装甲車のお話〜装甲車の現状〜

■戦車と装甲車

 陸の雄”戦車”。陸戦兵器の花形であり、兵器に詳しくない人でもその存在は知っています。チャレンジャー2そして戦車といえばキャタピラー。何故キャタピラー(装軌)なのか。それはその不整地走破性と重装甲からくる車重を支えるための、最高の組み合わせだからだと思います。装甲車の車体に戦車砲を搭載した車両も有るにはありますが、それらが主力戦車として装備されている国があるという話は聞かないので、戦車はキャタピラーだと思って間違いないでしょう。(右画像:英陸軍チャレンジャー2戦車)

 一方、”装甲車”といえば、これまた戦車に次ぐ主力兵器であり、兵隊の輸送には欠かせないものです。ところが装甲車の世界は戦車とは違い、キャタピラー式(装軌式)と装輪式が混在しています。装軌式装甲車の存在理由は、その不整地走破性と装輪車より大重量に耐えられる(すなわち防御能力が高い)車両に歩兵を搭載することによって最前線に比較的安全に兵隊を投入することが出来る事。それと、ロケット弾やATM(対戦車ミサイル)などから戦車を兵隊が守る相互防衛のためでしょう。
 では装輪式の装甲車、いわゆる装輪装甲車はどうなのか。トラックとかジープ、あるいはハンビー(ハマー)などといった一般車両とそう対して違わない車両も存在しますが、戦場ではどこから弾が飛んでくるか判りません。少なくとも前線では出来るだけ装甲車を使用したいはずです。そこで登場するのが装輪装甲車です。装輪式は装軌式よりコストも安く構造も簡素で、何より装軌式よりも一気に長距離を移動可能です。そんなニーズに応えるべく装輪装甲車が存在しているのだと思います。


■装甲車の世界

 先にも述べたとおり、装甲車の世界には装軌式(キャタピラー)装甲車と装輪装甲車が存在します。装軌式装甲車と言って思い浮かべるのは”歩兵戦闘車”で、装甲車界の頂点に君臨する車種です。元々装甲車は、最前線まで兵隊を安全に輸送する手段として発達してきました。それが運用思想の変化に伴い次第に重武装化し、今日の”歩兵戦闘車”が出来上がりました。(もちろん歩兵戦闘車以外の装軌式装甲車も存在しますが、ここでは割愛させていただきます)

装軌式装甲車(英陸軍・ウォーリア)/装輪式装甲車(米海兵隊・LAV-25)
装軌式装甲車(英陸軍、ウォーリア) 装輪式装甲車(米海兵隊、LAV)

 一方、装軌式以外では、世界的にはピラニア(ピラーニャ)装輪装甲車などがその代表格でしょう。装輪装甲車は、値段の高いキャタピラー式戦闘装甲車を配備できない国で重宝がられています。あるいは海兵隊など、迅速な展開を任務とする部隊などにも配備されています。
 装輪装甲車の世界は非常に多岐にわたります。このピラニアを例にするとよく分かります。ピラニアには本来の装輪式戦闘装甲車という車種以外にも、戦車砲や対戦車ミサイルを搭載したものから120mm迫撃砲を積んだもの、対空ミサイルを搭載したものなど様々です。車体ユニットは全てほぼ同じなので整備性や補給性も高く、色々な用途に配備可能です。なにより価格を低く抑えることが可能となります。開発会社の先見性と販売戦略がよく分かりますね。
 なんだかピラニアの宣伝のようになりましたが、私が言いたいのはそれだけ装甲車の使える用途が多いということなのです。


■一般的な評価と現状

 世界の装甲車(仮名)とか、軍事研究とか、その手の雑誌類を読むと装輪装甲車への評価というのがおしなべて同じであることが分かります。簡単にいうと「装輪装甲車バンザイ」です。世界的にもこの評価は一様な感があります。この評価が、ほんの十年ほど前まで陸上自衛隊の兵器に関する酷評の一翼を担っていました。その酷評に耐えかねたのか、あるいは妥協したのか、現在自衛隊では92式指揮通信車や96式装輪装甲車などといった装輪装甲車が配備されています。そして何と、これまでコマンドーシリーズ以降、まともな装輪装甲車を配備していなかったアメリカ陸軍でも新型のストライカー装輪装甲車が配備されました。
 この様に、装輪装甲車はコストパフォーマンスの高い兵器として、ますます勢力を拡大しているのが現状です。


つづく(えっ!?)
2003年11月11日更新