ある秋晴れの日、裕太は恋人との待ち合わせ場所である青春台駅にいた。
今日は写真を撮るのが趣味である恋人との日帰り撮影旅行だ。
旅行の計画を立てている恋人はとても楽しそうで、裕太もこの旅行を楽しみにしていた。
少し早くついてしまった裕太は、待ち合わせ場所に立って、恋人を待っていた。その時、
「アンタ、なんでこんなとこにいんの?」
と、どこかで聞いたとことある声が聞こえ、裕太は辺りを見回した。
「越前?!」
そこにいたのは、かつて裕太に試合で勝ったことのある青学の一年、越前リョーマだった。
「ああ。そういえばアンタの家ってこの辺だったっけ」
「まあな」
越前は兄の―――裕太の恋人でもある兄の後輩だ。そんな越前に、こんなところで兄と待ち合わせているのがバレるとまずい。
兄弟とわざわざ待ち合わせているところなんて見られたくないし、一応デートでもあるので、余計見られたくない。
「ふーん。デートなんだ?」
「な、なに言ってんだよ」
越前はナマイキそうな顔で、訳知り顔に笑った。
「そういうお前は何してるんだ?」
どうやら越前も待ち合わせらしい。普段とは何も変わらない格好だが、たぶんデートなんだろう。
「なにって、デートの待ち合わせだよ。アンタと同じ」
「俺は違う!」
もうじき兄がやってくる。なんせ実の兄だ。そんな人間とデートだなんてバレたら大変だ。
それに、越前には兄と仲が悪かった頃も、何となく仲直りした頃もみんな見られているのだ。だから絶対に兄と待ち合わせをしてるなんて知られたくない。
「へぇー、違うんだ。まぁいいけどね」
なぜか越前は裕太の横を動かない。
待ち合わせ場所を換えるしかないと思い、裕太は携帯を取り出した。越前は背が低いから、上の方でメールを打てば内容はばれないですむはずだ………と思ったら。
「お前、背が伸びたか?」
「一応」
まだ背が低いが、前よりは高くなっている。
「あんなにチビだったのにな―――そういや、デートなんだっけ。あいかわらずナマイキだな」
「あんただってそうでしょ。中一も中二もたいして変わらないと思うけど」
「だから俺はデートなんかじゃねぇんだよ」
「その人青学?」
「え?」
なんでわかるんだ?
「あんた元々青学でしょ。ここで待ち合わせてるんなら、相手は青学なんだろうし」
「お前はどうなんだよ」
裕太はとにかく話を自分から逸らそうとした。
「俺? 俺は青学だよ。他に知り合うヒマなんてないっしょ」
「まぁな。あ、お前確かファンクラブとかあるんだよな。その中の子か?」
裕太は兄が以前越前のファンについて話していたのを思い出した。
「よく知ってんね。でも違うよ」
「へぇ。もてるんだな」
越前はかなり顔立ちが整っている。まだチビで中一だけれど、色んな女から騒がれているんだろう。
「そんなの関係ないよ。俺から口説いたんだし」
「お前から?」
越前にそんな甲斐性があるようには見えない。でも、これだと決めたら自分から行きそうな感じでもある。
「どんな奴?」
「かわいいんじゃないの。たぶん」
「へぇ」
「かわいくて、視野が広くて人間っぽい」
「人間っぽい?」
変な言い方だ。
「笑ったり怒ったり落ち込んだりしてる。でも時々冷静で腹立つ」
「妙な女だな」
でも、美人とか優しいとか言うより越前らしいように思う。それに、まったく表情が変わらないが、たぶん、これは越前流ののろけなのだ。
「女じゃないっす」
「え?」
「男」
越前はなんでもないことのようにそう言った。
「すげぇな」
「何が?」
裕太は堂々とできない自分と比べて、思わずすごいと言ってしまったが、これでは同性愛がおかしいと言っているように聞こえかねない。裕太はあわててフォローをした。
「堂々とそう言えるのがすごいっていうか……やっぱ越前だな」
「アンタもそうなんだ? ふーん」
「いや、そういうわけじゃなくて」
ダメだ。どうしてかわからないが、話せば話すほどドツボにはまっていってしまう。
(兄貴、くんな。来るんじゃねぇ!)
越前は「へぇ」とか「ふーん」とか言いながら、あわてている裕太を見ている。
「裕太! 待っててくれたんだ」
その時、兄がやってきた。
「兄貴! くるな」
裕太は思わず言った。
「くるなって………どうしたんだい?」
「越前……と裕太?」
兄の後ろから桃城が現れた。どうもこの二人は途中で会ったらしい。
「桃城?」
「遅いっス」
裕太の横にいた越前がボソリと言った。
「遅れてねぇだろ。そういや、不二先輩、裕太と待ち合わせだったんスか? 俺、てっきり…」
「桃先輩が間違えてるわけじゃないよ。ねぇ?」
越前はまた訳知り顔をして、兄にそう言った。兄はただ微笑んでいる。
どうしたらいいのか分からない裕太は、同じく訳がわかっていなそうな桃城を見た。
「桃城が越前と待ち合わせてたのか?」
そういえば、前から桃城と越前は仲が良かった。
なんでデートだとか言っていたのかはわからないが、つまり、越前は今日、桃城と遊びに行くのだろう。
「さっきからそう言ってるっしょ」
越前がそう答えた。
そういえばそうだ。さっきの越前ののろけは桃城そのものだ。しかし―――なんでのろけてたんだ?
「裕太、早く行こう」
「お前、桃城って―――桃城なのか?」
まさかこの二人が付き合ってる? 全然ピンとこない。
「そうだよ。桃と越前は付き合ってるんだよ。わかったんなら早く行こう、裕太」
「不二先輩!」
桃城があわてている。
「あれで隠してるつもりだったのかい? 裕太、早く行こう。特急に間に合わなくなる」
桃城はやっぱりあわてている。その様子を見て、
(本当につきあってんだな)
裕太は驚きながらも納得した。
「アンタんとこも隠れてないけどね」
「隠してるつもりもないしね」
兄はそう言うと、裕太の手を取って切符を握らせ、そのまま改札口の中に引きずった。
「なんだよ今の」
「今のって?」
電車に乗り込むまで兄に腕を引っ張られて、ドアが閉まった後ようやく解放された。
「隠してないって、お前何考えてんだよ」
「隠すってどうやるの? 僕は昔から裕太を好きだってことを隠したことなんてないよ」
「そういう意味じゃなくて……」
裕太は口ごもった。
「昔から恋愛の好きだったよ。だから隠せって言われたって、隠し方なんてわからない。そんなことより裕太、今日なんだけど―――」
兄は楽しそうに今日の予定を話し出した。
(確かにいつもこんなんだったよな)
一応、恋人だということになっている兄だが、考えてみれば昔とまったく態度がかわらない。
(頭痛ぇ………)
これではまた誰かに気づかれかねない。
「越前は自分が桃とつきあってるから僕たちのことに気づいたんだよ。それだけ。普通の人ならわからないんじゃない?」
兄が笑いながらそう言ったので、裕太は納得した。
※ ※ ※
裕太は楽しそうに特急に乗る前に買い込んだ駅弁を食べている。
それを見ているだけで周助は幸せになってくる。
(気づいているのは、越前と、乾と………ぐらいかな。でも英二と手塚には自分で言っちゃったしね。せめてタカさんにはしばらく黙っておこう。でもいつかは言わないといけないよな)
裕太は兄が考えていることにまったく気づかずに、おいしそうに駅弁を食べ続けていた。
一万ヒットをゲットして頂いたちひろ様のリクで「周裕とリョ桃のダブルデート」でした。ダブルデートではないですね(笑) 二組のデートの待ち合わせ、略してダブルデート(無理矢理)って感じで(笑) タイトルもちひろ様にちなんでTMに。リクエストありがとうございました〜
リョ祐とかそういう話じゃなくても、リョーマと裕太は結構話が合うと思います。裕太ぐらいになら、駆け引きとかないから堂々とのろけそうだし。一応、隠し設定としてこの話は原作推奨カプは全部くっついているラブラブワールド(←なんだそれは)なのですが、リョーマが乾やら大石やらに桃城のことをのろけそうにないし、じゃあ海堂やら菊丸やらにのろけるかって言っても、あの人達にのろけたところで……だし、で、唯一のろけることができそうな相手(裕太)がそこにいたので、王子様はがんばってのろけてみたのです。もちろん初めから、裕太が周助とデートの待ち合わせをしているのには気づいていた、って感じです。
佐倉が考える原作推奨カプは、大菊・乾海・リョ桃・周裕などですが、このパターンで言うとあとは跡樺と鳳宍あたりになるのでしょうか。基本的に、受けでも攻めでもいいので片方の人が「俺は相手のことをよくわかってるぜ!」みたいな態度を取っている組み合わせです。
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