雑木林と里山の違いとは  》

書評:『雑木林に出かけよう』
どんぐりのなる木のツリーウオッチング

八田 洋章 著 朝日新聞社

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『雑木林に出かけよう』 
どんぐりのなる木のツリーウオッチング


 皆さんは、雑木林と里山の違いを考えられたことがありますでしょうか? 

 私はこの本を読むまで、どちらも同じものとして理解しておりました。確かに、同じものと考えても間違いではないと思うのですが、著者が定義されておられるように、区別することが可能であると言うことを知りました。

 以下、本文から引用させていただきます。(一部修正あり)

 雑木林は本来、国木田独歩の『武蔵野』等で知られるように、「関東地方の水田をともなわない畑作地帯にあって、平坦な屋敷林の延長にあるような、身近でしかも農業と密着した林」を指します。

 一方、里山とは、「近くに川が流れ、山間には田圃が広がっていて、ため池がところどころにあり、アカマツやクヌギ、コナラの林が混在している場所であり、子供達にとっては遊びの対象であり、生活の場そのものであるところ」と表現することができます。

 ご理解いただけましたでしょうか。 つまり、雑木林は平坦な土地に広がっている林であり、里山は起伏のある土地に広がっている林であるわけです。

 さらに、雑木林は積極的に人手が加えられ、生活に密着した人工的な空間であるのに対し、里山は必要に応じて人手が加えられるものの、ある程度人間と距離を置いて存在し続けている人工空間であると認識することが出来るのではないでしょうか。

 地域によって差はあると思いますが、落葉樹林から常緑広葉樹の極相林(いわゆる照葉樹林)に遷移して行くのが自然の流れである日本において、二次林である落葉樹林が残っていること自体、人手が加わっていることの証明でもあると言えます。

 そう考えて行くと、自然をうまく利用して来た人間と、その環境をさらに利用して来たカブトムシやクワガタムシは、お互いに仲間同士と言えるかも知れません。

 燃料や肥料の供給地であると言う役割がなくなった以上、雑木林や里山が減少して行くことは歴史の必然であるようでもありますし、不本意ながら仕方のないことのようにも思います。 

 しかし、それによって仲間を失うのは、やはり残念です。必要でないものを抱え込むところに人としての懐の深さを感じるのですが、そのような、ある意味で時代に逆行するような意識を持つ人が、少しでも増えてくれることを願わずにはおれません。

 それはともかく、この本を読むと、雑木林に生育しているおなじみの樹木について、より親しみが湧いてくることは間違いありません。学術的に難しい内容をわかりやすく解説してあるところが、この本の素晴らしいところであって、さりげない表現の中にも、樹木に対して精通している著者の雑木林と里山に対する信念を感じ取ることができます。

 クワガタムシに興味がある人はもちろん、興味が薄れてきた人はぜひ一度ご一読ください。雑木林の成り立ちと奥深さを実感すると思います。


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