難しいリグニンの分解

書評:『木材なんでも小辞典』

京都大学木質科学研究所 木悠会 編   講談社 


『木材何でも小辞典』


 

  この本を読んで内容を覚えれば、人から木材博士と呼ばれるようになるのではないでしょうか。(あくまでも、76もあるすべての項目を理解して記憶した場合です)

 新書版のサイズですが、350ページほど有り、かなりのボリュームです。木材全般に関する興味深い知識を、平易な文章で読みやすく書かれているところに、本著を編集した木質科学研究所のレベルの高さがよくわかりました。

 中でも私が興味を引かれたのは、やはりクワガタムシの飼育に関係する項目でした。項目66「キノコの力で紙を作る」、には木材から紙の作り方が記述されているのですが、木材細胞をバラバラにすることをパルプ化呼び、できた繊維の集まりをパルプと言うそうです。(さすがに、このぐらいの知識はクワガタムシの飼育を10年以上していると、なんとなく知っていました。)

 さて、パルプ(いわゆる紙と考えてください)を作るためには、木材をパルプ化しなければなりませんが、そのためにはリグニンと呼ばれる高分子の物質を分解しなければなりません。しかし、このリグニンを分解するのが非常に難しく、通常は160℃付近の高温で、強いアルカリ性溶液中で木材を硫化ナトリウムと反応させて、化学的処理によってリグニンを取り除いているようです。

 ただ、この方法では二酸化炭素を多量に放出したり、悪臭有害物が漏れ出す欠点があるそうで、もっと別の方法が研究されてきたところ、キノコの酵素でリグニンを分解することができることがわかったようです。

 最近ではよく聞くようになった白色腐朽菌(シイタケやヒラタケ等の担子菌)によるリグニン分解法がそれらしいのですが、リグニンと同時に木材の繊維の束を形成しているセルロースまで同時に分解してしまうため、工夫が必要とのことで、その内容についても詳しく記述されているのですが、ここでは必要がないと思われるので省略します。

 ところで、もう明らかなように、クワガタムシ幼虫を菌床飼育する時に利用する菌床のもととなる菌は、まさにこの白色腐朽菌です。それが、リグニンと同時にセルロースも分解してしまうことで、パルプ化には弊害となっても、クワガタムシ幼虫の飼育には最適であるのだと考えています。なぜなら、クワガタムシ幼虫等の食材性昆虫の栄養源となるのは、木材の細胞壁であって、それを構成しているセルロースをいかに早く消化吸収するかにかかっていると思われるからです。(個人的な考えです。)

 小島啓史さんの書かれた「クワガタムシ飼育のスーパーテクニック」では、幼虫の腸の中にはバクテリアが住んでおり、このバクテリアがセルロースを分解して栄養源にしているのだと思いますが、菌床飼育では、すでに白色腐朽菌がセルロースを分解してくれているので、わざわざセルロースを食べて消化吸収しなくても良いため、クワガタムシ幼虫にとっては、これ以上ない理想的な環境なのだと考えられます。

 内容がそれてしまいましたが、この本を読むことによって、こんな考え方も出てくることを伝えたいと思い、敢えて独断と偏見を承知の上で、記載させていただきました。

 以上です。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 


b-home3.gif (768 バイト) トップページへ