「 STAP細胞ねつ造問題の根深さを見た (その2)」

Jimmy


 先日のNHKスペシャル「調査報告 STAP細胞 不正の深層」は、素人が見てもその内容がよく理解できる、実に良く出来た番組であったと思います。今回は、「その2」として番組の後半についての感想をお伝えしたいと思います。

 理化学研究所(以下理研)の竹市センター長(以下竹市)は、取材記者のインタビューに対して、「99%の可能性がなくとも、1%の可能性が残る訳だから、やってみないとわからない。今の情報だけで結論出すのではなく、全解析してから結論出すのが正しい」と回答していました。つまり、STAP細胞の有無を徹底的に調べるために、国民の税金を使用して再現実験を行う訳です。しかも、最初は小保方さん(以下小保方)を実験には参加させないと言っておきながら、後でその言葉を翻し、小保方を参加させる(実質的には小保方本人のみに再現実験する機会を与える)ことにしたのは、皆さんも十分承知されておられると思います。

 しかし、これまで2年余りで200回以上実験に成功している人物に、4か月の猶予も果たして必要なのでしょうか。全くコスト意識が感じられません。まさに、国民の税金は湯水のごとく、どこからか湧いて出て来るような悠長さです。CDBのトップがこのような考え方では、いくら周囲が異議を唱えても、聞く耳などさらさら持っていないのでしょう。馬耳東風とは、このことを指すのだと思いました。

 さらに、川合研究担当理事(以下川合)は、取材記者のインタビューで「疑惑が表面化してから、すぐにSTAP細胞論文の調査を実施しなかったのが、仮にいけないことであると言うご指摘であれば、その発声はしなかったので、大変な罪かも知れない。だけども、解析には時間もかかりますし、それから一気に全部出来るわけでもありません。」と回答されていますが、冷静に考えてみると、本質とずれた回答にしかなっていないことが解ります。解析に時間がかかることが事前に予測できるのであれば、逆に疑惑が発覚してからすぐに調査を開始しなければならなかったのではないでしょうか。私には、その場しのぎの開き直りとしか聞えてきませんでした。(きっと、いつもの手口なのでしょう。手馴れているように見えました。)

 竹市、川合のこれらインタビューに対する傲慢な受け答えを見て、理研改革委員会が理研の解体を提言したのもうなづけると、改めて納得した次第です。

 STAP細胞ねつ造問題の当事者である小保方については、もはや論外として、その黒幕的存在だった笹井副センター長(以下笹井)にも、重大な責任があることを番組では再三に渡って指摘していました。小保方と違って笹井のような頭脳明晰な科学者が、あの稚拙なずさん極まりない論文を、何の疑問も持たずに加筆修正するとは、とても素人にも理解しがたいのです。

 笹井は、ノーベル賞クラスの超一流科学者でしたが、実業家としてもその手腕をいかんなく発揮して、ES細胞の研究開発等で理研CDBに多大な功績をにしたことはもちろん、今の神戸ポートアイランドにある理研CDBを中心とした産学官連携による「神戸医療産業都市」を創出した立役者、功績者であり、神戸市はもちろん兵庫県や厚生労働省にも顔が利く、大変重要な人物であったことは、いろんな情報を総合すると間違いのない事実であるようです。

 そのような、国や自治体からお金を取って来れる実力者が、もしもSTAP細胞疑惑のようなスキャンダルでその地位を追われるようなことがあっては、理研はもちろんのこと、地盤沈下の著しい神戸ポートアイランドを「神戸医療産業都市」として継続発展させ続けたい神戸市や兵庫県が黙って見ている訳には行きません。万が一にも、理研CDBが解体されるようなことにでもなれば、周囲に集まっている再生医療関連の民間企業まで大きな影響を受けることはもちろん、再生医療技術者の頭脳流出や、場合によっては失業者が続出し、神戸市が目論んできた構想もすべて水泡に帰してしまいます。そんな悪夢は起こしてはならないと考えていることは明らかです。

 実際、文部科学省を訪れた神戸市の久元喜造市長が、「地元自治体としても引き続き神戸で再生医療の研究をお願いしたい」と要請したのに応え、桜田義孝文部科学副大臣は6月19日、「解体がないよう協力したい」と述べ、解体に同意しない考えを示した。(桜田副大臣は、理研の改革を指導するため文部科学省が設置したチームの座長を務めています。)

 理研CDBの竹市や川合(いわゆるキツネとタヌキのようなもの)にとってはもっと切実で、笹井のおかげで今の自分達の地位と名誉が、将来にわたって安泰であるお墨付きを与えてもらっている訳でもあり、笹井が理研CDBを去ることなど、考えも及ばないはずです。万が一、笹井がいなくなれば、理研CDBも本当に解体される危機に直面するかもしれないし、自分たちにそれを阻止する能力など微塵もないことも十分承知していると思われるので、あらゆる手段と詭弁を駆使して笹井を守りに行くでしょう。その点で、小保方は非常に厄介な存在であり、笹井の名誉を気づ付けずに如何にして小保方を切り捨てるかが、直面する最大の課題でもあったと思います。

 つまり、神戸市や理研にとって、笹井は超一流の科学者であることはもちろん、国や企業からお金を取って来てくれる優秀なマネージャー、コーディネーターであった訳で、今や「神戸医療産業都市」と言う笹井王国を支えて行かねばならない大きな存在であることは、誰の目にも明らかだと思います。笹井の肩に、多くの人の生活が懸かっているのです。そして、きっと笹井自身もそのことを自覚していたはずです。

 もし、理研に小保方がやってこなければ、笹井の前途は洋々たるものであって、たとえ京大の山中教授にIPS細胞で一時先を越されたとしても、直に肩を並べることが出来たと思います。保育器の中で育った笹井は、小保方にうまく利用され、自らも含めてあまりにも理研の抱える裏事情を与え過ぎた(と言うよりも、巧みに聞き出されたのが正しいと思います。)ことが、あたかも坂道を転げ落ちる石のように、挫折と転落への道を突き進む結果になったのでしょう。そういう意味では、笹井の責任は重大であるけれども、ある面では最大の被害者でもあると思います。

 この感想を書いていた本日(8月5日)、笹井氏が理研内部で自殺をしました。

 笹井を失った理研、神戸市はこれからどうするつもりなのでしょう。いったいいつまで小保方の影に怯えた日々を過ごし、時間を引き延ばす作戦を展開することによって、世間の関心をそらせようとしているのでしょうか。世界中の科学者から色眼鏡で見られるようになった上に、権威まで失墜した代償はあまりにも大きいと言わざるを得ません。

 理研による世間を欺くSTAP細胞疑惑にも、そろそろ終止符を打つときが来たのではないでしょうか。いつまでもいたずらに結論を先延ばしにすることは、失った理研CDBの信用を二度と回復できないことを意味しています。国民の税金を食いつぶすお荷物集団として、これからも世間に恥をさらけ出し続けるより、自らの力で改革も出来ないぐらい腐りきっているのであれば、第三者の意見に素直に耳を傾ける努力ぐらいしても良かろうと思います。

 志半ばにして無念の死を遂げられた笹井氏のご冥福を心よりお祈りいたします。
 


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