給料以外

 わたしは会社員として勤めるときには、必ずひとつの鉄則を自分に課すようにしている。それは、「絶対に給料以外は求めない」である。

 会社員として、権限のある職務につくと、いろいろなズルいやり方ができるようになる。そして、給料以外の金銭、物品、便宜を手にいれることもできる。たとえば、企業には販売促進と呼ばれる部署があり、広告代理店など多くの業者をつかい、莫大な金を使う。このとき、この部署の責任者などは、自分の意向で業者選定、発注などができる。だから、悪い心構えの人は、簡単に業者などから、金銭などを受け取る。金銭でなくても、便宜や物品などを受け取るものがいる。常識はずれの接待を受ける。

 営業関連で、接待費などというものが使えると、多くの人間はこれを不正に使用する。自分の食事代、飲み代に、平気で会社の金を使う。わたしは、昼飯を全部接待費で申請しつづけ、とうとう上司に怒鳴られた課長を知っている。

 また、営業では、決済の済んだ支払い伝票の桁を増やすなどの手法を得意げに使っている自称営業のベテランもいる。

 公務員などでは、これはニュースなどで取り上げられる。もちろん犯罪行為である。

 システム構築をSI企業に依頼する。見積もりがでる。「おい、いつもどおり、200万くらい大目にだしとけ」といって、業者に大目の見積もりださせ、ハンコを押す。業者はその200万で彼らにいろんな便宜をはかるのである。

 ここまで、ひどくなくても、もっと小さい規模でも不正取得はよく行われている。スーパのバイトをしていて、商品を勝手にもっていって、夕食に使っている主婦もいると聞く。

 わたしは、馬鹿みたいに、こういう行為がきらいである。いや、生理的にうけつけない。これは道徳的にではなく、本能的に「こういうやり方でおいしい思いをしてはならない。結局損だぞ」と感じるからである。

 例えば、仕事で給料以外のものを受け取り、おいしい思いをしたとする。次に仕事をしたとき、「おいしい思いをしないと、損をしたような」気持ちになるだろう。つまり、命が汚れたのである。自分の飲み食いを全部接待費でおとしていたとしよう。そして、なんらかの理由で、そういうことができない地位になったとしよう。もう、自腹ではばかばかしくて、飲み食いできないはずだ。そして、なにやら、惨めな気持ちになるに違いない。

 サラリーマンで、薄汚い、さもしい(本人は気づいていない)行為を平気でするような人物は、常に「給料以外」を求めている。やがて、不正がエスカレートし、不正が発覚することになるのである。公務員ならマスコミの餌食となり、後ろ指をさされるし、会社員なら首がまっている。

 そして、一度、おいしい思いをすると、その人間はいかに場所がかわろうとも、その命の傾向は変わらず、また給料以外を求めようとするのである。常に会社の金を横取りできないかに知恵を絞っている。

 会社での努力は、すべて、正々堂々と「給料をあげるような」ものに使うべきなのである。

 この原則は、実は政治家にも当てはまる。政治家の収入は国からの給料だけにするべきで、それ以外にうまい汁をすってやろうと思うから、ハイエナみたいな政治家が増える。公務員も、給料と退職金だけにするべきで、足りないのなら努力して増やそうとすればいい。辞めても、莫大な金を別な会社で得ようとするから、国がうまくいかない。

 やめなさい。給料以外を会社で得ようとするのは。周りが迷惑だし、醜い。不正をやっている人間はバレていなくても、なんとなく「におい」が違う。