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今年の４月に河川敷へクワガタ採集に出かけた時のことです。さすがに去年から再三出かけているポイントでは、ちょっと面白くないと思い、もう少し遠出をして見ようと自宅から自転車で４０分あまりかかるところまで遠征しました。さすがに自転車で４０分こぎ続けると疲れて来たため、近くで良さそうなポイントはないか探しながらゆっくりと河川敷を観察していましたが、予想に反してなかなか良い場所が見当たりません。 「これは遠くまで出かけて失敗したな。」と後悔していたところ、かろうじて河川敷に小規模ながら雑木林が生えているところを見つけ、ひとまず今日はここで探して見ることにしました。その場所は、道路から川に向かって５０ｍほど歩いたところにあり、近くまで行くと意外と木が密集していたのですが、雑草も生えていたため思うように枯れ木や朽木を探すことが出来ませんでした。しかし、偶然良い朽木が見つかり、２０頭以上の幼虫が出てきたため、時間も忘れて必死に採集したせいか、さすがに疲れたので、しばらく休憩を取ることにしました。 すると、気が付かなかったのですが、背後から男の人が「何か宝物でも掘り当てているのですか？」と、笑顔で冗談交じりに声をかけて来られました。私はここでもし「クワガタムシの幼虫を探しているのです」と、正直に答えると、せっかく遠出して見つけた良いポイントを知られてしまうのではないかという不安が頭をよぎり、とっさに「はあ、ここでカミキリムシの幼虫を探しているのです。」と、嘘をついてごまかしました。 ６０過ぎの初老の男の人は、「なるほど、そうなんですか！」と、納得したようで、その後は適当に世間話をして１０分ほど過ごしました。 すると、その男の人は何気なく「あそこに見える小さな小屋みたいなところに、以前ホームレスの人が住んでいたのですが、可哀想に先行きを悲観したんでしょう、首を吊って自殺したんです。私は直接見なかったのですが、知り合いの釣り仲間の友人が見つけたらしく、何かぶら下がっていると思ったら人間だったらしいです。」と、唐突に話して来られました。それを聞いた私は驚いて、「ほう、ここでそんなことがあったのですか。確かに外からは見え難いし、寂しい場所ですものね。」と、あまり気分が良くない、出来れば知りたくない話を聞かされて、すっかり気分が落ち込みました。すると、その男の人は畳みかけるように、「ほら、あそこに木が見えるでしょう。あの木です。」と、指さすではありませんか。その方向を見てさらに驚きました。何と、先ほどまで私がクワガタムシの幼虫を必死で探していた場所だったのです。 「この辺りは、焼身自殺があったりして、地元では自殺の名所になってますわ。なので、地元の人はあまり寄り付かないところなのに、偶然あなたがおられたので、私も気になった次第です。でも、ここは珍しい野草が生えている場所でもあるので、そんなこと気にせず、私も春先になると、ちょくちょく採りに来るんです。」 そう言い残して、その男の人は、何事もなかったかのように、例の首吊りのあった木の方へゆっくりとした足取りで歩いて行かれました。私はその姿を目で追いながら、クワガタムシの幼虫探しを再開したのですが、どうもその件が気になり、その日は早めに引き上げることにしました。そして、何気なく先ほど聞いた場所を見てみると、もう先ほどいた男の人の姿はどこにも見当たりません。その木の向こう側は川に行き着くので、帰る時は私のいたところへ戻って来るはずなのに、その気配もありません。「どうしたのかな、もう日も傾いて薄暗くなりかけているのに、まだ熱心に野草を探しているのかなあ」と思いつつ、河原で用を足そうとそちらに出向いて行ったのですが、まったく人影もなく、釣り人も含めて誰ひとりいませんでした。ゾッとした私は、出すものも出さず大急ぎで引き換えし、採集用具を片付けるや否や、一目散に自転車に乗り、その場を去りました。 今から思うと、多分私がクワガタムシ採りに熱中するあまり、帰る男の人に付かなかっただけだと思うのですが、何とも不思議な体験をしたと思っております。 さすがに、それ以来その場所に採集には出かけていないのですが、ヒラタの幼虫が採れる朽木があるため、気にはなるものの、秋にはまた懲りもせずに出かけようと思っております。 皆さんも、いろんな場所へ採集に出かけられると思いますが、意外とそうした曰く付きのポイントもあるかも知れませんし、気が付いていないだけかも知れません。そう言えば、墓地の周辺などにもよいポイントが残されていますよね。以前、私が聞いた話では、クワガタムシが良く採れる、いわゆるご神木と呼ばれる木に、他の人が近づかないようにするため、呪いの藁人形を打ち付けたりすることがあるそうですが、罰当たりも良いとこですね。
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