ボランティアという陥穽(かんせい)

書評:『ゼフィルスの卵』

池田 清彦著  東京書籍 


『ゼフィルスの卵』


 
  この本は、この書評でもおなじみである構造主義生物学者である池田清彦さんの1998年から2007年までのエッセイを年代順にまとめられたものです。「池田節がお好きな方は既にお読みになったと思いますが、相変わらず昔から絶口調ですね!

 どこから読んでも構わないと思いますが、特に好きな2編のエッセイの一部をご紹介させていただきます。

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「ボランティアという陥穽(かんせい)」 

 キリスト教の伝統がない日本では、ボランティアと言うコトバは、本来の意味(ボランタリー・自由意志による)から少しく変質しているのではないか。

 小中学校の先生の資格(教員免許)を取る条件に介護実習をぎむづける法案が国会を通って、1998年度に入学した学生から適用されている。この法案を議員立法した張本人は田中真紀子氏(2012年12月16日に執行された第46回衆議院議員総選挙で、民主党から立候補し落選)で、その時の話では先生にはボランティアの精神が必要で云々といった議論がなされていたと記憶する。しかし、義務化すればそれはボランティアではなく強制労働である。

 はっきり言って、小中学校の先生が、他の職種に比べ、介護体験が特に必要ということはない。ボランティアという美名の下に、不必要な強制労働をさせるのは教員免許を取得しようとする人に対する一種のいじめであろう。

 最近は、先生ばかりではなく、小・中・高の児童・生徒にボランティアを義務づけようとしているらしい。半ば強制のボランティアは人間を下品にするだけだと思う。

 人間は本能的に快を追求し、不快を避けるものならば、多くの人はボランタリーな行為といえども、自分が楽しくなければやらないのだ。相手が喜ばなければ、自分も楽しくない。自分の行為を喜ぶ他人がおり、そのことをうれしいと思う自分がいる。自分が楽しいのだから、その行為はすでに無償ではないのだ。

 自分が楽しくてやっているのだから、このてのボランティア活動はとりたてて言うほど立派な行為ではないはずだ。釣りに行っても楽しい。ゴルフに言っても楽しい。ボランティアになっても楽しい。そうであれば、ボランティアは釣りやゴルフと同じである。

 私が気に入らないのは、ボランティアが釣りやゴルフより立派だという世間の怪しげな風潮である。ボランティアという美名の下に、ボランティアとは無関係な滅私奉公の精神を植え付けようとしたり、奉仕活動と称する強制労働をさせるのは、政治的な陰謀ではないか。

 人間は本当にやりたいことや、やってもらいたいことはお金を払ってもするものである。だから、本当に人に喜んでもらう労働はお金になるのである。

 ボランティアはただでサービスを提供するわけだから、消費資本主義の敵である。一部のボランティア活動は他人の商売の邪魔をしていることは確かである。消費資本主義の社会で一番重要なのは、お金を稼いだり使ったりすることだ、と言うことを忘れないようにして、どうしてもボランティア活動をやりたい人は、人に迷惑をかけないようにやるべきだと思う。

 感想):自分のためのボランティア活動だけは、止めていただきたいものです。

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「一番体に悪いのは年をとること」

 不平等極まりないこの世界で、生老病死ほど平等なものはない。これは世界にとって恐らく最大の救いであろう。

 数年経って,はたと気がついた。体を完璧な状態に保とうとするから、検査をして異常を見つけ、治療をしようとするのだ。完璧な状態に保つ必要がなければ、検査も治療も不必要ではないかと。そう思ったら気が楽になった。

 中高年にもなれば、体に多少のガタがきている方が正常なのである。完璧に健康でなければならないという脅迫観念にさいなまされるからストレスがたまるのである。

 成人病というのは、老化に伴う正常な状態なのである。だから基本的には治らない。一番体に悪いのは、タバコを吸うことでも酒を飲むことでもない。年を取ることだ。

 検査などしてもしなくとも死ぬときは死ぬのだ。

 病院には行かない。酒は毎日飲む。明日のことは考えない。とりあえず今日は生きているのだから、それでよいではないか。

 感想):私も53才ですから身につまされます。仕方ないと言うことですね!

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 この他

 何種もの外国産のクワガタムシやカブトムシの輸入を許可しておいて、逃げ出したら固有生物相を脅かすとさわぐのは愚の骨頂である。

 感想):まったくその通りだと思います! 放虫を止めるよう呼びかける前に、なぜ全面輸入禁止の措置を国がとらないのか、実に不可思議な構図ですね!

 

 著者略歴: 池田 清彦(いけだ きよひこ) 生物学者
1947年、東京都生まれ。 早稲田大学国際教養学部教授
著書: 『構造主義生物学とは何か』、『昆虫のパンセ』、『思考するクワガタ』、『分類という思想』、『外来生物辞典』など多数


 


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