《虫捕りは 「精神を養う殺生」》

書評:『虫捕る子だけが生き残る』

 養老孟司、池田清彦、奥本大三郎   小学館 


『虫捕る子だけが生き残る』


 養老孟司、池田清彦、奥本大三郎、この虫好きの3人が集まれば、まさに怖いものなしのように思います。タイトルだけでも結構刺激的ですよね。きっと、虫好きでない人が見ると、否定的な意見が即座に返って来そうな気がします。まあ、臭い物にはふたをしたがるのが現代を生きている一般人の姿だと思いますので、仕方ないと言えば仕方がないのかとも感じます。
 と言うわけで、この本を手に取って読もうとする人は、すでにその時点で内容をあらかじめ理解できていると言うか、予想していると思われます。そのような直観の働く人が、長い目で見ると「生き残る」すなわち「充実した楽しい人生を送ることができる」と考えられるのです。その手段が、小さいころから虫を捕ることにつながっていると、この本では述べられていると感じられます。

以下に、印象に残った箇所を抜粋してお伝えしたいと思います。

第一章: 虫捕りは 精神を養う殺生
池田: 虫捕りを批判する人たちには、大きく二種類あると思うんです。とにかく殺生はいけないという人たちと、個体数が減るからダメと言う人たち。
奥本: 殺生って、いったい何だろうということだと思うんです。よく、無益の殺生だからいけないと言いますが、昆虫採集は、無益の殺生じゃないんですよ。豚や牛を殺して食べるのは人間の「体を養うための殺生」であるという言い方にならえば、昆虫採集は「精神を養うための殺生」である。

第二章: 豊かな土壌を残さなければ
養老: 虫が減ったのは、土壌の生態系が壊れたことが一番影響していると思う。虫は土壌の上に乗っていますからね。
土壌の生態系を構成している細菌や菌類、カビなどについては、ほとんど調べられていないもの。
奥本: 虫の場合は、餌にも菌類が混ざっていますよね。
池田: クワガタは菌を食べていますしね。昔はそれがわからなくて、餌に蜂蜜を混ぜたりとか、馬鹿なことをやっていた。
奥本: 生木をミキサーにかけて、味の素と蜂蜜と砂糖を混ぜて。
池田: 小麦粉も混ぜたりしたけど、クワガタがちっとも大きくならない。自然のクワガタは、キノコの菌糸を食べていたんですよね。その大発見があったから、クワガタの飼育が簡単になった。クワガタがとっても重要な昆虫だったら、ノーベル賞ものの大発見ですよ。

終章: 何でもいいから、生き物を相手にしよう
池田: われわれには本来、捕りたいという欲望があるんですよね。しかし、現代社会ではそういう欲望をストレートに出してはいけないことになっているから、どこかに歪みが生まれる。だから、いきなり人を殺したりするんだよね。
養老: 辛抱ができないんです。虫捕りに行けば、努力、根性、辛抱が絶対に身に付きますよ。「ちっとも捕れねえ」とかぶつぶつ文句を言いながらも、みんな辛抱するから。

新書版で200ページ足らずの本なので、是非ともご一読をお薦め致します。
以上です。

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著者略歴:
養老 孟司(ようろう たけし) 解剖学者
心の問題や社会現象を脳科学や解剖学を主軸に幅広い知識からわかりやすく解説する。著書: 『バカの壁』『唯脳論』など多数

池田 清彦(いけだ きよひこ) 生物学者
構造主義生物学の観点から生物学や科学の分野に留まらず様々な分野で発言。
著書: 『環境問題のウソ』、『昆虫のパンセ』など多数


奥本大三郎(おくもと だいざぶろう) 仏文学者
仏文学の研究、教育のほか日本昆虫協会会長、アンリ、ファーブル会理事長をつとめる。著書: 『完訳ファーブル昆虫記』など多数

 


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