2000/6/17 携帯電話

 電卓戦争というのが、昔あった。日本の数社のメーカが、血みどろの電卓の開発競争を行なったのだ。彼らは、一刻もはやく、安く、小さく、機能豊富な電卓を開発しようと、気が狂ったように戦った。

 やがて、敗者と勝者が明らかになり、電卓戦争は終わりをつげた。そのとき、闘ってきた企業は後ろをふりむいた。ところが、誰もいなかったのだ。つまり、最初に戦いに参加していた外国企業は、はるか後方に遅れてしまい、残ったのは日本企業だけになってしまったのだ。日本のライバル同士で戦っていたら、他の外国企業は問題外となってしまった。これによって、電卓は日本の製品といってもよい状態になってしまった。

 電卓戦争は、単に日本の独占をまねいただけではない。この戦争の中で、回路の集積化が一気にすすみ、それらの大量生産で価格が暴落した。安く、小さく、高機能に電子回路が大きく進んだのだ。

 本来ゆっくりと、進化するはずだった技術が、戦争であっという間に進化してしまったのだ。今の我々のハイテク技術は、このときの戦争の成果が大きく寄与しているのである。

 Windowsのおかげで、VIDEOカードや、CPUが高速化し、価格が大幅に低下したが、それは、電卓戦争時のものに比べれば小さい。

 しかし、電卓戦争と同じくらい、一気に、技術革新をうながしそうなのが、携帯電話戦争である。あっという間に、信じられないくらいに、軽く、安く、高機能になっている、凄まじいスピードである。

 携帯電話はあまりに普及したので、いかに神業が使われているのかが知られていないのだ。でも、我々、通信技術を少し学んだものであれば、恐ろしさがわかるのだ。

1.携帯はなんで位置がわかるの?

  携帯電話は、基地局と呼ばれる固定局と実は通信をしている。携帯電話、基地局が使う電波の力は大変弱くなっており、基地局の周りの一定の範囲でしか使えない。だから、電話会社は、何台も基地局を設置し、くまなく地域をカバーしなければならない。(大変なお金である)

  携帯から電話をするときには、その携帯に近い基地局が使用される。「お前の相手はおれがやる」「頼むぜ」と携帯と基地局が通信をする。もちろん、このときに、どの基地局の近くにいるかがわかってしまう。

  さて、携帯に電話がきた場合だ。携帯は移動できるから、どこにいるかが基本的にはわからない。でも、それだと問題がおきてしまう。どこにいるかわからないので、日本中の基地局から呼び出し電波をおくらなければならない。これはあまりに非現実的である。なぜなら、呼び出しなんかは、同時にいくつ発生しているかがわからないからである。

 このため、携帯の位置を「常に」おさえておかなければならない。だから、電源が入っていると、常に周囲の近い基地局と会話をしている。「おれは、今、あんたの管轄下にいる。だから、俺をよびだすときは、あんただけが呼び出し信号をおくってくれればいいよ」といった具合だ。

2.電話会社は大変なのよ。

  さて、前述したように、携帯電話会社は何個も基地局を設置しなければならないのだ。しかも、その基地局は、送信方式で別々に設置しなけらばならない。NTTもいつくかの種類を重複して設置している。アナログ式電話、デジタル式電話。

 でもIDOはそんなに生やさしいものではない。アナログに2方式あり、いずれの方式もIDOは基地局をもっている。さらに、デジタル、CDMA ONE..

 これは大変だ。渋谷センター街に、基地局を設置するのに、IDOは、IDO式、TAC式、デジタル式、CDMAONE式と4台設置するのである。やっかいなことに、電話の周波数も違うので、アンテナもことなってしまう。

 新方式の電話がでるたびに、日本中に基地局を新たに設置するのである。これはとてつもないお金がでていってしまうのだ。

3.なんで、電話ボックスに2本アンテナがたってるの?

 電話ボックスには、PHS基地局のアンテナがたっている。電波は直進するが、実は反射もする。すると携帯から基地局に電話が届く場合、直進してきた電波、2回ビルなどを反射してきた電波、3回...と、何種類もの電話がきてしまう。これらは干渉しあって、通信をしづらくさせてしまうのだ。

 で、2本たてる。いろんな電波が2本のアンテナに入る。そのアンテナは離しておいてあるから、入ってくる電波も違う。で、2本の電波の「平均」を取るのだ。すると、いろんな電波の干渉が相殺されるのだ。これを空間ダイバーシティとよぶ。

4.なんで携帯ってあんなに安いの?

 実は、携帯電話会社は、電話販売会社にいろんな形でお金をはらっている。当然、1台うれれば、販売の手数料が手にはいる。さらに、決まった台数を売ればまたまた、特別報奨金が払われる。だから、大量にうれば、大変なお金が入る。このお金を客に還元してしまう。つまり入ってきたお金を台数で割って、その分、割引きしてしまう。

 だからあんなに安い。

 でも、じゃあ、販売会社はどうやって儲かるの?という疑問が残る。実はもうひとつお金がはいってくるルートが存在する。

 売れた携帯を客が使う。すると通話料が携帯電話会社に入るが、その料金の数%が販売会社にバックされるのである。だから、販売手数料、報奨金などを客に全部やっちゃっても、使ってくれればその分、お金が何もしなくてもはいってくるのである。

 ただ、最近、「うれたことにして」販売手数料だけを取る、悪質業者がふえたため、見直しが行なわれているようだ。

5.電波って頭に悪いの?

 まだ、よくわかっていない。ただ、危険かも、という警鐘は、日本は数年おくれている。携帯がではじめたころから、携帯の電波は脳にダメージをあたえるので、危険かもという議論が米国では行なわれていた。ほとんど、その議論は日本には伝えられなかった。最近ようやく日本で言われ始めた。

 携帯の電波は弱いのである。でも、なんといってもほとんど頭に接した状態だ。電波はアンテナからの距離の3乗に逆比例する。だから恐いのだ。

 アナログ式の電話の周波数は、実は電子レンジの周波数とほとんど同じである。ですから、約1Wの電子レンジの電話で脳味噌をボイルされているわけだ。デジタルはさらに周波数は高く、そうはならない。でも、今論議されているのは、現在はわからないが何らかの悪影響が脳にあるのではないかといわれているのだ。

 結論は、まだわからない、あるかもしれない、ということだ。でもできるだけ、アンテナを伸ばし、脳からの距離を離しておいたほうがいいようだ。

6.携帯電話で進化した技術

 たとえば、「充電式電池」の技術だ。どんどん、携帯は、通話可能時間が延長されている。これは、本体の回路の省電力化も大きいが、電池の技術も大幅に向上している。メタルハイドライドの電池技術が寄与している。

7.私がすごいと思う携帯電話

 イリジュウムという衛星電話である。衛星ってのは1個しかない。あわれな電波しか発射できない。それなのに、その携帯電話をかけると、砂漠でもどこでも、上の衛星が、相手をしてくれるというのである。衛星はCSなどを見ればわかるが、「広い地域に、一定の電波を発射するのは容易だが、個々の相手をするのは苦手」なのである。

 財政的にうまくいかなったようだが、ぜひ、この素晴らしい技術開発を続けてほしいものである。

このテーマ続きます。携帯がモバイルコンピュータになるのは、ほぼ決定されたので、これからの情報化社会の大きなキーワードとなるからであります。