世界でひとつのバースディ



 僕たちが幼い頃、僕たちの誕生日は一つだった。
 もちろん、誕生日の当日にはお祝いの言葉をもらったけれど、プレゼントをもらってレストランに行って………そういう日は僕と裕太の誕生日の間にある初めの日曜日と決まっていた。
「裕太、おめでとう」
「お兄ちゃんもおめでとう」
 そう言って二人でプレゼントの交換をしたり、二人で家族から祝われたりと、いつもとても幸せな誕生日だった。

 でも、僕が12歳の時、僕の本当の誕生日がやってきた。裕太はせっかくだから僕の誕生日の当日に誕生日をしようと言いだした。
 それはとても嬉しかったけれど、でも僕は裕太の言葉がそれだけの意味じゃないのを知っていた。
 その頃、裕太は少しずつ自立しはじめていた。
 そして、もう二人で一緒に祝われるような年じゃないと、そう思い始めていたのだ。
 
 僕は二人で一緒にお祝いをしてもらうのが好きだった。
 もちろん、裕太の誕生日には朝一番にお祝いを言ったけれど、そして裕太の誕生日をその日にきちんと祝いたいとも思っていたけれど、でも二人で家族から祝ってもらう特別な時間がとても好きだった。

 しかし僕の本当の誕生日、そして裕太の反抗期―――それらが重なり、僕の大好きな誕生日はなくなってしまった。
 


「誕生日おめでとう」
 僕は日付が変わった瞬間、僕の恋人の耳元でそう囁いた。
「………!」
 恋人はひしゃげたような声で叫んだ。相当驚いたようだ。
 驚かすつもりは―――まあ、なかったとは言わないけど、それにしても誕生日なのにお化け屋敷で幽霊に触られたような反応をされるのもどうだろう。

 裕太は耳を押さえて僕を睨んでる。すごくかわいい。
「誕生日おめでとう」
 僕はもう一度繰り返した。
「誕生日? ああ、そういや今日って18日だったっけ」
 裕太は昔から自分の誕生日に対する関心が薄い。
「そうだよ。裕太の誕生日だよ。どうしようか。どこかで夜一緒に食べようか」
「別にいい。めんどくせぇ」
「せっかく誕生日なのに」
 裕太が生まれた大切な日を、僕はたっぷりと祝いたいのだ。
「………ってか日曜でいい」
「日曜? うん。いいけど」
 めずらしいな。
 裕太はこういう時、基本的にはずっと嫌がるだけで、自分から提案したりはしない。
 少し不思議だと思ったが、裕太から許可がおりたので、日曜になれば裕太を思う存分祝うことができる。それが嬉しい。どこに行けばいいんだろう。
 僕がそうやって色々と考えていると、裕太がムッとした顔で僕を睨んでいた。
 何か言いたいことがある時の顔だ。なんだろう。
「去年さ、お前日曜がいいって言っただろ」
「え?」
「覚えてねぇならいいけど…」
 去年? 日曜?
 なんだろう。駄目だ、思い出せない。僕が裕太の誕生日を日曜に祝いたいと言ったというのだろうか。裕太がそれを覚えていた? なんで日曜なんだろう。全然思い出せない。

 でも日曜か―――その日は昔、僕たちの二人の誕生日だった日だ。
 ああ、そういうことか。ようやくわかった。
 去年の僕の誕生日(正確には僕の本当の誕生日ではないが)、僕は酔っぱらって、つい昔の誕生日が幸せだったという話をしてしまったのだ。
「そうだね、28日も平日だし……今度の日曜に一緒にやろうか」
 裕太はムッとした表情を作ったまま(ただ作ってるだけだ。僕にはわかる)頷いた。
 
 十年ぶりに僕と裕太の誕生日が一つになる。僕が裕太にお祝いを言って、裕太が僕にお祝いを言って、二人でプレゼントの交換をする。そんな特別な日。
「誕生日おめでとう、裕太」
「あ? だから日曜でいいって言っただろ」
「うん。お祝いは日曜にしよう。でも、裕太の誕生日は今日だから」
 僕は一つ年齢を重ねたばかりの恋人に抱きついて口づけた。

 



二人でケーキを食べて、二人でお祝いされて、二人とも幸せで。
そういうのって何かに似ているよね、ってお話です(笑)
オチまで書いちゃうより周助さん自身気づいてなさそうだなーと思ったので、中途半端で終わらせて欄外でネタばらし(笑)

裕太、誕生日おめでとう!