやさしい人なのだろうか。 ※ ※ ※ 「裕太君! なんど言ったらわかるんです。ライジングのポーズはこう! こうだと言っているでしょう!」 テニス部には、んふという妙な笑い方が特徴の、かなり怖くてポーズの形にこだわる(けれども強いし俺にきちんと指導してくれる)マネージャーさんや、なぜかいつでもハチマキをまいてクスクス笑っている前髪の長い不気味な人や、俺と同室でアヒルに似ている人などがいる。何度言っても俺の名前を覚えない(しかも兄貴を知らないくせに、俺のことを弟呼ばわりする)ような人もいるが、総じて居心地は良い。これにその双美人と言われる人たちが来てくれたら、どんなに心強いだろう。 しかしどんなに待ってもその双美人は現れなかった。 噂によると、肌が白く、おとぎ話に出てくる姫のような華やかな美人と、涼やかな目をした日本人形のような美人の二人組だという。 みんな密かに、片方を赤薔薇様、片方を白百合様と呼び慣わしているらしい。今日も赤薔薇様は美しかったなどと言っているのを小耳に挟むので、寮にはいると思うのだが会ったことはない。いつになったら練習に来るのだろうか。 ※ ※ ※ 「裕太! いつになったらキックサーブが打てるようになるんですか!! キックサーブのポーズは、こう!だと言ったでしょう!」今日も観月さんは絶好調だ。俺は左利きなのだが、観月さんは対戦相手の顔面に跳ね上がるように、右手でサーブを打てと言う。悲しいことに、昔から左利きには天才が多いのよなどと言われ、まったくなんの矯正も受けていない俺は、右手ではほとんどなにもすることができないのだ。 「クスクス。ポーズだけでキックサーブが出来るようになるわけないよね」 不気味な笑いを残して、木更津さんが歩いてゆく。木更津さんはテニス部に入ってきた時から空中ドロップなる大技を持っていたので、観月さんからポーズの指導を受けることがない。というか、俺以外ポーズの指導は受けていないような気がする。 俺はどうにか超ライジングのポーズがとれるようになり、今は次のポーズを取得中だ。初めはポーズ重視の観月さんの指導に疑問を感じたりもしたが、超ライジングを取得した今は次のポーズをがんばって取得したい感じだ。しかし相変わらず、観月さんは怒るとうねった髪がメデューサのように見えて怖い。そして同室の木更津さんと「んふっ」「くすくす」と笑いあっている姿は不気味だ。 ※ ※ ※ 「柳沢さん、双美人っていつになったら部に来るんですか?」 今日も寮の103号室からは「んふっ」「くすくす」という謎の笑い声が漏れていた。裕太はまたあの人達笑ってるよ…と思っただけだったが、一緒にいた寮生は、麗しい笑い声に必死に聞き耳を立てていたとかいないとか。
|