一週間ぶりに兄からの電話があった。ここのところ、三日おきぐらいにかかってきていたので、少し間があいたなとは思ったが、そもそも用なんてほとんどないのだから、一週間かかってこないくらい大したことではない。
それでもかかってきた電話にほっとしている自分を感じて、裕太は少しだけ機嫌が悪くなった。
「どうしたの?なんか機嫌が悪いね」
「なんでもねぇよ!」
どうも自分は言葉を上手く使うことが出来ない。追求されたくない気持ちが先にたって、つい言葉遣いが悪くなる。
「裕太がそう言うならいいけど……最近はどう?」
周助はそれ以上そのことを追求せず、裕太が話しやすいように話をそらしてくれた。
そしてその後も別に周助と話していたいわけでもないのに、うまく誘導されて、気がつくと色々なことを話していた。
(……でも、なんか……)
いつも通りすごく話しやすくて、ついどうでもいいことまで話してしまったが、でもなんだかいつもより兄の反応が遅いような気がする。
「で、兄貴の方はどうなんだよ」
裕太が水を向けると、いつもならすぐに青学の様子や家族の出来事を話し出すはずの周助が一瞬黙った。
「兄貴?」
「………ああ。ええと…こっちのことだったよね。そういえば越前が……」
「おい」
「え?」
裕太が話を止めると、受話器から止めきれなかった咳が聞こえてきた。
「お前、風邪ひいてるんだろ」
「ひいてないよ」
「嘘ついてんじゃねぇよ。だいたいさっきからずっとぼーっとしてたじゃねぇか」
「そんなことない」
そういえば昔からこの兄はこうなのだった。小学生の頃の冬休みに裕太の風邪がうつってしまった時も、外で普通に一緒に遊んで、帰ってきてからもいつも通りで咳一つしなくて、裕太以外の家族までもだまして、逆に裕太の具合を気にして―――そんな兄だった。
「無理に電話なんかしてねぇで、さっさと寝ろ」
「無理になんてしてない。僕は……裕太の声が聞きたくて」
急いで言おうとするものだから、言葉の途中に荒い息が混じる。もう風邪をひいているのはあきらかだった。
「つーかさ、俺相手に嘘ついても仕方ねぇだろ」
受話器越しに息を整えているかすかな息づかいが聞こえてきた。相当ひどそうだ。きっと……もっとひどかったのだろう。ようやく電話ができるくらいになったばかりなのだと思う。
「僕は……裕太以外に嘘はつかないよ」
「なんだよ、それ」
本当にすっかり風邪をひいているらしい。言っていることがめちゃくちゃだ。
「だって……わざわざ嘘なんてついても仕方がないし……まあ少しはつかないこともないけど」
時々咳を我慢しているような声でそう言われて、裕太どう答えていいのかわからなくなった。なぜかさっきから胸が騒ぐ。
「バカなこと言ってねぇでさっさと寝ろ」
「もう……治ったんだよ」
そんな荒い息づかいでよく言うもんだ。そこまでして……自分と話したいんだろうか。
(んなわけねぇ)
兄弟で話したいも話したくないもない。周助は臆面もなく話したいの会いたいの言っているが、それは周助が変な性格だからで、そもそもは話したいとかそんなのはないはずだ。
でも………
「もし!」
「もし、なに?」
「もし、てめぇがまだ何か話したいことがあるんなら」
あまりに恥ずかしいので、つい語尾がきつくなる。
「話したいことがあるっていうより、もう少し話してたい……んだ」
だからそういうことを言うな、と裕太は思った。なんでこんなに気恥ずかしいことばかり言うんだ、この兄は。
「だから、もしそうなら! ええと……。だから……。布団に入って寝ながら話すんだったらいい」
自分は言葉が苦手だから、こういう言い方しかできない。
「うん。そうさせてもらうよ。……ありがとう、裕太。で、さっきの話のつづき……なんだけど」
時折咳をしながら、それでも楽しそうに兄が話している。裕太はしばらく兄の話を聞いていた。
お互いに恋愛に気づく寸前の、というか薄々気づいている感じというか、そんな感じが出ていればいいんですけれど。
私は周助さんは嘘はあまりつかない人だと思います。嘘をつくより、本当のことを言っているんだけれどちょっとポイントをずらしてはぐらかすというような印象。嘘つきな周助さんも萌えではありますけど(笑)
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