2000/8/14 アナウンス

 中学生時代、猛烈な早口で困っていた。なんとか直したいと高校時代に、「放送部」に所属した。放送部には、アナウンサー、朗読、番組作成の3つのグループがあった。私はアナウンサーになった。といっても、番組を作成するときには、番組作成のスタッフと共同で働くことになる。

 アナウンサーってなにやるの?学校の校内放送が主な仕事である。また、後で書くけど、NHK大会、アンデパンダン展でのコンテストにも参加する。

 アナウンサーって、どうやって練習するの?系統たてた練習プログラムが存在する。私のいた高校でのプログラムを紹介する。

1.「あ、え、い、う、え、お、あ、お、か、け、き、く、け、こ.....」と腹から声をだし、ゆっくり、大きな声で発生練習する。これがウォーミングアップとなる。鏡をみて、自分の口の形をみて、くせを治す練習も行なう。みんな練習を積むと、大変大きな声がでるようになる。近くのクラブから迷惑がられる。

2.「あーーーーー」と腹から大きな声をだして、できるだけ長く声を出す練習をする。最低でも30秒は出しつづけなければならない。

3.口のまわりをよくする練習として、「れろれろれろれろ...」と早く声を出す。

4.早口言葉集(100文程度はある)を、「ゆっくり、はっきり」読む練習を行なう。意外であるが、「阿波へ藍買い、甲斐へ繭買い」などはゆっくり読む方がかえって難しい。

5.代表的なニュース原稿を読む練習をする。ただ読むのではなく、「かかり」を意識し、正しいイントネーション、アクセントを学ぶ。「めりはり」も重視される。これがメインの練習といえるだろうか。先輩とマンツーマンなどで、みっちりとしぼられる。

6.NHKの大会前になると、更に、人前で話す練習、ニュース原稿を自分で作成する練習を行なう。5の練習もレベル、厳しさともに大幅アップする。

 野球部に甲子園があるように、放送部にも、年に一回の、1大イベント「NHK放送コンテスト」が存在する。アナウンス、朗読、番組作成の3つの部門に分かれ、審査員により採点され、順位を決める。

 まず、県大会があり、上位7名が全国大会に出場する。

 アナウンス部門は、県では、130名程度が参加する。高校で、2名が学校代表として参加する。会場には数百人の高校生が集まり、そこで、課題にそったニュース原稿を自分で作成し、壇上で読み上げる。10人程度の審査員がそれを採点する。

 2年生のとき、2名のうちの1名に選ばれ参加した。なんと、登場順番が1番!あがったよー。さて結果は、10位。もう1人の友人はなんと、2位!私は県代表にならず、友達1人が全国大会に出場した。(結果は入賞できなかったが)

 私はそこで引退。指導にまわる。顧問の先生に、なんで3年ででないのかを責められた。友人は3年になっても、出場、今度はなんと、県大会優勝である。その年は、番組作成部門、朗読部門とも優秀で、総合優勝もわが高校が勝ち取った。すごかったのだなあ。今になって考えると。よく、わたしのような、ろれつの回らぬ、早口の人間を10位にまで育ててくれたものだ。顧問の先生は素晴らしい人であった。

 そのレベルになると、原稿用紙1枚のニュースを、数千回も読む練習を、先輩、顧問とともに行なう。指導は非常に厳しい。ノイローゼになったりする。

 さて、私が2年になったとき、入学式が大騒ぎになった。なぜなら、TVの浅田飴のCMに出演した美少女が入学する、とわかったからだ。(覚えてますか?当時は評判で「...と日記には書いておこう」という流行語になったフレーズのコマーシャル)2,3年生男子が、集まって、彼女をひとめ見ようと、大騒ぎである。私はへえー、そうなんだ、と遠い世界に感じていた。どこのクラブに入るのかなー、...とこれも全校の話題だった。なんと、放送部にはいってきたのである。確かに、大変な美少女であった。髪の毛は長く綺麗で、目はぱっちりしていた。おとなしい子だった。

 私は3年で引退し、指導にまわっていたが、彼女は、2年になって朗読部門の代表になったのである。そして、顧問は「西ケ谷真美(彼女の名前)の指導担当は、伊藤とする」と指名してきたのである。

 今思うに、私ほど、ラッキーな高校生はいなかったのかも知れない。でも当時はそんなことにまったく関心がなく、彼女がうまくなってくれないとまずいとの責任感ばかりを感じた。

 放課後夜まで、休日とマンツーマンの練習が続いたのである。ほんと。

 さて、大会当日。彼女は朗読課題を的確にこなした。堂々たる朗読だった。会場も、「あの浅田飴の子」と評判になっていた。

 彼女の朗読が終わり、壇上から降り、会場の外の廊下にでてきた。私は迎えて「うまかったよ。ばっちりだ。おめでとう!」といった。突然、彼女の目に涙がこぼれてきた。わーっと泣き出すと、私の胸に顔をあずけてきたのである。そこは、廊下で参加者、見学者、先生方でごったがえしていた。そのど真ん中で、そのようなまるでドラマ、映画のようなシーンになったのである。私はどうしていいかわからず、2人はその姿勢のまま、2,3分ドラマの主人公を演じていたのである。まわりの人間が全員、私達を驚嘆(あきれかえって?)のまなざしでみていた。

 やがて、彼女が顔をあげ私を見た。涙でぬれた彼女の顔は....本当に綺麗だった。かわいらしくて、どきっとした。そのときになって、」はじめて、彼女に異性を意識したのであった。(なんて、遅熟な高校生なんだ!!)しまったあ。なんで、もっと優しくしておかなかったんだあ。後悔したが、後悔先にたたずとは、よくいったものである。なきじゃくりながら「先輩、ありがとう、ございました」彼女は、朗読部門で私と同じ10位になった。彼女は指導担当の私に感謝してくれた。

 彼女どうしているのかなあ。もう、おばさんになっちゃったんだろうなあ。子供ももう中学生くらいになっているんだろうか。