バスに揺られて綴られてゆく柔らかい日々。
ガラスの向こうに広がるのはあくびをする程に長い季節。
過ぎ行く夏の終わりに君が見せたせつなさと優しいふり。
生きる事の悲しい意味を気付いてしまったあの夜。
でもさ・・・僕は君の手を強く握るよ。
僕は君の運命の人、なんだから。
<an autumn breeze>
「ダーリン、ごめんね・・・えみりゅんの我侭聞いてもらって・・・。」
「ん?いいんだよそんなの。それにさ、僕も一度行ってみたかったんだよね、遠野。」
子供みたいな笑顔が光となって僕を染める。
生まれたての気持ちに飾られた小さな灯火が胸の奥で暖かくなっていく。
鼓動が少しだけ早くなる。
永遠に続くような曲がりくねった道を過ぎて川の色も風の匂いも変わり始める。
せかすように手をひきながらバスを降りるえみる。
「ダーリン見て見て!!すっごい景色だよ!!」
季節の魔法で赤く染まった山々が目に飛び込んで来る。
彼女の暖かい頬に触れては消える冷たい秋風。
顔を見合わせ、大きく伸びをして深呼吸。
眠たそうな瞳に輝きが戻る。
「ちょぴっと冷たいけど気持ちいい風だね。」
「うん。それに、なんだか優しい感じがするよ。・・・静かで・・・郷愁っていうのかな。」
「ダーリン、詩人だね。」
「冷やかさないでよ。」
代わる代わる出てくる表情から僕は何を見つめてきたのだろう。
一人では叶えられない夢?
諦めかけていた日々?
一つだけ確かな事はどんな心の傷も彼女が笑えば救われていたこと。
「・・・えへへっ、ダーリンの手、あったかいね。」
同じ歩調、同じ呼吸で歩いていく。
そんな二人の心を重ねたこの時間がいとおしい。
秋のお日様を薄い雲が隠す。
寒さを増す秋風。
「・・・ねぇ、ダーリン・・・迷惑じゃ・・・なかった?」
「えっ?」
「だって、いつも我侭ばかり言ってるし・・・でもね・・・。」
臆病な気持ちが風に吹かれてえみるの儚い髪の香りを運ぶ。
答えを聞くのが怖くて次の言葉が崩れ落ちる彼女。
「我侭、か・・・確かにそんな風に思った事もあるよ。」
繋いだ左手にギュッと力が入る。
「でもさ、俺は君の運命の人だからね。」
天使が彼女に舞い降りて無邪気な笑顔の花が咲く。
「・・・そっか・・・そうだよね。ダーリンは運命の人だもんね!!」
「そうそう、えみるは笑顔が一番だよ。」
「ダーリン、えみりゅん思うんだ・・・ダーリンとならずーっと二人で歩いていけるって。」
秋風に乗り浮かび上がった二人の気持ち。
心と心を繋ぐ微かな光は繋いだ手の中で輝いていた。
雲が晴れて優しい太陽が顔を出す。
秋風がそっと二人を包んでいた。
光に満ちた日曜日はゆっくりと過ぎていく。
fin
あとがき
良くも悪くも人は変わり行く生き物だと思います。
変わる事に時間はそう必要ありませんし例えそれを望んでいなくとも変わってしまう物だと思います。
生きるという事は変わるという事と同じ事なのかもしれません。
けれどもし、誰かと共に変わり行くのなら・・・そう悲観する事ではありませんよね。
変わってしまう自分と生まれたてのままの気持ち。
俺の中で永倉えみるとはそんな女の子なのです。
正直言いますと少年の「僕は君の運命の人だからね。」の所にはもう一つ言葉がありました。
少し余分な言葉になると思いましたので無くしましたがきっとみなさんと同じ気持ちだと思います。
「全部が君そのものなんだよ。そんな君が好きなんだ。」
えみるにもちゃんと気持ちは届いている思います。
だからこそ彼女は少年の前で「えみりゅん」でいられるのですよね。
“sentimental graffiti”はNECインターチャネル/マーカス/サイベル/コミックスの著作物です。.★化け猫より
・・・くっ、くおおおおおっ。えみる、めちゃめちゃ可愛いじゃないですかあー!!<<(落ち着け)
と、言うか、こんなにも言葉が少ないのにじんわりと伝わってくるというのがいいですよねぇ。
私自身が最近えみるの暗いハナシを書いてるせいか、心が洗われたような気分になりました。
fukuさん、本当にありがとうございました。m(_ _)m