《 クワガタムシ幼虫の好物を研究しよう! 》


表紙

  書評:『木のひみつ』 
  京都大学 木質科学研究所編

               東京書籍



 

『木のひみつ』


 



正直言って、クワガタムシを飼育するまでは、木についてまったく興味などありませんでした。植木や観葉植物ならまだしも、木の性質などについては、まったくもって無知で、「そういえば中学校の理科で、師管や導管とか言う用語を習ったような?」と言う程度の知識しか持ち合わせていません。
その意味で、クワガタムシを飼育するようになって、木についての知識が増えたことは、喜ばしいことかもしれませんが、何の役に立つと問いかけられても、言い返すことができないのがつらい!
「まあ、趣味だから役に立つ必要などないな」と、開き直っています(^^)

 いきなり、言い訳から始まってしまいましたが、基本的にこの本は、木材の組成からその応用に至るまで、専門家がテーマ別に分けて平易な文章で解説している点において、専門知識のない読者でも簡単に読みこなせる内容となっています。
問題は、そこからクワガタムシの幼虫飼育に生かせる情報を、いかに読み取るかなのです。

 クワガタムシを飼育している人のほとんどは、いかにして短期間で大きな成虫を作り出すかに興味が集中していると思いますが、そのために基本となる材料は、材飼育であろうと、マット飼育であろうと、はたまた菌床飼育であろうと、木材に他なりません。
幼虫は木を食べて育っているのに間違いないはずですが、どのようにして木を食べて栄養を吸収しているのでしょう。

 この本によると、木材の死んでいる部分(細胞壁)などを食する昆虫を食材性昆虫と呼ぶそうで、クワガタムシの幼虫もこの仲間に含まれると考えられます。
細胞壁は、主としてリグニン、セルロース、ヘミセルロースの3つの成分から成り立っており、そのなかではセルロースが最も多く、約50%を占めていることが、これまでの研究から明らかにされています。
そして、クワガタムシの幼虫が、細胞壁そのものを栄養源として利用するためには、どうもセルロースをいかにして消化吸収するかが重要なポイントになりそうですが、セルロースを利用するには、超えなければならないハードルがあるようです。

 木は、このセルロースとリグニンが複雑に絡み合って構成されているため、あのように堅いのですが、木材を建物に例えると、セルロースは鉄筋に、リグニンはコンクリートにあたるらしく、容易に分解することができないようです。しかも、リグニンさえ分解すれば、残ったセルロースは簡単に分解できると言うものでもないらしいです。
つまり、クワガタムシの幼虫がセルロースを利用するためには、まずリグニンを分解して、さらにセルロースを分解しなくてはなりません。
クワガタムシ飼育の権威、小島啓史さんが論文に書かれているように、幼虫自体がセルロースを分解するバクテリア(細菌)などの微生物を、体内に住まわせて消化を助けてもらっている状態、つまり、消化共生系にあることも、ある程度研究で確認されているらしいですが、効率はよくないようで、リグニンの分解に関しては不明です。

 しかし、心配することはありません。幸運にも、この問題を一挙に解決してくれる生き物がいるのです。白色腐朽菌と呼ばれる微生物、簡単に言えばシイタケやヒラタケ、カワラタケ等のキノコと呼ばれるものが、それに当たります。このあたりのメカニズムについては、『ヒラタケの生産するリグニン分解酵素の検出試験』など、この本に詳しく説明してあるので省略しますが、リグニンを主に分解する菌や、セルロースを主に分解する菌、あるいは両方を分解する菌がいるようです。

 このように、幼虫の好む木材が、キノコによって腐朽したものであることに、やはり意味があったのです。
つまり、幼虫はキノコによって、木材が自分たちにとって食するに都合のよい状態に変化するのを、助けてもらっていると言えるのです。
しかも、オオクワガタの幼虫が好むキノコがあるということは、そのキノコが産出するリグニン、あるいはセルロース分解酵素と、密接な関係があるような気がします。
それでは、どの飼育方法がもっとも効率よく、リグニンやセルロースを分解できるのでしょう?

・材飼育では、できるだけ柔らかくなったものがいいのでしょうか?

・マット飼育では、できるだけ細かく砕かれたマットがよいのでしょうか?

・菌床飼育では、菌がよくまわっているのがよいのでしょうか?

ちなみに、セルロースはグルコース(ブドウ糖)と呼ばれる単糖が、直線上にグリコシド結合と呼ばれる独特の結合により構成されている高分子ですが、これを単糖にまで分解した状態がよいか、オリゴ糖程度の中間状態に分解したほうがよいかも問題となると思われます。

 さらに、セルロース以外にヘミセルロースと呼ばれる物質が、関与している可能性もあるかも知れません!
さすがに、リグニンは、幼虫が嫌う芳香族が含まれているので関係ないと思いますが、これらの答えを出す前に、まずこの本を一読ください。おのずと結論が出てくるはずです。
それは、もしかすると一般常識となっている飼育法で無いかも知れませんね

 


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