クワガタムシ飼育の古典的名著  》

書評:『クワガタムシ飼育のスーパーテクニック』

小島 啓史 著 むし社

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『クワガタムシ飼育のスーパーテクニック』 


 私がクワガタ飼育に関する情報を得たのは、パソコン通信のフォーラムが最初で、そこで知り合った方とメール交換するうちに、『月刊むし』なる昆虫専門誌があることを知りました。

 なかでも、夏場に出る『クワガタ特集号』には、オオクワガタの採集と飼育に関する詳しい情報が満載されており、バックナンバーを取り寄せようと『月刊むし』編集部に何度も電話したものです。

 今はどうか知りませんが、当時はまだ藤田宏編集長が電話の応対に出ておられ、欲しいバックナンバーを告げると、「え〜と、あなたの欲しいのはクワガタ特集号のようですね! 復刻版しかない号もありますけれど、それでもよろしいですか?」との返事。「もちろん結構です。」と言うことで、代金の代わりに切手を送った記憶があります。  

 そうして取り寄せたクワガタ特集号を毎日毎日飽きもせず、それこそ丸暗記するほど読みふけりました。とりわけ興味深い内容のものが、皆さんもよくご存じの中村芳樹さんのミキサーによるマット作成方法や、小島啓史さんのオオクワガタの累代飼育報告で、私のクワガタ累代飼育技術の基礎は、中村さんや小島さんの報文によって成し得たと今でも思っています。

 今でこそ、菌床飼育が主流になった感がありますが、当時(約10年ほど前)はやはり発酵マットによる飼育がオオクワガタでも中心でした。発酵マット飼育と一口に言っても作成する人それぞれ微妙なノウハウがあり、今後も奥が深い飼育方法のひとつとして受け継がれて行くものと思っています。

 菌床にも当てはまることですが、発酵マットは生き物です。クワガタの幼虫に対してベストな状態で与えるには、よほどこまめに、かつ丁寧に発酵マット作りをしないと、かえって逆効果になるような気がします。発酵マット飼育が上手な人は、几帳面で根気強い人に違いありません。

 私が発酵マット飼育に成功したと思えるのは、幼虫の飼育数が30頭ちょっとだった頃で、作成するマットの量もしれていましたし、添加剤を入れない自然発酵が基本でした。それ以降、幼虫の飼育数が100頭を越えるようになってからは、必要となるマットの量も半端でなくなり、根気のない私はいつも適当にマット作りを行っていたため、未発酵状態で幼虫に与えるのが常態となってしまいました。結果は推して知るべしで、70mm以上も珍しくないと言われる南西諸島産ヒラタやツシマヒラタでさえ、60mm前後の個体しか羽化させることができなくなりました。

 その後、オオクワガタについては時流に乗って菌床飼育に移行したものの、ヒラタクワガタについては、その生態から発酵マット飼育の方が向いているのではないかと言う信念に基づいて、今も発酵マット飼育を続けてはいます。しかし、最近になってクワガタ飼育技術の壁にぶつかったと感じることが多くなりました。

 原因は、大量飼育によって幼虫のマット交換時期を逸したり、一度も交換する機会が取れなくなったこで、幼虫や成虫の生態を細かく観察することができなくなり、飼育技術にフィードバックできなくなったからだと自己分析しておりますが、それでも納得がゆかないところがあります。

 そこで、何かヒントになる情報はないものかと、これまで収集したクワガタ関係の書籍を調べ直したところ、小島さんの『クワガタムシ飼育のスーパーテクニック』が本棚にしまい込んだままになっているのを思い出したのです。

 オオクワガタブリードテクニック応用編として、人工飼料(発酵マット)飼育方法について詳しい記述があり、久しぶりに読み返して見たところ、小島さんの発酵マット飼育は、一般的に実践されている方法と少し異なっていることに気が付きました。

 それによると、小島さんの発酵マット飼育とは、未発酵の乾燥したマットに小麦粉等の添加剤を加えて半分ほどビンに詰め、その上に古くなったマットを加えて幼虫を入れるようになっています。つまり、事前に発酵したマットを幼虫に与えるのではなく、幼虫の成長とともに徐々に発酵させて行くと言う方法を取っているのが小島式発酵マット飼育だと言えると思います。添加剤として加える小麦粉は、マットを発酵させるときに使用する微生物のエサではなく、効率よくタンパク質を吸収させることを目的とするオオクワガタのエサとして使用するわけです。

 どうも、既に一般化した発酵マット飼育とは多少考え方に違いがあるように感じますが、小島さんはこの方法で大型個体を数多く羽化させた実績をもっておられるわけですので、まさに添加物を加えた人工飼料飼育の原点がここにあるように感じます。 

 幼虫の飼育方法として、もはや一般的になった発酵マット飼育ですが、昔からオオクワガタの飼育を独自に手がけられて来たプロやエキスパートの方には、周知の技術であったとも聞いております。しかしながら、そのようなノウハウの世界をわかりやすいようにまとめて文書化し、公開された小島さんの功績は大変大きいと思います。再読してみて、当時は気が付かなかった発酵マット飼育上のポイントも見つけることができました。さっそく、来年の幼虫飼育に役立てようと思います。

  


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