昆虫を知ることは自然と仲良くなること

書評:『日本一の昆虫屋』

志賀 夘助著 ネスコ/文藝春秋

『日本一の昆虫屋』


  私は昆虫の標本を集めたり、自作したりすることがないので、詳しいことは知らないのですが、特に標本を作られる方には、志賀昆虫普及社の名前は有名だそうです。

 今でこそ、昆虫採集や標本収集は、お金持ちの趣味ではなくなり、誰でも楽しめるようになりました。しかし、昔はそうではなかったようです。

 明治、大正、昭和、平成と四つの時代を生き抜いて、苦しくて生きるのに精一杯だった小さい頃から、独立して会社を築くまでを、正直にありのままに、誠実に記述されております。

 「虫けらの商売」と言われて、バカにされ続けた時代があったことや、勤め先の主人に契約を破られたこと。そして、大切な一人息子を事故で失ったことなど、耐え難い苦しみや悲しみを、自力で乗り越えて来られた著者の文面には、誰しも胸が熱くなるのではないでしょうか。

 第二次世界大戦後は、採集用具や、標本をつくる商品開発にも力をそそがれ、初めにもお伝えしたように、昆虫採集家で志賀昆虫普及社の名前を知らない人はいないぐらい有名になられました。

 私が最初にこの本を読んだのは、1996年だったので、もう16年以上前になりますが、そのころはまだお元気だったものの、残念なことに2007年にお亡くなりになられました。

 最後に、著者が残された素晴らしい一文をご紹介して、締めくくらせていただきます。ぜひ、皆さんもご一読ください。

 「昆虫ブームが終わり、子供時代に昆虫採集の経験のない人たちが増えてきています。同時にいま、昆虫への興味が薄れてきています。そして、自然を大切にする、エコロジーブームです。

 しかし、昆虫採集がエコロジーに逆行している、というのは昆虫を知らない人の言い分ではないでしょうか。

 昆虫に興味を持つということは、自然の中に入り、草木を知り、天候を測り、自然と仲良くなることなのです。
 


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