装甲車のお話〜装軌式vs装輪式〜

■ストライカーの波紋
 以前にも書きましたが、世の中「装輪装甲車バンザイ」で統一されているといっても過言ではありません。あの米陸軍が8輪式装輪装甲車ストライカーを配備した事が如実に物語っているでしょう。
 何故、装輪式なのか。コストパフォーマンス、長距離展開が容易など理由は色々あると思います。米海兵隊がピラーニャ装輪装甲車をLAV装甲車として導入しているのも、それら理由によるものでしょう。逆に言えば米陸軍に装輪装甲車が無かったのが変だったのかもしれません。いや、コマンドー装輪装甲車が有ったはずなのだが、少なくとも最前線に投入される部隊には配備されていなかった。M113装甲車の下に位置する装甲車が装甲強化型ハンビー(ハマー)しかなかったのです。
 そこに登場したのがストライカー装甲車です。昨今のアフガニスタン、イラクでの戦闘でその必要性に目覚めたのか何なのかよくは知りませんが、とにかくも主要装備品の名前を冠した”ストライカー戦闘旅団”という名称を正式に名付けたのですから、装軌式に拘っていた(?)米陸軍も変わったものです。
 ただ、全部隊に配備する気はないようです。あくまでも急速展開専門のストライカー部隊にのみ配備するようです。
 やっと正式化された新型対戦車ミサイルシステム”LOSAT(照準線対戦車システム/Line of Sight Antitank)”の車体ユニットに選ばれたのは、M113装甲車ではなく多用途機動車のハンビーだったのですから、ストライカーを大々的に配備するつもりはないのでしょう。

 それでも「あの米陸軍(しつこい?)に装輪装甲車が!」「しかも新編主力部隊に!」ってな感じで各方面に衝撃を与えたのは事実でしょう。

ストライカー装甲車          LOSAT搭載ハンビー

■装輪式の利点と欠点
 利点は装軌式に比べ格段に安いことが筆頭でしょう。車種や生産数などにもよりますが、大体半額から三分の一程度で済みます。中にはもっと安いものもあるでしょう。
 次に軽さです。米陸軍を例に挙げると、M2ブラッドレーIFVは約27t。ストライカー装甲車は資料がないのでなんとも言えませんが、基本原型である8輪式ピラーニャVが約16tなので、仮に16tだったとしても、78tの積載能力のあるC−17輸送機であれば単純計算で最大4両は積載可能です。27tのM2ブラッドレーは2両しか積載できません。軽いということは輸送面でも利点となるのです。
 走行移動という面でも差があります。装軌式はキャタピラーという性格上、どうしても点検回数が多くなります。一般的(マニア以外)にはあまり知られていませんが、キャタピラーは数百キロもの走行に耐えられるものではないのです。しかし装輪式はタイヤですから、それほど気にする必要もありません。しかも路面がアスファルトだとキャタピラーはその駆動系も路面も痛めてしまいますが、装輪式はタイヤだからそんな事気にする必要もありません。
 また装軌式は構造上キャタピラーが外れたり損傷したら動けませんが、装輪式はタイヤが1つくらいパンクしても大した問題もなく走行できるというのも利点ですね。

 良いこと尽くめにみえる装輪式ですが、欠点もあります。
 最大の欠点といっても良いのが装甲の薄さです。装輪式という性格上、装甲を厚くして車重が増えるとタイヤがそれに耐えきれません。105mm砲搭載型10輪式ピラーニャ(採用国はない)が車体のみで約20t。同じく105mm砲搭載型8輪式センタウロが全備重量約25tです。これ以上重くなると何のための装輪式か意味が無くなるので、この辺が限界でしょうね。
 ただ、装甲の薄さは対弾性で分かるのだが、この辺の数字はマル秘扱いなので大まかな数字しか伝わって来ません。なんせマル秘扱いですから、たとえ雑誌などで12.7mm機銃に耐えられる、と書いてあっても、それが10mの距離から耐えられるのか100mの距離から耐えられるのか、その辺のところが書いてない場合が多いので正確なところは分かりません。
 でも大概は、4輪タイプの軽装甲車だと7.62mm機銃、8輪クラスでも前面12.7mm〜14.5mmクラスまでの攻撃に耐えられると言われています。なかにはセンタウロ装甲車のように前面装甲は20mm機関砲まで耐えられる、というものもありますが、これは例外的だと思います。
 当然、装軌式装甲車でも同じ状況です。大体は古いタイプで全面12.7mm機銃、最近のものでも20mm機関銃程度の対弾性だと思われます。
 繰り返しますがホントのところは分かりません。装輪式でも追加装甲を装着すれば防御力は上がりますが、それは装軌式でも同じ事です。しかし装輪式に追加装甲を施して重量がかさむと、それはそれで輸送面などで色々と問題も出てきます。
 とにかく、少なくとも素の状態では装輪式より装軌式の方が対弾性が高いのは間違いないようです。
 もうひとつの欠点が不整地走破性です。これはもう見ただけで装軌式の方が能力が上だというのは分かりますね。その欠点を補うべく、最近の装輪式は8輪式が主流なのです。それでも装軌式の方が有利だということに変わりはありません。


■結論
 機甲師団などで戦車と共に最前線で行動する装甲戦闘車(IFV)であれば、防御力・攻撃力・不整地走破性のどれをとっても装軌式装甲車が良いでしょう。しかし前線司令部など拠点防衛などに使用する場合などは装輪式でも充分だと思います。
 何をどのように配備するか、これはもうその軍隊の運用思想によるものだとしか言いようがないのです。出来うる限り乗員の命を守ることを優先するか、逆に展開能力やコストを取るか、それにつきるでしょう。紋切り型で装輪式は駄目とか装軌式は駄目だと一刀両断できる問題ではないと思います。

 次回につづく(?)
2003年12月31日更新