里山という用語の名付け親

書評:『森に学ぶ エコロジーから自然保護へ』

四手井 綱英著  海鳴社


『森に学ぶ エコロジーから自然保護へ』


 
  「里山」と言う用語が使われ始めたのは、今から50年ほど前からだということを、初めて知りました。以下、著者の本文より引用致します。

 第一里山と言う用語はおそらくどの辞典にも載っていない。国語辞典(三省堂)には、里人、里道、里雪などはあるが、里山はない。もう少し大きい辞典で広辞苑(岩波書店)を見ても里山はないが、それに近いものに「里林」=里近くの林=と言うのがあるだけだ。

 確かに、私の持っている広辞苑(第三版)には、「里山」と言う用語は載っておりませんでした。しかし、本著が出版されたのが1993年なので、今の国語辞典や広辞苑には、「里山」と言う用語が載っているのかも知れません。

 さらに、本文より引用致します。

 そう言われて私が最初に使ったのは、山林か林業技術かの誌上で、当時「農用林」などと一般に呼ばれていた、農家の裏山の丘陵か低山地帯の森林を「里山」と呼んだことを思い出した。時代は昭和30年大の後半だったと思い、京大の林学の図書館で調べて見たのだが、どうにも見付けられないで今日に至っている。単行本としては、「もりやはやし」(昭和49年4月)に記したのが最初らしい

 (中略)

 林学では誰が付けたのか「農用林」と言うのが一般的だったと思う。しかし、この名は林学や林業にたずさわる人には分かっても、他の人にはおそらくぴんと来ないだろうと考え、奥山(これはどの辞典にもある)に対し「里山」はどうだろうかと思って使い出したのだ。

 (中略)

 まず定義をしなければならないと思うのだが、私が「もりやはやし」で記したように、森と林の区別がすこぶるあいまいなのと同様、里山に対する奥山も地理的に相対的なもので、どこまでが里山だと区切りをつけることはむずかしい。一応農地に続く森林、たやすく利用出来る森林地帯を指すとしておこう。


 著者は、里山が年を追う事に開発の名の下に無くなって行くことを、嘆いておられますが、確かに私が知る限りの里山も、次々と新興住宅街に変わって行くのを目の当たりにしています。

 こうして、カブトムシやクワガタムシが棲息する場所が、どんどん失われて行く現在、自然保護と称して里山を残そうとしても、私有地が大部分だそうなので、税金を払わなくてはいけないために、手放す人も多いのが現状のように思います。

 もう10年以上も前のことですが、私がよく採集に出かけていた里山では、シイタケの原木栽培が盛んで、そのためのほだ木を確保するために、積極的にクヌギやナラの木を育てられていました。そのおかげで、貴重なカブトムシやクワガタムシの発生源が残されておりました。

 しかし、最近は後継者がいないのか、原木栽培は次々と無くなっています。そう言えば、スーパーマーケットの野菜売り場にあるシイタケは、ほとんどが菌床栽培のものに変わっていたように思います。
 
 著者の言われるように、保護だけを叫んで見ても、所有する必要がないのなら、里山の維持はさらに難しくなるのかも知れません。


著者略歴: 四手井 綱英(しでい つなひで)
1911年、京都生まれ。 1937年、京都大学農学部林学科卒業。
京大教授、日本モンキーセンター所長、京都府立大学学長などを歴任。

著書: 森林の価値、生態系の保護と管理T、松と人生、もりやはやし、山と森の人々、日本の森林 等
  


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