装甲車のお話〜共通化〜

■車体の共通化
 陸上兵器は、陸上を走るという特性上、車体の能力値というのはどれも似たような物です。そこで登場するのが車体ユニットの共通化(ファミリー化)というやつです。つまり、ひとつ基本的な装甲車(APC)を作ってしまえば、あとはその車体コンポーネントを利用して他の用途にも使用してしまおう、というものです。何故そんな事するかというと理由は簡単で、コスト削減、これに付きます。車体が殆ど同じということは、開発コストも調達コストも削減できます。また、整備員に対する教育も少なくて済みますし、共通部品が多いということはストック管理も容易になります。

 蛇足ですが、これは民間会社でも多用されています。
 例えば自動車。有名なところでは、トヨタの”マークU・クレスタ・チェイサー”のマークU3兄弟などがあります。これは兄弟車種として売り出してるので、車に詳しくなくても知ってる人が多いでしょう。また、車に詳しい人なら、日産のスカイライン・ステージア・フェアレディZのコンポーネントが同じだという事を知っていると思います。これ以外にも、クラスが同じであれば基本コンポーネントが同じ場合が多いです。

 そんなわけで、兵器の世界でも兄弟車種で対応するのはコストパフォーマンス的見地から言って当たり前の開発方法なのです。


■ピラーニャ・シリーズ
 共通化、すなわちファミリー化にもっとも成功した装甲車の代表格がスイス・モワーグ社のピラーニャでしょう。手元に正確な資料がないのでなんとも言えないですが、初期型のピラーニャTから最新型ピラーニャVの各種タイプや兄弟車、派生車を含めると全世界で恐らく4千両以上は生産されていると思います。
 ピラーニャには車体だけでも4輪から10輪までの各種タイプがあり、用途に応じて基本となる人員輸送タイプから105mm砲搭載タイプまで数多くの種類が存在します。このピラーニャを大量採用した国として有名なのがカナダです。モワーグ社からライセンス生産権を買い取り(GMカナダ社)、兵員輸送車をグリズリー、76mm砲搭載の火力支援車をクーガー、クレーン付き回収車のハスキー、8輪駆動タイプの兵員輸送車バイソン(アメリカ海兵隊LAV改修型)と、独自の愛称を冠して600両以上を配備しています。アメリカ海兵隊でも8輪タイプをLAVシリーズ(GMカナダ社)として700両以上を配備しています。また、先日一部マニアの話題に上ったアメリカ陸軍の新編部隊”ストライカー戦闘旅団”のストライカー装甲車も、このピラーニャの兄弟車(海兵隊LAV改修型)です。

 蛇足ですが、生産量も配備国もフランスのジアット社製VABシリーズの方が上だと思います。しかし何故か装甲車の代表格といえばピラーニャになるんですね。私に限らずそう思ってる人が多いと思います。雑誌とか見ると必ず代表格はピラーニャですからね。やはりアメリカと縁の深い日本に住んでるからなのでしょうかね。


■自衛隊における装甲車ファミリー
 自衛隊には共通化などというものは存在しません。いや、端折りすぎました。
 よく「自衛隊は共通化・ファミリー化をしていない」という話を耳にします。しかしそれは少し違います。87式自走高射機関砲のエンジン系・駆動系は74式戦車と同じです。同様に、87式偵察警戒車のエンジン系・駆動系は82式指揮通信車と同じです。もちろん全く同じでは有りません。ですが、流用はしているのです。
 問題はあくまでも流用レベルであり、ファミリー化と呼ぶに相応しいほどの共通化が目に見えて行われていない事なのだと思います。だれが見てもファミリーだと思うのは82式指揮通信車と87式科学防護車しかない。前述の87式偵察警戒車と82式指揮通信車は、搭載エンジンは同じなのに搭載位置が違うので共通化とは言えないレベルになってしまってる。しかもその後登場した96式装輪装甲車は、同じ小松製作所製造(自衛隊の装輪装甲車は全て小松)なのにエンジンを”いすゞ”から”三菱”に変更してしまっている。当初は「ファミリー化を念頭に各種装輪装甲車を開発する」という触れ込みだったのに、これでは「ファミリー化など考えていない」といわれても仕方ないでしょうね。もっとも、今ではファミリー化などという台詞はどこからも聞こえてこないが…。

 本当は96式装輪装甲車を開発して、そこから派生車種を作るべきだったのです。ところが最初に出てきたのは82式指揮通信車だった。私の想像ですが、兵員輸送装甲車は装軌式の73式装甲車や新開発(当時)の89式装甲戦闘車があるから、それ以外の装甲車は装輪式にしよう。そしてコストダウンのために共通化を念頭に開発しよう、と思ったのでしょう。もちろんそこには、一流の軍隊が保有する兵員輸送車は装軌式装甲戦闘車だ、という考えもあったでしょう。
 ところが現実には値段の高騰により89式装甲戦闘車は満足な数を揃える事が出来そうもない。だが歩兵の機械化は世界的な流れでもある。PKOという任務もでてきた。で、結局は装輪式を作らざるを得なかった。という感じではなかろうか。繰り返すが、私の想像です。

 取り敢えず、流用ではなくもう少し共通化をすれば、陸上自衛隊の兵器に対する非難も減るのではないでしょうか。是非がんばって欲しいものです。


 以上です。次回につづく(う〜ん…)
2003年12月11日更新