夏が終わる

 

 半屋は玄関に残る火の跡をほうきで掃き清めていた。
 この家の玄関は周囲より少し高くなっており、しゃがんで火をたくのに向いていた。
 しつこく残る跡を掃きながら、半屋は考えた。
 結局、あいつは来たのだろうか。来なかったのだろうか。

 いつもよりすべての音が騒がしい気がした。

 いつもよりすべての色が鮮やかに感じられた。

 少しだけ、風の気配がした。

 玄関に水をまいていると、職場から電話が入った。
 盆休みを取っている半屋と入れ替わりで休暇を取る先輩からの、細々とした引き継ぎだった。

 仕事の話から雑談に入り、人が足りなくて大変だとか、誰の旅行先は本当は違うらしいとかそんな話がしばらく続く。
『―――で、年に一度しか会えないヤツとかいうのには会ったのか?』
「ええ、会いましたよ」
 先輩はそれは良かったなと笑って、電話を切った。


 バカな梧桐が迷わないように、玄関に打ち付けたキュウリと茄子を釘抜きで外す。
 
 きちんと盛るのも梧桐らしくないからと、ど真ん中に釘を打ったキュウリは、変にしなびてしまっていた。

 まいた水ごとほうきで掃き、キュウリと茄子をゴミ箱に捨てると、玄関はいつも通りの姿になった。

 半屋はほうきを片づけて、家に入った。
 
 今年も夏が終わる。


 明かりが消えた後の夜行バスの中で書いたので、とても短くなってしまいました。実は一緒に旅行した後輩からの「キュウリ・釘抜き・半屋」でなにか書けというお題で書いたものなのですが、書いていて気持ちが高ぶって密かに泣いてしまったのは内緒です(笑)

 こういう機会でもなければ絶対書かないだろうネタではありますが、夏なのでこういうのも有りかなと。