螢火          螢火


螢火群舞 光跡を描き


溪間一望 幽境の如し


聞説 發光 戀の誘引なれども


哀れむ可し 落命 其の身に迫るを










螢火 けいくわ  ほたるの光。 夏の夜、群を
なして飛び交う螢火は、源平の合戰と傳えら
れてきたが、雌雄の誘引が目的と考えられて
いる。人間からみると、螢は風流の對象だが、
その生涯は嚴しい。たとえば、成蟲は、幼蟲
時代に蓄えた養分だけで生きており、時折、
葉にたまった夜露などをなめるだけで、何も
食べないという。

子孫を殘す爲に、夜露をなめるだけで飛び、
發光し、相手を探し、交尾し、雌の産卵に
至つても、その餘命は短い。

螢の生理的な壽命は、雄が平均十四日、雌が
十六日というが、實際は、蜘蛛等の外敵のた
め、雄は三〜四日、雌は五〜六日でしかない
という。特に、雄が、より短命なのは、發光
しながら、しきりに飛囘るので、それだけ、
外敵に狙われる危險が増すからである。

妖しげな光を點滅させて飛ぶさまは、夏の夜
の美しい風物詩として定着しているが、螢火
の實態は、儚い命の殘火なのだ。

光跡 くわうせき  動く光の通つたあ
とに、殘像として見える光の筋。

溪間 けいかん たにあい

幽境 いうきやう  浮世ばなれした物
               靜かな處

聞説 きくならく  聞くところによると

落命 らくめい  死ぬこと

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