くび

 不景気で多くの企業が一斉に人員整理計画を発表している。外資系企業では首なんぞ、日常茶飯事で、くびになるのなんか、こわくてやってられっかあー、てな感じであるが、日本企業で、それも今までは、終身雇用をうたい文句にしていた企業なんかもリストラ計画を発表しているので大変である。

 今回のハイテク日本企業のリストラはどうも腑に落ちない。だって、半導体市場が、激しく上下するのはあたりまえで、まもなく、ドカンと市場が冷え込むかも、なんてのは容易に予想できるはずである。それを、とんでもない強気の投資をして、アラ失敗!うらめに出ちゃった!さあ、首切りましょう!ていうのは納得できない。

 オオドジをやった張本人がまず、企業内で処罰されなきゃ、納得できないでしょう、従業員が。それに全企業が一斉にやりすぎです。あー、今まで、首きりたくてしかたがなかったんだよ、ちょうどいいチャンスだ、みんなでわたれば怖くないー♪それ、うちも遅れるな!1万人だあー、てなノリを感じる。今、放り出された社員がどういう目にあうか、労働市場に職が十分にあるのかを知らないわけではあるまい。

 それに、ある日本有数のコンピュータ企業の話しであるが、今までこの会社の社員はみな、安月給で、長時間労働でコキ使われてきたのである。それでも、社員はこの会社を愛していた。会社への「愛」が、この会社の恐るべきパワーの原動力だったのである。それを経営陣は理解できていないようだ。今回、首きることで、この会社のこのパワーは永遠に失われることになる。すなわち、社員が、「自分達は会社を愛していたのに、会社は便利な道具程度にしかおもっていなかった。わたし達は簡単に捨てられるのだ」とはっきりと理解してしまったわけである。社員も「我々も、会社を捨てて問題ないのだ」と察したわけだ。わたしはこの会社のパワーは大きく低下するだろうと思う。

 でも、こんなのはあくまでも、日本企業の話し。外資系では繰り返すが、首なんて、ごく普通の光景である。感傷などまったくおきないのである。さて、外資ではどのように首になるのかを説明しよう。

例1:

 朝、いつもどおりに会社に出社する。机の上にPCがない。あれ?これってどういうことなの?唖然としていると、警備員が「こちらへ」。別室で解雇を通告される。そのまま警備員監視のまま、私物をダンボールにつめこむ。送り状をつけて、「はい、ご苦労様でした」

例2: 

 朝、出社するとすぐ別室に呼ばれる。ここで解雇通告。1時間以内にオフィスから撤去するように言われる。机で荷物を梱包する。みんなが「お前、何やってんの?」「首になったんだよ」「え?冗談だろ?」梱包が終わったら、そのまま出口から出る。はい終わり。この間、基本的に、社員は解雇社員とは口をきいてはならない。

例3:

 重役の部屋に、その重役の上司がやってくる。上司「おい、かぎをかせ」かぎを取ると「でていけ」と会社から出される。もう、コンピュータキーがないので、入れない。これで終わりである。

 非常にあっさりしてはいるが、合理的ではある。地下室に閉じ込めたり、日本国中転勤させたりはしない。とっとと次の仕事をさがせということだ。その点、日本企業は、いまだに、中途半端で、「早期退職制度」などという制度をとっている。

 日本企業の就労者は、ほとんどは「離職することに大変な恐怖を感じる」だろう。でも、一度でも、転職すればたいしたことではないことはすぐに理解できる。我々、サラリーマンも、心を変えて、生きていくことである。社員は会社をいくら愛していても、企業は社員を愛してなどいないのである。これは日本企業も外資も同じである。面と向かって言うか言わないかだけの話しだ。確かに今、ほっぽりだされれば、大変であることは事実だ。でも、どうせ、いつかは、ほっぽりだされるのである。早く再出発できただけいいと思ったほうがいい。

 芥川竜之介の小説「河童」のように、首にされたら、他の河童の餌にされるわけではないのである。