装甲車のお話〜装甲車の現状〜

■装甲車の世界パート2
 実のところ、装甲車をキャタピラー式か装輪式かで話を進めると装甲車の種類についての説明が出来ません。そんな訳で、主な略称の説明をしましょう。

*IFV
 歩兵戦闘車(Infantry Fighting Vehicle)の略称。
 30mmクラスの機関砲を装備した砲塔を搭載し、尚かつ歩兵を1個分隊(約6名程度)ほど乗車させることが出来る装甲車で、殆どが装軌式(キャタピラー式)である。車種にもよるが、20mm機関砲程度の直撃にも耐えられる耐弾性を有している。戦車と共に行動する事を前提に作られており機甲師団の中核を成す車種である。
 装甲車界のトップスターであるが、装軌式のうえ砲塔も搭載している外見上、兵器に疎い人々から「あっ、戦車だ!」などと言われる可哀想な車種でもある。
 なお、MICV(機械化歩兵戦闘車/Mechanized Infantry Combat Vehicle)とか、AIFV(装甲歩兵戦闘車/Armored Infantry Fighting Vehicle)という表現方法も有るのですが、私的にはどうでも良いのでIFVで統一しております。
 代表格として、M2ブラッドレー(アメリカ)、BMP−3(ロシア)、ウォーリア(イギリス)、89式装甲戦闘車(日本)など。

M2ブラッドレー(米陸軍)

*APC
 装甲兵員輸送車(Armored Personnel Carrier)の略称。
 歩兵を輸送する目的で作られた装甲化された車両。装軌式と装輪式が混在しているが、最近のトレンドは装輪式である。装軌式APCと前述したIFVとの外見上の違いは、車体上に砲塔は無く、12.7mmクラスの機関銃、あるいは40mmクラスのグレネードランチャーをむき出しのまま装備していること。装輪式は文字通り装輪(タイヤ)なのでIFVとの違いはすぐ分かります。ただし、装軌式・装輪式を問わず車種によっては1人用の小型砲塔を搭載したものもあります。
 歩兵による下車戦闘が基本なので、IFVのように戦車を補完する戦闘を期待するのは無理で、装甲もIFVより貧弱である。車種にもよるが耐弾性は12.7mm機関銃クラスの直撃を想定している。ただし、大型の砲塔を搭載していないので搭載歩兵の数はIFVより多い。
 最近は安価な装輪式が続々開発配備されており、近い将来においては装軌式APCは消える運命にあると思われる。
 代表格として、M113(装軌式/アメリカ)、BTR−80(装輪式/ロシア)、ピラーニャ(装輪式/スイス)、96式装輪装甲車(装輪式/日本)など。

M113(米陸軍)        ピラーニャV(スイス陸軍)
 

*AFV
 装甲戦闘車(Armored Fighting Vehicle)の略称。
 装甲化された車両を指す言葉。つまりMBT(主力戦車)もIFVもAPCも、これすべてAFVである。

 以上です。他にも略称は存在するのですが、これだけで十分だと思います。何故なら、略称・名称などは開発会社、配備国、使用言語あるいは時代によって変化するからです。極端に言えば、A国が30mm機関砲搭載型ピラーニャを「これが我が国の装甲偵察車です」と言えばそれは装甲偵察車なのです。実例を挙げれば、アメリカ陸軍はTOW対戦車ミサイル搭載型M113装甲兵員輸送車の発射装置を遠隔操作出来るようにしただけで、M901ITV戦車駆逐車と称しています。
 だいたい、この手の略称ってアメリカが発祥の場合が多いんだよね。つまり英語圏でしか通用しない場合が多いのです。ま、世の中そんなもんです。

 とはいえ、これでは如何にも手抜きなので少し違う角度から続けてみましょう。


*偵察車両
 APCと並び各国が力を入れて整備している車種。装甲偵察車、あるいは偵察装甲車などと呼ぶのが一般的。日本では偵察警戒車と呼ばれている。殆どの場合、APCの派生型であり、例えばピラーニャ・シリーズであれば4輪タイプを偵察専用として使用している場合が多い。アメリカではM2ブラッドレーIFVを偵察専用に改造し、M3ブラッドレー騎兵戦闘車として配備している。
 少数派だが、偵察専用車両を開発した国もあります。ドイツのルクス、スペインのVEC騎兵車、日本の87式偵察警戒車など(全て装輪式)である。
 任務は警戒監視から威力偵察まで様々で、30mmクラスの機関砲あるいは対戦車ミサイルを搭載している場合が多い。一部車種では、攻撃兵器は小火器のみとし、CCDやレーザー測定装置などの監視装置で隠密任務につく専用車種も存在する。また、105mm砲などの大口径砲を装備したAMX−10RC(装輪式/フランス)やセンタウロ(装輪式/イタリア)なども存在します。ただ、それらは偵察任務だけではなく、補給コンボイの護衛や対戦車任務など状況に応じて多目的任務に就いている場合が多いです。

*戦車駆逐車両(対戦車兵器搭載車両)
 文字通り対戦車戦を念頭に置いた車両です。これもAPCの派生型がほとんどなので、正面切って戦車と戦うなんて出来ません。戦法は、茂みや遮蔽地、あるいは窪地などに身を潜め、のこのこやってきた戦車をいきなり攻撃、あとは遁走という戦法が主流です。
 こっそり狙うというのが何とも卑怯な感じもしますが、高価な戦車を安価な車両とミサイルで撃破できるのでコストパフォーマンスは良いです。ただ、安価な対戦車ミサイルをわざわざ装甲車両に搭載するのも逆にお金がかかるので、車体ユニットも本格的なAPCを改造したものと追加装甲を施したジープなどを改造したものとが存在します。
 搭載兵器は対戦車ミサイル(ATM)が主流で、代表格としてM901ITV戦車駆逐車(装軌式/アメリカ)、ヤグアル2(装軌式/ドイツ)などがあります。

*対空車両
 これまたその名の通り、敵機を打ち落とすための車両です。専用開発されたものと、既存システムを簡単に改造し搭載したものとに大別されます。前者の代表格はゲパルト対空戦車(装軌式/ドイツ)、87式自走高射機関砲(装軌式/日本)、ADATS(装軌式/カナダ)など。後者は、LAV−AD(装輪式/アメリカ)、VAB−VDAA(装輪式/フランス)、93式近距離地対空誘導弾搭載高機動車(装輪式/日本)など。
 この手の兵器をいちから作るとなると莫大な費用がかかります。何故なら、本来飛行機を打ち落とすというのは非常に高度な技術が要求されるからです。元々1器の機関砲が1機の飛行機を打ち落とすなど不可能に近く、数台で段幕を張って打ち落とすのが正しい運用方法なのです。そういう意味ではドイツのゲパルトは、これまでの概念を打ち破ろうとした先駆者として称えられ、その功績大きいと思います。が、二番煎じの87式自走高射機関砲(日本)はゲパルトと同じ機関砲を使い車体は74式戦車の流用であるにも関わらず、射撃管制装置の配置に手間取り非常に高価になってしまった。当然数を揃えることが出来ずに中途半端な存在になってしまっている。まぁ、高価格による配備数不足はゲパルトとて同様ですが。
 結局、現在の主流はミサイルシステム搭載型で、個人携帯型のスティンガー対空ミサイルなど既存の兵器を車両搭載用に改造搭載しているものが多いです。また、同じお金をかけるならと、ADATSなどは対空・対戦車両用ミサイル・システムとなっています。

 以上です。次回につづく(マジ?)
2003年12月5日更新