《 「木」を食うのか「朽木」を食うのか! 》

書評:『きのこと動物』

相良直彦 著      築地書館

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『きのこと動物』 



 「君たちが良く知っているクワガタムシは、幼虫のときクヌギの朽木の中で育つが、〈木〉を食うのだろうか〈朽木〉を食うのだろうか。また、朽ち木と土の混じったところなどで育つカブトムシの幼虫は.....?」

 もし、朽木を食べるとしたら、「朽木」とはなんだろう。それは、おそらく、死木に、きのこ、カビ、バクテリアなどの微生物や原生動物、もろもろのムシなどが増殖した状態のものであろう。(本文より抜粋)

 大型のクワガタムシ成虫にするためには、幼虫を大きく育てなければならないことは、既にみなさんも十分ご承知のことと思います。そのために、如何にして幼虫を効率よく育てるかに全力を注がれているはずですが、その回答の一つが菌糸ビン飼育や菌が廻った飼育材による材飼育であり、または添加物を加えた発酵マット飼育だと言えると思います。

 大型個体の羽化率は、それぞれの飼育方法で異なるとは言え、幼虫が食するものは、木が変質したものであることに変わりはありません。 著者も本書で述べられておられますが、微生物が増殖すると言うことは、タンパク質が新たに合成されることに他ならないそうです。

 ご存じの通り、タンパク質を構成する主要成分は窒素です。動物は、窒素を有機物の形で摂取しながら育ちますが、クワガタムシの幼虫が食べる窒素は、このような微生物の姿をしたものではないかと言う、以前より持ち続けていた持論が、本書を読んで間違っていなかったように思えてきました。

 生化学や食品学の分野では、「菌体タンパク」と言う言葉が以前よりよく使われているそうですが、この現象を菌糸ビン飼育に当てはめてみると、幼虫は菌糸そのものを食べてタンパク質、すなわち窒素源を得ているため、効率よく大きく成長すると考えられます。何しろ、菌糸の細胞壁には、成虫の外骨格を構成するキチン質が豊富に含まれていることは、すでに明らかな事実です。材飼育についても、成長するスピードこそ異なりますが、同様の現象が起きていると考えても、差し支えないのではないでしょうか。

 それでは、添加物入りの発酵マットでなぜ大きな幼虫が育つのでしょう?

 家畜学者の中に、「微生物態タンパク質」と言う表現が使われているそうです。ご存じかも知れませんが、ウシやヤギ等の反芻動物は、草などを食べてそのまま消化利用するのではなく、胃の中で微生物を増殖させ、微生物の姿になったタンパク質を消化吸収し成長しているらしいのです。

 つまり、発酵マットは、草食動物の胃袋の肩代わりを前処理として行った飼育材料と考えられ、クワガタにとって微生物が豊富に含まれている良い食料であると言えるのではないでしょうか。添加物はあくまでも微生物を増殖させるための餌にすぎず、クワガタの幼虫が直接摂取しているとは考えにくいと思います。

 添加物については、小麦やフスマ、米糠などいろんなものが試されているようですが、菌床キノコ栽培に使用されている添加物は、コストを含めて最も効果的だったものが現在使用されているものだと思われますし、量産を考えず、コストを度外視すればもっと効果のある添加物もきっとあると思います。

 少し話がそれてしまいましたが、クワガタムシの幼虫が何を食べて成長して行くのかを考える上で、本書はたいへん興味深い一冊となるのではないでしょうか。ぜひ、ご参考にしてみてください。
 

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クヌギの枯根の中で育つクワガタムシの幼虫

 


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