第一回 警視庁 特別捜査官 募集 応募体験記
1.投函
あれは今から6年前だったろうか。TV、新聞などマスコミがで次のように伝えていた。
警視庁が特別捜査官を中途採用する。コンピュータ犯罪を捜査する、専門知識をもつもの。有資格者を基本条件にして、採用試験を実施。採用時には警部補となる。
刑事...この響きがいい。SEをやっていた私はシステム構築の作業に「あき」がきていた。太陽にほえろになってみたい、というミーハー的、そして、都民のために身を犠牲にして働く、という純真的動機で、応募してみたくなった。
応募の基本条件が、特種情報処理技術者、システム監査などの上級資格をもっているものとある。すでに私は、業務のかたわら、情報処理関連のほとんどあらゆる資格を取得していた。これは問題なし。
気楽な気持ちで応募書類を取り寄せ、記入し投函した。
2.はじめの電話
職場で仕様書をかいていると、「伊藤さん、お電話です。XX様からです」だれだろう。しらない名前だ。「はい伊藤ですが」「あのー」すごい低姿勢の話し方の男性だ。声をひそめて話している。「...私、警視庁採用のYYと申します。伊藤様が今回の私どもの採用試験に応募されましたが、書類選考をとおられましたので、つぎの試験につきまして、連絡させていただきたく...」
うれしい。そもそも、試験会場までいけるというのがうれしい。「次の試験の詳細を郵送いたします。試験会場は、中野の警察学校となります。...」
送られてきた詳細を見ると、ものすごいハードな試験だ。朝早くから、夕方まで、ぶっとおしの試験である。情報処理試験など比較にならない。でも、試験は私は自信があった。
ところが、よく読むと、視力XX,矯正視力YYとある。まずい、私は片方の視力がおちていた。これでは、視力測定で落ちてしまう。
まずは、メガネドラッグに行く。んで、めがねを作ってもらう。(もってなかった)ここでショッキングなことを。「あなたの目は矯正しても、0.8くらいしかいきません。」
それからは、必死のトレーニングがはじまった。遠くをいつまでもにらみつける。毎日毎日。その結果、すこしは見えるようになった。しかし、とても合格ラインまでいかない。たちまち、第一次試験の当日がきてしまった。
2.一次試験
朝早く、中野にある警察学校で試験である。その前で受験産業が早くもビラをくばっていた。早いなあ。
会場に入ると100名はゆうに越す受験生が集まっていた。
試験開始、朝早くから、夕方までぶっつづけ。日本の情報処理関連試験ではもっともハードであることは間違いなし。しかし、私は当日、調子がよかった。その科目も、手ごたえ十分。これは絶対に合格だね、と自身があった。
さあ、身体計測、問題の視力検査だ。どんなことをしても。計測が終わり試験官がいった。「はい、矯正1.2。裸眼0.8」耳をうたがった。人間の必死というものは奇跡を起こすものだ。
完全に合格した、という自信があった。
数週間して、また電話がきた。同じ人、同じ口調だ。「伊藤様、一次試験合格しましたので、お伝えいたします。最終の二次試験は.....」
会場を聞いてびっくり。なんと桜田門の警視庁で行われるとのこと。
3.最終試験
地下鉄駅から、歩いた。TVくらいでしか見たことのない、各省庁が並ぶ。やがて、警視庁がみえてきた。立派な建物で門の両側に警官がたっている。そして、門の横にはおおきな「警視庁特別捜査官試験会場」という看板がたっている。うらっすごい試験だったんだなあ。
門まで行くと、門から入り口まで10名くらいの警官が道の両側にたっている。ちかずくと、背の低くがっちりした体格の刑事が無線機をもってちかづいてきた。「受験される方ですか?」耳がつぶれていた。「はいそおうですが」名前を確認すると、「どうぞ、こちらでございます」といって連れて行ってくれる。両側の警官達がさっと敬礼をする。
すでに感動していた。警視庁の警察官、刑事にVIP待遇をしていただける人間は多くあるまい。ビルに入ると刑事はいちいち、それを無線機で報告する。「今、候補生Aを連れて、1F廊下を移動中」「今、エレベータで上昇中」すごい。「まもなく到着」
大きな立派な部屋に到着。大型会議室というところであろうか。しかし、まわりには、歴代の警視総監の肖像絵がかざってある。「ここでお待ちください。」深々と礼をしていただいた。
受験仲間の数は....なんと、3人だった!!
あれだけ、大騒ぎをして、報道され、なんと候補者はすでに3人だったのだ。1人はひょろっとしている若く見える男性。もう1人は私より背が低い男。
この後の事に関しては詳細にかくことはできない。警視庁の内部のことに関することもあるからだ。まあ、この後、面接と詳しい身体検査がはじめるのだが、面白いことだけを書くことにします。
NEW!4.最終試験のおもしろかった事項の抜粋
ー 最終面接で ー
面接で聞かれておどろいたのが、「お付き合いしている女性の名前、連絡先を教えてください」でした。あれって、相手の女性を調査するんでしょうね。
2人の警察官が、面接の内容を全て筆記していました。
「最後に、言っておきたいことをどうぞ」といわれたので、自分の警察に対して思っていた熱い思いを話しました。警察の持つ使命へのあこがれ、今までの経験をぜひ都民のために使わせてください、云々。話しているうちに、感情が高まり、熱っぽくなっていきました。客観的に言っても、すばらしい回答だったと思います。あれほど、感動的に話せたのは生まれてはじめてでしょう。名演説でした。
面接室が、しーんとなり、3人の面接官の真中の方(制服でした)が、本当にうれしそうに、うなづいておられました。
「君は、もしかしたら、将来、暴力団対策にまわされるかもしれないよ」「採用になれば、刃物を持った男が向かってきたら、君は取り押さえなければならず、逃げるわけにはいかないよ」といわれ、大丈夫です、といってしまいました。自信がありますが、この面接では合格だったと思います。
− 最上階 −
まる1日の試験が終わり、受験生全員を、警視庁最上階につれていってくれました。360度のパノラマで素晴らしい眺めでした。警察官が、あれが皇居で...と説明をしてくれました。
そして「みなさん。もし、結果がだめでも、警察に対して、今後ちもご理解を頂戴できますように御願い致します。ありがとうございました」
受験生に対しても、ささやかなサービスだったんでしょうね。
− 発表 −
やはり電話が自宅にかかってきます。なんと、2ケ月後です。
「あのー伊藤様のお宅でしょうか」物凄く申し訳ない口調での切り出しでした。聞いた瞬間、「あ、こりゃだめだな」と思いました。そのときに、意地悪い気持ちになりました。「残念でございますが、今回のご応募はお気持ちをうけられないことになってしまいました....」「ええっ?ほ、本当ですか?そんな...」ととてつもないショックに感じているように、答えました。「あ、す、すいません、申し訳ありません!」電話をかけてきた人は、動揺したらしく、誤りまくっておられました。意地悪してすいませんでした。
TVでその後、採用証書の授与式をやってました。採用者は...1名でした。例のひょろっとしている人でした。
(完結)