二人きりでの初めてのドライブ。
 強い日差しに照らされ、伸びやかに続いている海岸沿いの道路には逃げ水がどこまでも見えていて。

 逢うたびに募ってゆくこの気持ちは、もう誰にも止められはしないでしょう。






傾斜する心。







 海から離れ、山岳路へとハンドルを向けるあの人。

「ちょっと遠回りになっちゃうんだけど。」

 そんな不便にさえ、私は幸せを感じざるを得ないのです。
 一緒の時間がもっともっと続けばいいと単純に思えますから。

 木漏れ日とは言え周囲の明暗をかなり色濃く隔てているその緑のトンネルの中で、あの人は急に車を停めました。

「どうかしましたか?」

 するとあの人は視線をずうっと向こうの、狭いカーブの先へと走らせました。

 見れば大型の観光バスが対向車線でこちらの様子を伺っています。

 あの人は手元のレバーを操作して、・・・やがてバスは大きな弧を描きながらゆっくりとこちらへやってきました。

「狭い道だし、譲り合いは大事だよね。」

 そうあの人が呟く間にもバスは近づき、今ではその表情さえ見て取れる運転手さんがにこやかに右手を挙げて挨拶をしています。
 その横では若いガイドさんも、やはりにっこりと微笑んでいます。
 すれ違いざま、あの人も照れたように手を振っていて。

 そして私もつられて頭を下げたのです。
 なんとなく気恥ずかしいと言うよりも、私は感心していました。

 (そうですか、あの大きさのバスに道を譲る時は、こんなにも手前から停まっていないといけないのですか。)

 きっと、あの人の中ではなんでもないことなのでしょう。
 でも私にとっては何もかもが新鮮だし、それにいちいち嬉しいことばかりなのです。

「よーし、しゅっぱあーつ。」

 先ほどまで走っていた、真っ直ぐで綺麗な海沿いの道をひたすら速く駆け抜けるよりも、くねくねと曲がって時間のかかるこの道の方が、私はずっと好きになりました。

Fin.



“sentimental graffiti”はNECインターチャネル/マーカス/サイベル/コミックスの著作物です。.