シャワーを浴びてさっぱりとした気分で自室に戻り、親の目を掠めて冷蔵庫からくすねてきた缶ビールを飲みながらノートPCを起動し、濡れた頭をごしごしとバスタオルで拭きながらブラウザを立ち上げた。
 まずメールチェック。ダイレクトメールが何通かと友人から一通。
 ダイレクトメールを即座にごみ箱に放り込んでから、友人からのメールを開いた。

『こんなの見つけたけど、お前……なんかあったのか?』

 気になる文面と共に書かれていたのは、一つのアドレス。
 何気なくクリックしてみる。
 ブラウザに表示された画像を見た瞬間、僕は口に含んでいたビールを思い切り吹き出してしまった。




 

 

 




welcome to my homepage

 

 

 

 



 





「なっ、なななっ、なんだこれーーーーーーーっ!!!」

 

 僕の視線の先には、乙女チックな花柄の壁紙。ポップでキュートなフォントで書かれた『私の彼のひみつ』というタイトルロゴ。


 そして………僕の笑顔の写真。


 しばらく自分の中の鏡の向こうの世界を現実逃避気味に彷徨ってみても、やっぱりPCのディスプレイには、笑顔の僕の写真が表示されている。
 かなり薄気味悪かったけど、まず管理人の名前を探した。どうやら『Y.Makishima』という人が管理人らしい。

 わい・まきしま……?

 誰だ、それ?
 使っているサーバーは有名な大手無料サーバーだったけど、メールアドレスはどこにも表記されていない。何で知らない人が僕のサイトなんか作るんだよ……。かなり引き気味ながらも、まず『せつなさマップ』と書かれたコンテンツを開いてみた。

 日本地図が表示され、至る所でハートマークが点滅していた。
 僕はしばらくの間、意味が分からずに画面を凝視していたが、あることに気づくと僕は硬直してしまった。


「うっ、うっ、うわあぁーーーー!!」


 ハートマークが点滅しているのは、札幌、青森、仙台、金沢、横浜、名古屋、京都、大阪、高松、広島、福岡、長崎だった。
 これって、これって僕が最近女の子達に会いに行ってる街ばかりじゃないかっ!!

 硬直状態から脱すると、僕はじっと画面を凝視した。
 考えろ、考えるんだ、オレ。これが何を意味しているか考えるんだああっ!!

 ハートの大きさが何段階かあって、ハートの色合いが青や紫や赤であること、そして点滅するスピードに違いがあることはすぐに分かった。さらにしばらく考えると、これは女の子達の状態ではないか、ということに気がついた。

 例えば、しばらく会っていない長崎の遠藤晶や福岡の松岡千恵のハートは激しく点滅していて、かなり赤い。しかし、この前会った横浜の星野明日香のハートの点滅はゆっくりとしていて、ハートも青かった。そして、一番多く会っている札幌の沢渡ほのかのハートは、他の誰よりも大きかった。


「これ………すげー便利じゃん」


 思わずそう呟いた自分自身を叱咤しながら、次の『彼のひみつ♪』とあるコンテンツを恐る恐る開いた。

 

 


「うわぁああぁああぁああぁああああ!!!!」

 

 


 そこにあったのは、詳細なデータと様々な場所で隠し撮りされた僕自身の写真だった。
 この前の試験の成績から始まって、他人に知られたら即座に名前を変えて誰も知らない場所で暮らすことを強いられそうな事柄までを詳細に記したデータと、自室のベッドで寝ている所から、説明しただけでこの話が18禁(しかも薔薇な人向け)になってしまうアレな写真まで含まれる隠し撮りだった。


 僕は弾かれるように立ち上がると、ベッドの下から机の下から本棚の裏からクローゼットの中から、とにかく部屋の隅から隅までをほじくり返すように調べ回った。


「ないっ、ないっ、ないっ、ないっ……どーやってこんなもん撮ったんだああああ」


 隠しカメラも盗聴器も、それに類するものは僕には見つけられなかった。
 ぐったりと椅子に座り込んだ僕は、最後の気力を振り絞って『愛の軌跡(はあと)』と
あるコンテンツをクリックした。

 

 


「うわぁああぁああぁああぁああああ!!!!」

 

 


 そこには、あの『あなたに会いたい』と書かれた手紙をみつけて困惑している僕の後ろ姿から始まっていた。

 

 沢渡ほのかとプールで泳いでいる僕

 安達妙子と再会した時に抱きつかれている僕

 永倉えみると七夕まつりを見ている僕

 星野明日香と花火大会をビルの屋上から見ている僕

 山本るりかと海でウインドサーフィンをしている僕

 森井夏穂とビーチバレーをしてへばっている僕

 綾崎若菜とボートに乗っている僕

 七瀬優と夜の学校のプールに忍び込んだ僕

 杉原真奈美に口についたソースをハンカチを拭ってもらっている僕

 松岡千恵が祭りで御神輿を担いでいるのに声援を送っている僕

 遠藤晶とクルーザーに乗っている僕

 

 あの手紙が元で再会した女の子達と会っている所が、殆ど全部隠し撮りされていた。

 

 

 


 極限まで精神的ダメージを受けた僕は、呆然としたまま画面を見つめていた。

 しばらくしてようやく現世に帰り着き、無言でURLアドレスをメモしてから、このサーバーを運営している会社のサイトに行って、プライバシーが思いっきり侵害されているので何とかして欲しいと書いたメールを出した。

 

 

 

 翌日の朝、僕は前から約束していた金沢の保坂美由紀に会うために旅立った。
 出かける前にもう一度あのサイトを覗いてみると、そこは既に全てが削除されていた。
 やれやれ。僕は一息ついてから、自宅を後にした。

 


 香林坊で待ち合わせた美由紀と昼過ぎに落ち合うと、近くの喫茶店に入った。
 今日は何を頼もうかなとメニューを眺めていると、美由紀がバッグの中の何かを探しながら僕に言った。

「私、この前ホームページ作ったんですけど、デリられちゃったんです」

 おいおい、デリられるなんて一体何やったんだよ……。
 美由紀は僕の引き気味な表情を気にすることなく、バッグからやけに高性能なデジカメを取り出すと、にっこりと微笑んだ。

 

「ねえ、トップ用に一枚撮っていいかしら?」



 <終れ>




【後書きにかえて】
本当にごめんなさい(平伏)

■サイトヲ・カヅキ <studio-airplus>
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“sentimental graffiti”はNECインターチャネル/サイベル/スタジオコミックスの著作物です





 う〜ん(^^;A
 実は美由紀って普段マジメな分、キレると結構コワイのかも・・・。
 何はともあれ、『例のアレ・2』がこうなってしまった以上、もう私たちとしては「楽しくやるっきゃない」ってな所ですかね。
 久しぶりにお腹から笑ったお話でした(笑)。
 サイトヲさん、本当にありがとうございました。m(_ _)m